アルファを助けて数ヶ月が経過していた。その間にアルファは他の悪魔付き、つまり七陰を集めてきていた。ここまでは原作の予定通りに進んでいる。
僕は原作をあまり壊したくはない。けど、救える人は救いたいと思っている。犠牲は少ない方がいいに決まっている。
「シャドウ様!」
「ベータ」
廃村に到着すると僕を出迎えたのは銀髪エルフの「ベータ」だった。数日前は目の下にクマを作っていたけど、前世の物語を教えるとよく眠れて寝不足は解消したようだ。
僕は鞄から本を取り出してベータに渡した。僕が記憶している物語を書いたものだ。ちょっと前に渡すと約束していた。
「新しい物語ですか!?」
「うん。今度のは眠ったきりの姫と毒みかんの魔女だよ」
「ありがとうございます!」
ベータはさっそく本を開いて物語を読み始めた。どんだけ好きなんだよ。まあ、それは知っているんだけど、ここまでとはちょっと驚きだ。
「シャドウ様!」
「イプシロン」
続いて出迎えてきたのはツインテールが似合っているエルフの「イプシロン」だった。今は幼いので問題ないけど、大きくなっていくにつれて胸を盛るんだよな。
僕は巨乳でも貧乳でも好きなんだけどね!でも背伸びする女の子は可愛いよね。でも盛り過ぎはどうかと思うけど。
「主様!またピアノを教えてください」
「わかったよ。なら月光でいいかな?」
「はい!」
音楽方面で圧倒的な才能を見せるイプシロン。パクリで有名なんて、思いもしなかったんだろうな、原作シド君は。
それにしても流石はイプシロンだよな。いい所のお嬢様だけあって、ピアノなんてお手の物だ。
しかし前世の僕はピアノなんて触れたことはない。しかしこの体の前世だった人物の記憶か、ピアノを前にすると勝手に体が動いてくれる。
「どうしてシャドウ様はこのような素晴らしい物語をたくさん知っているんですか!?」
「これも陰の叡智ってやつだよ。ベータ」
「なるほど!」
ベータ君、それで納得するのはどうかと思うんだけど?でも当人が満足しているなら別にいいか。ベータは僕が少し脚色した物語をもの凄いスピードで読んでいる。即読みする気か?
「シャドウ様の指はまさに至高の領域に至っています!」
「そんなに褒めても何も出ないよ?」
「そんな!私は事実を言ったまでです!」
「ありがとう。イプシロン」
褒められるのは悪い気はしないな。実家で埃を被っていたピアノがイプシロンが使ってくれて、喜んでいるだろう。最初、両親は姉に与えたものだけど、姉は魔剣士の道に本格的に進むとピアノを倉庫に仕舞った。
「そういえば、ベータは最近眠れているようだね?」
「はい!これもシャドウ様のおかげです!」
「それなら良かったよ」
最近、廃村を訪れるとベータの顔に隈が出来ていた。原因は悪魔付きの子を助けるためとは言え、人を殺すことに対しての不快感だった。
誰だって好き好んで人殺しなんてしたくはないだろう。ベータは殺した人間が夜な夜な夢に出てくるから寝不足になっていた。
だけど、僕が前世で知っている物語を聞かせると寝不足は解消して隈は顔から消えた。
「イプシロンは前よりいい感じだね」
「ありがとうございます。これもシャドウ様のおかげです」
「イプシロンの努力の賜物だよ」
「シャドウ様の教え方が上手だからですよ」
それにしたってイプシロンの音楽系の才能は目を見張るものがある。将来、芸術方面で活躍するのは納得してしまう。
もう僕が教えられることなんてない。楽譜でも書いて渡せばすぐにでもマスターするに違いないけど、イプシロンはシャドウから習いたいんだよな。
それにしても音楽と陰の実力者は本当に相性がいいと僕も思う。地下で羽が舞う中で月光は最高に決まっていた!
「今から練習した方がいいだろうか?」
「シャドウ様?」
「あ、なんでもないよ」
おっといかんいかん。今はイプシロンの方に集中しないと。それからしばらくしてベータは本を読み終わったようだった。
うっとり顔で幸せを噛み締めているようだった。そんなに良かっただろうか?自分では結構、がんばって脚色したから変になっていないか心配していたんだけど。
「素敵でしたシャドウ様。最後の方なんて、感動しました!」
「そう?また来た時にでも新しいのを用意しておくよ」
「はい!楽しみにしています!」
それから僕は時間が許す限り、ベータとイプシロンの相手をした。今はそれほど喧嘩しているようには見えないけど、将来に体のある部分で壮絶な戦いを繰り広げるんだろうな。この二人は。
「そこには触れない方がいいか……」
特にイプシロンは体格を気にするようだからな。真の実力者はその辺りは分かっているつもりだ。僕は絶対にそこには触れないように誓いを立てるのであった。
さて、ベータとイプシロンのために新しい物語と音楽でも考えておくか。僕は帰ってさっそく作業に取り掛かった。