私の寮の地下の特別な試合場で、私は更木と対峙する。浦原に手伝って貰って作ったこの試合場ならば何をしても怒られない。思う存分戦える。
「もう、いいか?」
更木がもう我慢できないという様子で問いかけてくる。霊圧は全開で、いいと言った途端に襲いかかってきそうだ。霊圧自体は斬拳走鬼を極めた私の方が上だが、そんな私が思わず身構えてしまいそうになる程の圧力だ。
ライバルと認めた男の成長に、私は笑みを浮かべながら
「……いいよ。」
と告げた。
その瞬間、更木は獰猛な笑みを浮かべて、ハクナに飛び掛かっていった。
◇◆◇◆◇
更木剣八が繰り出した斬撃をハクナは真正面から受け止める。
「ハハハハハ!これだよ!これを待ってたんだ!俺が全力で殺し合える、この時をよぉ!!」
「……強くなってる。流石、更木。」
両者互いが衰えていないことに歓喜し、言葉をこぼす。
剣八は受け止められた刀を全力を込めて振るう。それをやはり真正面から刀を合わせ受け止めるハクナ。
剣八は刀を持っていない手で拳を繰り出す。ハクナに教わったものだ。
それを完全に見切り、躱すハクナ。
すかさず空いた刀で斬り込む。万力の力を持って振るわれるその斬撃は速度も威力も凄まじく、まるで嵐のようにハクナに襲いかかる。
が、ハクナは涼し気な顔のまま迫り来る刀を、避ける、避ける、避ける。剣八の剣が単調な訳では無い。実戦で磨かれ続けたその剣は、並の技術等とは比較にもならない鋭い剣である。だが、ハクナの培った技術の前に、その真価を発揮できずにいた。
対するハクナの刀は以前より鋭く、以前より正確に剣八に傷を負わせていく。勘を頼りに何とか最小限のダメージに抑えている剣八であったが、このままでは敗北は時間の問題だった。だが、
「ハッ! 堪んねえなおい! やっぱりそうだ! それがお前だ! それでこそお前だ! もっともっと楽しもうぜ!!」
剣八の戦意は増すばかりだった。
その戦意に比例するように、一撃避けられる毎により鋭く、一撃受ける毎により正確に、剣八の動きは加速度的に成長していった。これこそが、ハクナにライバルと認められた、更木剣八という男の戦闘能力だった。
剣八の剣が段々とハクナを捉え始める。
剣八の放つ横薙ぎの斬撃を低姿勢で躱し、そのまま斬り込むハクナ。それを勘で察知し半歩下がりハクナの斬撃を躱し、そのまま斬撃を放つ剣八。紙一重でそれを避けるハクナ。体制の崩れたハクナに、本気で斬り付ける剣八。
その斬撃を何とか刀で受け止めたハクナであったが、耐えきれず、吹き飛ばされる。跳躍し、吹き飛んだハクナに追撃を与える。
すぐさま着地し、ハクナは剣八を迎え撃つ。剣八の勢いを乗せた神速の斬撃を最小の動きで躱し、剣八の横腹を斬りつける。
一瞬、剣八の動きが止まる。ハクナは勝利を確信し、意識を刈り取ろうと峰打ちの構えをとる。
だが、そこで再び動き出した剣八が隙だらけなハクナへ剣を向けた。腹を裂かれようが、更木剣八は止まらない。
ハクナは咄嗟に左手で剣八の斬撃を受け流そうと試みる。だが、やはり威力を殺しきる事はできず、左腕に切り傷ができる。剣八が、ハクナへ漸く傷を負わせたのだ。
「ハハハ! まだまだ終わらせねぇぞ! もっとだぁ!!」
叫びながら斬り掛かる剣八。普通なら致命傷になりかねない傷を負っていながら、その剣は一切の衰えを見せない。
だが、形勢が逆転することは無かった。剣八の剣は空を斬り、隙を突かれて剣八の手傷が増える。次第に剣八の剣は鈍り、息も切れ始めた。
「……そろそろ終わらせる。」
ハクナがそう告げる。そして、いつかと同じ様に拳を構えた。
「はぁ、はぁ、まだ終わらねぇ! 今度こそおわらせねぇ!! ハァ、もっと戦ろうぜ! ハクナァ!」
剣八はそう叫びながら剣を構える。
一瞬の静寂。
ハクナが動く。今まで使わなかった瞬歩で距離を詰める。それを勘で察知し、剣を振るう剣八。だが、剣が届く前にハクナに持ち手を蹴られ、弾かれる。そして、無防備になった剣八の体へハクナの拳が迫り、
「クソッ。またかよ…」
剣八の意識は途絶えた。
◇◆◇◆◇
私は自身の前で倒れ伏す男、更木剣八を見つめる。正直、私は今回は楽勝だと思っていた。鬼道、瞬歩、瞬閧、始解、卍解と死神の技術は出来る限り使わないようにしていたが、剣術や単純な膂力、戦闘技術だけでも私はかなり成長したし、更木は師匠すら居ない状態で多分そこまで強くない人と手合わせして過ごしていたのだ。今の私と更木では実力に大きく差がついたと思っていた。
しかし、更木は思っていた以上に成長していた。単純な膂力では私を上回り、本能には磨きがかかっていた。それに、戦いの中で成長し、私に手傷まで負わせて見せた。特に驚いたのは粘り強さが格段に上がっていたこと。正直、殺さないと止まらないんじゃないかと思った程だ。
まぁ、私は一番隊零席の特権で隊長格含め、裏切り者や暴走した者を独自判断で処断、または拘束する権利が与えられている。殺しはしないが殺したとしても、暴走した者の処断に含まれるのだ。おじいちゃんの信頼の証でもあるこの特権を悪用する気はないが。
だから正直、浦原から連絡が来た時点で、藍染を殺してしまいたかった。浦原の言う通り、罠に嵌められる危険性を考えて断念したが。
話がそれたが、結論更木が予想以上だったということだ。やはりこの男こそが私のライバルに相応しい。
……視線が痛い。考え事をして現実逃避していたが、さっきから、イヤ更木と戦う前から、ずっとやちるに見られている。
「……やちる、久しぶり?」
思いきって声をかける。
「勝手に出てったハクちゃんなんて知らない。」
完全にいじけていた。
「……そんなこと言わないでよ。」
「イヤ。」
取り付く島もない。
「……ごめんね。」
これは、本心から謝罪するしかない。
「……………カレー作ってくれたら許す。」
どうやら彼女の胃袋を掴んでおいたのは正解だったようだ。
こうして、やちるとも無事和解し、二人との再会は幕を閉じた。
(後でしっかり更木は回道で治した。)