ある男がいた。
その男は願った、己の最強を。
きっかけはどうでもいいことだったかもしれないし、大事なことだったのかもしれない。今となってはまるで分からない。だが、誰よりもそれに焦がれた。
幼い頃から血反吐を吐くような鍛錬をした。
肉親の遺した財産で世界各地をまわり、あらゆる武術、武器術を我が物とした。
体が言うことを聞かないときは武術の教本、怪しげな魔術本、バトル漫画まで、強さを得られそうな本を片っ端から読んだ。
人間の限界など知らぬと、まだ先があるはずだと、才能の壁などいくらでも超えてやると、そうやって彼は走り続けた。
ただ、彼は己の全てを強さに捧げたのだ。
しかし、そんな彼は病によりあっけなく命を落とした。道半ばで息絶えた彼はその死に際ですら強さを求め、心の底から願っていた。
「……わたし…は…! かな…ら…ず…! さい…きょうに……」
腹の底から叫ぶ。命が尽きる前に。いや、命が尽きたとしても。この願いだけは死んでも叶えると。その意志を込めて。
「なって見せる!!」
その男は死して尚、最強を求めた。
その願いが天にまで届いたのだろうか。それとも男の凄まじい執念が天に逝くのを拒んだのだろうか。男の魂は記憶を殆ど失いながらも転生を果たした。
―BLEACHの世界へ
◆◇◆◇◆
その日、ソウルソサエティに異変が起こった。
原因は一人の小さな魂魄の誕生。
とある村で生まれたその少女は、異常に頑丈な肉体と莫大な霊力を持っていた。彼女の親は少女に深い愛情を与え霊力を持つために空腹を感じてしまう少女のために貴重な食料をかき集めた。その甲斐あって、少女はすくすくと育った。
しかし、成長とともに増す余りに強いその力は少女を守る盾でありながら周りを犯す毒であった。
―――そしてついに増えすぎた霊力を少女自身が抑え切れなくなり、少女は自らの肉親を、自らの生まれた場所に生きていた人々を、自らの無意識に垂れ流される霊圧で圧殺してしまった。
◇◆◇◆◇
私の名前は中野ハクナ。年齢は分からん。突然だが、私には前世があるらしい。まぁ前世については修行していたことしか覚えてないが。ともかくそれのおかげで私は赤子の時から言葉が分かった。そして、自分の異常性にも気がついた。霊力と呼ばれるかなり珍しい力を持ち異常な肉体能力を持っていた。そしてうっすらと覚えている前世。最強を求めた日々の記憶。幼い頃からはっきりと自我があるように振る舞い、異常な力を持つ人間。普通は迫害されたり不干渉を決め込まれたりされるだろう。大凡の人間は自分の理解の及ばないものを許容できない。
しかし、そんな異常な私を、愛をもって育ててくれた肉親がいた。可愛がってくれたご近所さんがいた。とても温かい、大切な人々だった。紛れもない善人だったのだ。それなのに、そんな人々を先日私は――殺してしまったのだ。
……これは私が一生背負っていく業だ。人でなしの私は自分を愛してくれていた人々を殺したこの力で、多くの人を救わなければならない。そして、最強にならねばならない。そうでなければ、あの人達の死は、苦しみは、全くもって無駄なものになってしまう。
あの人達に意味があったと証明するため、あの人達の存在を無かった事になどさせないため、私は彼らの死を忘れず人を救わねばならない。
そんな私だが、今は武者修行のため、ここらで一番治安が悪いと聞く『更木』という場所に来ている。
ここはいい。霊圧を自力で抑えられるようになった今、自分は傍から見ればただの幼い子供だ。その上、綺麗な白い髪に赤い切れ長の目。客観的に見てかなり見栄えは良いだろう。少なくとも私はそう思う。着物も決して悪い物ではないし、洗濯もきちんと行っている。何処かいいとこ出の女が紛れ込んだと思われているのだろう。攫って金に換えようとしているのか、治安の悪いこの場所であればどんどん悪党が寄ってくる。ここには悪党しかいないのだろうか。
まるでよく覚えていないだけかもしれないが、前世ではこういう実戦はあまり経験出来てなかったと記憶している。だからこそ、ここはいい。好きなだけ暴れられるし、身体も鍛えられる。経験も積める。時々ではあるが、なかなかいい猛者とも戦える。
前世の私の好きな武器だった刀も手に入れることができた。しばらくはここで過ごそうと思う。
◆◇◆◇◆
それからは鍛錬の日々だった。四六時中私を狙ってくる悪党共を蹴散らし、身体の鍛錬と徒手空拳の型と剣術の型の確認、腹が減れば悪党から奪い、眠たくなれば木の上で10分だけ眠る。
霊力の特訓も欠かさない。肉体の内に眠るその力を、肉体の強化や身体機能の補助に当てる事で日頃から制御能力を高める。
新たな技術や応用技の開発も行う。
前世の修行時代以上に鍛錬漬けの毎日。日に日に己が高まっていくのを感じ、より一層修練に励む。そのような生活を続けた。
そしてその生活を始めてしばらく経ったある日。
その日私はいつものように散策しながらチンピラ共を蹴散らし、食料を強奪していた。
十分腹も膨れそろそろ鍛錬に戻ろうとした私は、急に猛烈な殺気を感じた。全身の毛が逆立つような殺気だった。只者じゃない。そう感じて即座に振り返る。
私の視線の先で、一人の少年がこちらを睨みつけていた。
――これが、のちに更木剣八と呼ばれる男と私の出会いだった。