あれから数十年間、私は更木剣八と草鹿やちると共に旅をしていた。
流石に旅の中で殺し合いをすることは無かったが、私は更木に自分の技術、特に素手の技術を教えた。刀に頼り過ぎると足元をすくわれる危険性があるし、剣術はあまり技術を教えると更木の良いところである本能の剣を潰してしまうからだ。あの剣はそのまま伸ばした方がいいだろう。更木にあってるし。
しかし、以外にも一番大変だったのは更木に素手の格闘術を教える際のやちるの説得である。
やちるは更木が素手で戦うのがイヤだと駄々をこねた。それはもう全力で。何処に持っていたのか、刀まで取り出して暴れた。基本は剣術で戦うしあくまで念のためだからと必死に説得し、更には私の渾身の手料理でやちるの胃袋を掴むことで漸く認められた。(ただそのせいでやちるが、毎日毎日私の手料理、しかも手の込んだ料理をねだってくるようになってしまった。)
――しかし、何故やちるはあんなに更木が素手で戦うことを嫌がったんだろう? 更木が刀で戦う姿が好きなのだろうか? まったく分からない。
後、更木には変な癖があることが分かった。私以外が相手だと自分の力を無意識にセーブしてしまうのだ。
いろいろと試行錯誤を重ねたが、残念ながら無意識な癖を治す術は私には無い。まあ、本人が戦いを楽しめるならそっとしておくべきだろう。本人に伝える必要も無いと思う。面倒だし。
◇◆◇◆◇
ある日の旅の道中、ハゲと出会った。
名を斑目一角と言うらしい。更木に喧嘩をふっかけた挙げ句負けて落ち込んでいて少し可哀想だったので、元気づけようと思って、私と更木の模擬戦を見せて
「……私が勝てるんだから、一角でも頑張れば勝てるよ。」
と言って少し修行をつけてやった。街の喧嘩自慢の枠には収まらないくらいの実力はあったしなかなか器用な人物だったので、私の教えを覚えてくれればかなり強くなっていくだろう。
そうして技術を教えてあげたら別れる時、
「また会いましょう! 姐さん!」
と笑顔で言われた。手も振ってくれた。姐って私のことだろうか? なんで? まったく分からない。やちるからも、
「ハクちゃん男たらし〜。」
などとよくわからない事を言われた。やちるの言動が理解出来ないのはいつものことだが、今の一連の流れの何処に男たらしの要素があったというのか。
どういうことかと尋ねたが、はぐらかされた。何故だ?
ちなみに更木は模擬戦で負けたからか少し機嫌が悪くなり、話しかけても適当にあしらわれた。何故だ?
◇◆◇◆◇
ある日、私は前々から考えていたどうしようもない問題に頭を抱えていた。それは、
「……胸、邪魔。」
そうである。私は胸が大きい。
普段はサラシを巻くが、胸が苦しいので時々外している。この大きな胸のせいで肩は凝るし、硬いサラシがいるし、胸が苦しいし、水浴びや時々入る風呂でやちるにちょっかいかけられるしで散々なのだ。
どうにかしたい。今日は久しぶりに水浴びではなく風呂なのだ。ゆっくりしたいのに、胸のせいでまたやちるにちょっかいかけられてしまう。更木に聞いても、
「知らねえよ。」
って言われたし、町の人たちに聞いても、変な反応するか、殺意の籠もった目で見られるか、いきなり襲い掛かられるか、気色の悪い視線を向けられるかで解決策は無い。
色々考えていると、やちるに呼ばれた。もう時間だ。私は憂鬱な気分で風呂に向かった。
――もちろん、風呂にゆっくり入ることはできなかった。
◇◆◇◆◇
最近、毎日が楽しい。一人で旅をしていた時では味わえなかった人との触れ合いや友人である更木ややちるとの何気ない一時。
更木との手合わせもいつでもできるし、孤独を感じる暇もない。充実した幸せな毎日だ。
―――だからこそ、いつもふと思うのだ。私は、こんな日々を過ごしでいい存在ではないと。
私は罪人だ。私のせいで死んでいった善人達がいる以上、私は何があろうと永遠に罪人なのだ。私は共にいる彼らとは違う。いずれ地獄に墜ちて裁かれるべき存在であるのだ。
私が今生きているのは、最強になるため、そして多くの命を救って彼らの失われた命の価値を示すためだ。断じて自らの幸福などのためではない。
なのに、今の私はどうだ? 何人の命を救った? 今のままで最強になれるのか? ………己の使命をまっとうできているのか?
――答えは否だ。今の私は、自分の使命を忘れただ幸福に身を任せている。このままではダメだ。このままでは何も果たせない。罪人が何も償うことをしないままのうのうと幸福を感受するなど道理ではない。
更木とやちるには悪いが、これ以上共に旅をするわけにはいかないな………。
◇◆◇◆◇
ある夜、私は二人が寝静まったのを確認して、ひっそりと旅立った。止められると面倒なので置手紙を用意して、夜に旅立つことにしたのだ。
――正直、3人で旅をする日々は楽しかった。ただこのままでは私自身が成長できないし、生まれ故郷の人々の死の償いができない。
だから私は二人から離れ、ある場所へ向かうことにした。死神になれるという、瀞霊廷へ。