「ラグナにマクロス級が2つ並ぶなんて、いつぶりだろうな」
ラグナにあるマクロス・エリシオンの後ろには先日、到着した所属不明艦、マクロス・アストレアが立っていた。
「私がラグナに来て、少し後に一回あったぐらいじゃ、ないでしょうか。ですが・・・あのマクロスはあまり好きじゃないですね」
「鳥の人に似てるからか?そんなに重く考えなくてもいいと思うが」
確かにアストレアの両肩にはプロトカルチャーが地球に残していった機動兵器『鳥の人』を思わせるような翼が付いていて、異様な存在感を出していた。もちろんアストレアはそんな代物ではない事は既に調べてある。
「ですが、現にラグナの住民やマスコミから問い合わせのメールや電話が後を立たない状態です」
「そんなにか?だとするなら、廃棄処分にするか、利用するかはお偉いさんとあの青年の交渉次第だろう」
「アラド隊長。カナメさん、お疲れ様です」
「メッサーくん、お疲れさま」
メッサーがカナメに軽く会釈し、再び俺の方に向いた。
「アラド隊長、アストレアに積まれていた物資ですが、鑑定結果がでました」
「でたか、どうだった?」
「奴の言うとおり、コンテナの中身は全部医薬品でした。ラベルの薬品名も、指摘されたとおり、一文字違っているだけで成分は全て既存されていた物と一致しました」
「そうか。となれば、彼が並行世界の住民だと証明するのに一歩近づいたというわけだな」
「アラド隊長、本当にあいつの言うことを信じているんですか?」
「信じるもなにも、当の本人がそう言っているんだ。部外者は信じるしかないさ」
「・・・」
アストレアがラグナに到着した後、この世界の軍人に任意同行を求められ、おとなしくついていった結果。調書と尋問を行う為、留置所にぶちこまれるとはついていないと、ふと思っていた時だった。
留置所の職員が壁の端末を操作し、扉を開けた。
「アイ・カナリア。釈放だ」
「思っていたより早いな」
「いいから出ろ」
「なあ、あんた達のボスが俺を釈放するよう指示したのか?」
外にでると黒塗りのワゴン車が駐車されており、黒服の男が二人立っていた。男は俺が質問しているのに対し、無言で後部座席を開けた。
「・・・」
「わかったよ。所詮、俺は借りられていく猫だからな。ついていくさ」
黒服の男につれていかれたのは、大通りにあるホテルの一室。入るとき、周りには大勢の人がいて、ホテルから出てくる人の身なりが良いということは、観光客に人気があるホテルなのだろう。
そんな事を考えながら席に座らされると男は何かの端末を机の上に置き、そのまま部屋から出ていった。
『はじめまして、アイ・カナリア。私はレディ・Mと申します。音声越しで申し訳ないわね』
「いえ、釈放手続きをしてくれただけでも、俺は凄く感謝をしています。ですが、俺が乗ってきた艦がいまだにあなた方の手の内にあるのが、少々気にくわないですがね」
端末が展開し、SoundOnlyと書かれた立体映像が写し出され、女性の声が聞こえた。おそらく例のケイオスの創設者かなにかだろうと思い、感謝と不安を包み隠さずに伝えた。
『ふふっ、安心してください。マクロス・アストレアはあなたに返却しますよ。もちろん、契約次第ですが』
「でしょうね。それで?その契約内容はどんな物でしょうか?」
『詳しい内容は後日お送りしますが、大まかな内容は3つだけ。一つ、マクロス・アストレアはケイオス・ラグナ支部に配備するものとし、艦長はアイ・カナリア、代理艦長は管理AI『セイレーン』とする』
『2つ目はアイ・カナリアは、ラグナ第三航空団に所属とし、Δ小隊の元、任務を請け負うこと』
『3つ目はワルキューレ、美雲・ギンヌメールのボディガードとなること、以上よ』
「質問はしてもいいですか?」
『もちろん受け付けるわ』
「じゃあ、まず一つ。配備されるということは前線に駆り出されるということ。もし、艦に修理が必要になった際、修理はそちらが受け持つのでしょうか?」
『もちろん。艦だけではなく、バルキリーの修理も受け持つわ』
「そうですか。次の質問、Δ小隊とはなんです?」
『Δ小隊はワルキューレの護衛兼パフォーマーを主に勤めている部隊よ』
「パフォーマー?」
『簡単に言うなら、バルキリーで空中ショーをするようなものよ』
「え?ちょっと待ってください。じゃあ、ワルキューレというのはアイドルとかでしょうか?」
『正真正銘のアイドルグループよ。ああ、そうね。貴方は別世界から来たのだから、わからないのは当然ね』
『今、宇宙ではヴァールシンドロームと呼ばれる病気が流行っていてね。あなたが医学に通じているなら、ワルキューレはそれを抑制するワクチンのような存在よ』
それを聞いた瞬間、頭が痛くなった。歌で病気を治す?そんな事で治るのなら、医者はとうの昔に絶滅しているだろう。だが、ここは別世界、俺の世界の常識は通用しないこともあるはずだ。
「歌で、治す?・・・ちょっと理解に苦しみますが、この世界の常識ですもんね。───わかりました。あなたが提示された条件で受けさせて頂きます。ですが」
「セイレーンは時々、歌を歌うことがあります。その歌は私以外の人体には悪影響を与えることがありました。ですが、それを踏まえた上で条件を追加させて頂きたい。セイレーンの歌や生死に関する事は全て私に一任すること。以上です」
条件を突きつけられ契約するのはいいが、セイレーンが破壊されたりでもしたら、元の世界に帰れないかもしれない。それだけは避けなければならないので、待遇を良くするよう相手に伝えることしかできなかった。
『そう、わかったわ。ですが、セイレーンの歌の効果がもし最悪の結果をもたらすようであれば、その条件は白紙に戻させて頂きます。よろしいですか?』
「はい」
『それでは・・・。最後に一つ質問してもいいかしら。セイレーンはあなたにとってどんな存在なの?』
その質問を聞いて、少し考える。セイレーンとの出会いと今までの出来事を振り返ると1つの結論がすぐに出てきた。
「命の恩人であり、大事な家族です」
『そう、わかったわ。質問に答えてくれてありがとう』
そう言うと映像は途切れ、端末も元の形に戻っていた。それを見計らっていたのか、黒服達は部屋に入ってきた。
「アイ・カナリア。今日はこのホテルに滞在してもらう。
「もちろん。右も左もわからないので、出る気は最初からしていません」
「そうか。だが、監視は付けさせてもらう。それと預かっていた私物は今返しておく」
リーダー格男がケースをもっている者に視線を向けると机の上にケースが置かれると中に入っていたのは留置所に
「はい、確かに受領しました」
「では我々はこれで失礼する」
中身を受け取ると男達は部屋から出ていった。男達の気配がなくなってから、リングを腕に付けて喋りかけた。
「・・・行ったな。盗聴機、監視カメラの類いは・・・なし。セイレーン、聞こえるか?」
『ええ、契約の内容もリングを通して聞いていたわ』
リングからセイレーンの声が聞こえてきた。このリング、俺と通信ができるだけではなく、生体反応もモニタリングできる。
彼女が自ら作った物で、なんと他の通信機器が使えなくても、通信ができる代物、これだけでいくつものピンチを乗り越えることができた。
「そっちの視察はどうだった?怪しい行動をしている奴はいたか?」
『いたわ。持ち込んでいた端末でSvの情報を盗んでいたから、ウイルスを仕込んでおいた』
実はラグナに向かう途中で、アラドさんが俺達に進言していたことがあった。アストレアに配備されている戦闘機、ここではバルキリーと呼んでいるものはデータにはない未知のものだと。確かにSv-303はセイレーンのバックアップがあれば無敵だが、なしでも高性能な機体だと俺自身も思っていた。
それを狙う者がいてもおかしくないと思い、セキュリティを強化し、仮に突破されて盗まれたとしてもデータをリモートで削除することができるウイルスプログラムをセイレーンに作ってもらって正解だったようだ。
「了解。次、盗んだ情報を開いた瞬間にサイバーごとデータを消去しておいて」
『わかった。それと艦の整備を行う話を聞いたのだけども、本当かしら?』
「ああ。Svの整備も込みでな。よっぽど俺達・・・いやお前に興味があるようだ」
『そう。なら、どうするの?』
「しばらくの間は相手の機嫌取り、自由になるのは当分先だな」
『なら私はセキュリティを強化して、異常事態が起きるまでスリープを』
「それなんだけど、ちょっと面白いことを考えたんだ」
少々いたずらっぽく笑う俺をみて、セイレーンは少しキョトンとしていた。
朝、黒服達が来るとケイオスの制服と身分証、俺の名義で作られたクレジットカードに通帳と少々多めの現金を渡され、制服に着替え終わってから支部へと向かった。
「おう、一週間ぶりだな。ようこそケイオスラグナ支部へ」
「お久しぶりです、アラド隊長。いきなりで悪いのですがあなたの忠告通りにした結果、何人か企業スパイが釣れたので後で報告させてください」
「おう、それは後でじっくり聞かせてもらうさ。それよりレディ・Mからの命令で美雲・ギンヌメールのボディガードの件なんだが・・・」
「あら?その人が私の新しいボディガードかしら」
聞きなれた声の方へ顔を向けると紫の髪に青のメッシュが入った女性がいた。彼女はセイレーンと瓜二つで、ミステリアスな雰囲気を漂わせながら、多くの男を魅了してきたであろう美貌とスタイルに、俺は驚いていた。
セイレーンと一緒に過ごしていなかったら、完全に心が掌握されていたかもしれない。
「あ、ああ。そうです、彼が新しく任命されたボディガードです。ほら、うちの女神様に自己紹介しろ」
何故うろたえたのだろうと思いながらも、敬礼を彼女にした。
「本日付けで、ラグナ第三航空団、Δ小隊に所属することになりました。アイ・カナリア少尉です。ふつつかものですがよろしくお願いいたします」
「・・・」ジー
「あの?なんでそんなに俺の顔を覗き込んでいるんですか?」
「ふふっ、どうしてかしらね?あなたを見ていると懐かしいような感じがするのよ」
「───実は俺も、あなたを見ていると懐かしいような感じがしていました」
美雲を見ていると初めてセイレーンと出会った時と同じ、何かが懐かしく、悲しい感情が俺の中でこみ上げていた。同じ顔だから、なのだろうか。
「そう、案外私達気が合うのかもしれないわね。ボディガード、よろしくね、アイ」
「はい、美雲さん。そうだ、あともう一人紹介させてください」
ポケットにいれていた携帯端末を取り出して地面に落とす。すると端末はその場でホバリングを行い、少し隣に移動してからホログラムを投影する。
「同じくラグナ第三航空団に所属することになりました。マクロス・アストレアの管理AI、セイレーンよ。よろしく」
そこにいたのは俺と同じケイオスの制服を着たセイレーン。だが何故かはわからないのだが、美雲・ギンヌメールを見て少し笑みを浮かべていて、対する美雲さんはセイレーンを見て、何故か顔をしかめていた。
この時の事を偶然通りかかったレイナ・プラウナーが言うには、両者の合わさった視線から火花が散っていたように見えた、と