「……おいで。」
私は言う。すると一護は首をかしげて
「腰に刺してる斬魄刀は使わないのか?」
と言ってきた。私は少し笑って、
「……素手で十分。」
「! 舐めやがって! 後悔するぜ!」
一護が斬り掛かってきた。
「……動きが直線的。」
難なく躱し、カウンターをみぞおちへ。
「カハッ! ゲホッゲホッ!」
「……戦闘中に動きを止めない。」
咳き込む一護に追撃の蹴り。
「ガハッ!?」
門の壁に激突する一護。
「……その程度?」
私は問い掛ける。土煙の向こうで息を整える気配がする。あえて追撃はしない。
「まだまだぁ!!」
そして飛び出した一護は私に向けて剣を振るう。
「……踏み込みが浅い。」
殴る。
「……フェイントに引っかかりすぎ。」
空中に蹴り飛ばす。
「……体がガラ空き。」
地面に叩きつける。
「黒崎! クソ!!」
眼鏡の子が矢のような物を打ってきた。
「……遅い。」
瞬歩で眼鏡の子の背後に回る。
「……遠距離が得意ならこんな所にいちゃダメ。」
首に手刀を当て眠らせる。
「石田!! 黒崎!!」
「石田君!! 黒崎君!!」
大柄の子と胸が大きい子が向かってくる。
大柄の子が腕を変化させ拳を放ってきたので、こっちは霊圧をほんのちょっと開放し、真正面から拳を合わせる。結果、大柄の子が驚愕で顔を染めたまま押し負け、吹き飛ぶ。
「チャド君!! 孤天斬盾、私は拒絶する!!」
胸が大きい子の飛び道具を軽く避け、瞬歩で近づき気絶させる。
「……後は君だけ。一護。」
「クソッ! 俺はルキアを助けるんだよ!! ハァ!!」
一護がこっちに来る。さっきより、格段に霊圧が上がっている状態。それが剣に収束していく。
「……凄いけど、遅い。」
瞬歩で一護の後ろまで移動し、すれ違いざまに拳一発。
「グッ――!!」
しかし、それでも止まらずこちらに照準を合わせる一護。
「食らえ!!」
そして、霊力の斬撃が放たれた。
中々の威力だ。副隊長ぐらいのレベルまでならコレを撃たれたらひとたまりもないだろう。ただ、
「……私には届かない。」
霊圧を調整し、その斬撃をまともに受ける。土煙が舞い、
「はぁ、はぁ、やったか?」
「……威力はまあまあ。そこそこ痛かったよ。」
私は無傷で一護の前に立つ。
「なん……だと……!?」
一護の顔が驚愕に染まる。
「……戦闘中に呆けてたら、死ぬよ?」
私はまた瞬歩で一護に近づき、一護の顎に掌打を食らわせる。砕かないように手加減はするが。
「ガハッ!……クソッ! 何でこんな――」
納得の言ってなさそうな一護に事実を告げる。
「……ルキアを今助けに行けないのは、君が弱いから。」
「俺が…弱い? 浦原さんに強くしてもらって、斬月の名も聞いた! 今の俺なら阿散井恋次にも負けねぇ!」
「……素人がたった数日で超えられる壁じゃない。そもそも、現世の副隊長を基準にしている時点でルキアを助けられるとは思えない。」
「な!?」
「……実際、私が刀を使う事も、本気で殴る事もしてないのに簡単に無力化できた。」
私は一護の目を見て、
「……君ではまだ力不足。夜一と浦原に感謝するといい。二人に免じて、全員命は取らないし、拘束もしない。」
と言って、一護を気絶させた。
◇◆◇◆◇
「……兕丹坊、門閉めて。」
「わ、分かっただ。」
一護たちを門の外に出し、兕丹坊に言う。
「ハクナよ。」
黒猫姿の夜一が話しかけてくる。
「話は知っておる。ルキアの処刑を止めたとな。おそらくその交換条件として、そちら側につく事、つまりルキア奪還を禁じられたのじゃろう?」
「……言えない。」
何処から契約違反になるか分からない以上、ルキア処刑まで情報を渡す事も控えている。
「ワシらはルキアを救出するために此処へ来た。ワシらにつくつもりは無いのか?」
「……無い。その目的を聞いたからには、次会うときは牢に入れる。覚悟しといて。」
「殺しは、しないんじゃな。相変わらず身内関係に甘いのう、ハクナ。」
私は、無言で門をあとにした。
◇◆◇◆◇
黒崎一護は目が覚めた。
「……ん? ここは?」
「目が覚めたようじゃの。」
眼の前に座っていた黒猫が話しかけてくる。
「そうだ! 俺は…」
「あぁ。お主らはあやつに完膚なきまでに叩きのめされたのだ。まったく、ワシの制止も聞かずに戦うからじゃ。もしあやつがお主らを殺すつもりだったなら、今頃ワシ以外全員死んでおったぞ。」
「ごめん、夜一さん。それで、あいつは何なんだ? 白哉ってやつと同じ隊長格か?」
「違う。あやつの名は、中野ハクナ。護廷十三隊零席という地位に就いている女じゃ。」
「その護廷十三隊ってのは隊ごとに別れてんだろ?その中野ハクナは何番隊なんだ?」
「あやつの立ち位置は特殊でな。全ての隊の零席を兼任しておる。」
「零席ってのはなんだ?」
「護廷十三隊の中で、独立した権力を持つ立ち位置じゃ。隊長と同格の権限があるが、違う所は強さと、独自判断による行動がある程度認められているということじゃ。」
「あ~……よく分からねえ。つまりどういう事だ?」
「隊長くらい偉くて、隊長より強くて、上からの命令がなくてもある程度自分で行動できるってことじゃ。」
「隊長より強い? じゃあ全ての隊の零席を兼任してるって事は……」
「そうじゃ。あやつこそ護廷十三隊の最高戦力じゃ。そしてルキアの刑の執行を邪魔する以上、あやつを超えろとは言わんが、ある程度抵抗できるようにせねばいかんかもしれん。奴は斬拳走鬼を極め、圧倒的膂力を持ち、護廷十三隊一の霊圧を持ち、斬魄刀開放ももちろんできる。――そんなあやつに、霊圧を五%も出していない状態の、体を壊さぬよう気遣った素手のみでボコボコにされたおぬしでは、次会うときは一秒も掛からず意識を刈り取られるだけじゃからな。」
「ちょ、そんなボロクソ言うなよ!」
「たわけ! 事実じゃろうが! 兕丹坊に勝った程度で天狗になりおって!! ほんとにルキアを助ける気はあるんじゃろうな?」
「当たり前だ!」
「なら、軽率な行動は控えろ。ルキアを助ける為にな。」
「分かってるよ。もう調子にゃ乗らねえ。」
「次は無いぞ?」
「分かったって。で? これからどうすんだ?」
「それについては他のやつらも混ぜて説明する。」
―そして、一護達のルキア救出作戦は動き出す。
「……ハクナ。」
夜一の小さな呟きは、一護の耳に届く事はなかった。