時は、メッサーとドッグファイトをしていた時まで戻る。
「・・・っ。Ah… 聴かせて 切ない吐息の子守唄」
セイレーンのフォールド波に干渉されて、歌うことができないなか、歌を口ずさみながら美雲が立ち上がった。美雲が歌うことでフォールドレセプターが働き、私を縛っていた感覚が緩んだ。
私も立ち上がり、美雲の歌に合わせて声を乗せた。
「「あなたを刻みつけた あの日の空」」
私達の後にレイナとマキナの歌が続く、AIの歌に私達が負けるわけにはいかない。そう心の中で自分を奮い立たせた。
私はセイレーンの歌に酷く嫉妬していた。悔しいけど、今の私にセイレーンと同じステージに立てるほどの力はない、だけど、だからといって気持ちで負けるわけにはいかなかった。
歌を愛する事、アイに対しての気持ちはセイレーンにも負けない自信がある、その思いだけが私を奮い立たせた。今のアイはセイレーンの歌に心酔している、それでも私の歌が届くように歌い続けた。
だけど、結果はセイレーンが歌い終わるまで届く事はなかった。カナメが言うには、セイレーンとの共鳴が終わってすぐにアイが気絶し、その時に私の歌と共鳴した。
共鳴した際、意識を取り戻したアイは再びメッサーに挑んだが、体力が限界だったらしく再び気絶してしまった。
バルキリーのオートパイロットにより、エリシオンに着陸できたが、自力でコクピットから出ることができず、医療スタッフに運ばれて行った。
今は医務室のベッドで寝ているが、様子を見に行くことができないほど、私の気持ちはどんよりしていた。
「あら、神秘を唄う女神なのに随分と暗いわね」
「セイレーン」
顔を上げると会いたくもない彼女が目の前にいた。セイレーンがジッと私を見つめてから、肩をすくめた。
「せっかくあなたにお礼したいと思っていたのに、残念だけど日を改めさせてもらうわ」
「お礼?」
私は自分の耳を疑った。昨日、私に嫌なことをさんざん言ってきた彼女がお礼を言うなんてかんがえもしなかったからだ。
「ええ、あのバルキリー、Sv-303P グレイゴーストは本来なら廃棄されている試作機なの。存在事態も抹消された機体、だからシステムも消去された状態だったから、ロールアウトしていた機体からシステムを移植して、一部を変更した形で終わらせていたの」
「アイが気絶するまでオートパイロットの機能が付いていないことに私は気づかなかった・・・だからありがとう。あなたはアイの命の恩人よ。───だけど、あまり調子に乗らないで」
しかし、感謝の言葉はすぐに毒に変わった。そして、セイレーンの手が気づかないうちに私の首に触れていた。
「あなたがアイの優しさにつけこんで好き勝手なことをしたのを私が知らないとでも思った?全く・・・もし今、体があったなら、その顔を恐怖で染め上げながら首を折ってやりたいところよ」
「でもまあ、命の恩人にそんな事をするほど、私は非道ではないの。今は、ね。じゃあ、私はアイの様子を見に行くわ。また、次もよろしく頼むわね」
私の首を絞めあげようとした実体のない手が消えていき、端末が通路を走って行くのを私は黙って見るしかなかった。
ブリーフィングルームにマキナさん、レイナとマキナ、そしてアラド隊長と俺、チャックとミラージュが来ていた。集まったのは今回の模擬戦でのセイレーンとアイの事についてだ。
「まずアイについてだが、どうだった?メッサー」
「・・・戦闘は間違いなくチャックとミラージュよりは使えます」
ミラージュは並みの兵士よりは強い、それなのに機体のデータ取りとして使ったアイの技量には到底及ばない。これから先、訓練で体力をつけて行けば俺と同等の強さぐらいにはなるはずだ。
「ミラージュはどうだ?アイは信頼できる腕前だったか?」
「───はい・・・」
「ですが隊長、Δ小隊は戦闘だけではなくパフォーマンスの技術も必要です。アイが回復次第、すぐに叩き込まなければ、アル・シャハルまでには間に合いません」
アル・シャハルには最近、ヴァールシンドロームが観測されている。もしかしたら近々、大きな騒動が起きるかもしれない。そうなればΔ小隊の一員として奴を駆り出さなければならない。
「わかってるよ。ミラージュ、アイが回復したらΔ小隊のパフォーマンスを教えてやれ。戦闘の腕が良くても怖じ気づかずに叩き込ませろ」
「!了解しました」
隊長の言葉でミラージュが前向きになった。俺が入隊してからいつも思っているのだが、隊長は人をやる気にさせるのが得意だ。
「その意気だ。次にセイレーンについてだが、カナメさん」
「はい。セイレーンの歌ですが、ワルキューレの動きを乱す働きがありました」
カナメさんが今回のセイレーンの歌についての説明を始めた。確かに飛んでいるとき、セイレーンの歌しか聞こえていなかった。途中から美雲によって歌いだすこともできたと言っていたが、ワルキューレの歌声はセイレーンが終わるまで感じることはなかった。しかし
「あのカナメさん、あの歌はセイレーンだけが歌っていたんじゃないんですか?」
説明の途中で言った事をミラージュが質問した。カナメさんはあの歌はセイレーンだけが歌っていたのではないと言ったからだ。
「ええ、そうよ。レイナ」
「うん、カナメに言われて録音していた歌を解析してみた。そしたら、カナメが言っていた通りだった」
レイナが液晶ボタンを押すとセイレーンの歌が流れた。いつもより耳を澄まして聞いてみたがセイレーンの声しか聞こえない。
「これは録音した歌、次は即席で高解像にした歌」
「あれ?今、レイナちゃんの声が」
「カナメさんの声・・・?」
高解像にした歌からはカナメさんとレイナの歌声がセイレーンの歌に重なっていた。セイレーン以外にワルキューレに似たAIがいたのか・・・いや、いるのならアイが最初の時点で報告するはずだ、だがそんな事は聞かされていない。
「メッサー君とチャックの言うとおりよ。アラド隊長、昨日報告した、セイレーンがレッスンルームに現れたのは、私達のことを」
「「ラーニングするため(よ)です」」
俺を含めた全員の顔が一瞬にしてこわばった。今、カナメさんの声が二重になって聞こえたからだ。
「流石、もう一人の私。ワルキューレのリーダーは伊達じゃないわね」
「だったら、アルコール依存症を治したらどうだ?少しはカナメも頭が冴えるかもよ」
「まあ、カナメがお酒を手放すとは思えないけど・・・」
後ろを振り向くと女性の三人が椅子に座りながらこちらを見ていた。三人共、セイレーンとは違いケイオスの制服ではなく、肌の露出が多い黒い服装だった。
「ヴァーチャロイド・・・」
「流石に見ればわかるよな。だけど・・・拍子抜けしたなぁ」
「レイナ、それはあの子がいない時点でワルキューレは完成してないから・・・」
「二人とも、変に煽るのはやめなさい。安心して別にあなた達をどうこうしようとか考えてはいないから」
三人とも姿は似ているが、言葉と性格がまるで違う。セイレーンとは違い、危険な雰囲気を感じたが、カナメさんの偽物が俺達を安心させるような言葉を言ってから立ち上がると着ている黒い服装がケイオスの制服に変わった。
「郷に入れば郷に従え、アイがお世話になるのなら、私達も協力できそうなことがあれば手を貸すわ。だから、これからよろしく頼むわね、もう一人の私達」
そう言って三人は姿を消した。静かになった部屋の中、俺の頭の中はアイに聞きたいことが山積みになっていた。
「で?なにか弁明することある?」
「私はなにも悪いことはしてないよ、アイ・・・」
アストレアの格納庫で足を組みながら椅子に座っているアイに対し、私は弁明する。私は二人に連れられてこられただけなのだから、何も悪いことはしていないし、不愉快にする言葉も言っていないはずだ。
「ソウダー、なにも悪いことはシテナイゾー」
「私もしてないわ。だから───」
アイがアストレアに戻ってきたと思いきや、すぐに私達を招集し即座に正座をさせられた。招集した理由はもう一人の私達に関することに違いない。そして正座させられて現在30分が経過していて、正直きついです・・・
「とりあえず、マキナはなにもしてないから解いていいよ。だけど・・・セイレーン達は駄目。あと3時間、いや4時間正座」
「はあ?!ふざけんな!そんな長く正座したら足が痺れるどころか壊死するだろ!」
「アイちゃん、どうか御慈悲をちょうだい?お姉さん、死んじゃう」
「私、もう痺れているのだけど・・・」
私は許されたので、すぐに解いたが、残された三人が抗議の声を上げた。というか、私達のリーダーかつエースでもある闇雲が問題を起こすとは、余程のことをしたのだろう。
「慈悲はないけど罪状でも言おうか?まず、レイナ。被害者からレイナの発言で心が傷ついたそうだ、まあ棒読みだったけど」
「だったら、正座解いてもいいだろうが!」
いや、闇レイナには悪いけど結構口が悪かったと思う。
「カナメは重度のファンからの発言で、本物のイメージが大きく損なわれる可能性が高いとのことで厳重な処分を下せ、と」
あー、あの人か。確かに傍観していた時、闇カナメに対する目が一番怖かった。よっぽど、闇カナメの存在自体が嫌だったんだろうな。
「セイレーンは、どんよりしていた美雲さんと笑顔が怖かったカナメさんから先日と今日の行動が報告されたから、処した」
「あの子、ついに話したわね・・・!」
あなたは一体何をしでかしたんですか。
「仲良くして。なんて、言ってもいないからいいけど、迷惑はかけないでよ。じゃないと俺の四肢のどれかが死に近づく運命になる」
そう言って、少し震えたアイを見て余程怖いことをされたんだなと思うしかなかった。今後は気をつけなければならない。
「あと、今回の件で美雲さんから厄介なお願いごとされて当分の間、アストレアで寝泊まりできないから」
その言葉を聞いて四人ともぴくりと体を震わせた。厄介なお願い事?昨日、ホテルで一夜を共にしたという、羨ましい事をしたのにまだ何かを要求したのだろうか。
「お願いごとってなんなの・・・?」
「・・・、一緒に暮らして」
「え?」
アイがぼそぼそ言う度に顔が段々赤くなっていく。それと同時に段々嫌な予感がしてきた。
「一緒に暮らしてって言われた・・・」
「───OK、今すぐあの女狐を社会的に抹殺してあげるわ」
「よし、殺ろう」
はい、爆弾投下したー。あまりの威力に正座していた二人が立ち上がると同時に三人の心は一つになった。かの女狐は除かなければならない。これ以上、私達の可愛い弟が毒牙にかかるのを見過ごすわけにはいかない。
「善は急げだ、情報はまかせろ」
「私は面白そうだから傍観してるわね」
おい、酒飲み、いや闇カナメも少しは心配して。というか正座しながら酒を飲もうとするな、というかどこから酒を取り出した。カナメは禁酒だと、アイから酒データ凍結されてるでしょ。
「待って、三人とも早まらないで」
「いくらアイの頼みでもやめない、あの子はあなたを知ろうとしている。今すぐにでも突き放さないと」
「アイ、お前は戦闘以外だと優しすぎるんだ。そういうときはお姉ちゃん達を頼れ、なんならお前を誑かす奴らを殲滅してやるから」
「いや、それは話し合い以前の問題!」
闇レイナの言葉は本当だ。アイは知らないが、以前いた世界で弱みを握ろうとアイに近づいてきた者達を艦内に保管してあるアンドロイドで処分したことがある。まあ、私としてはアンドロイドは精密機械の塊、だから整備がしづらいので使ってほしくはない。
「安心しなさい。私達がどれほどこういった問題を解決してきたと思っているの。大丈夫、今まで下心ある者達をいつものように怖い目にあってもらうだけよ」
「いつもは頼りになる言葉だけど、レイナの言葉を聞いてからだと恐怖しかないよ!」
「三人ともいい?美雲さんはセイレーンと初めて会った時と同じ感情を感じたんだよ、だから俺の一族に関係してるのは間違いない。だからこそ彼女を近くで観察すれば何かわかるかも、だから邪魔はしないで欲しい」
「───わかったわ。そこまで言うなら止めない。けど、一つだけ聞かせて。美雲と私、今はどちらが好き?」
闇雲、いつも思うんだけどその質問、今しなきゃいけないの?
「俺はセイレーンが好きだよ。初めて会った時から、この気持ちは変わらない」
「普通の人はなら頭を捻りそうな案件なのに、迷わず言えるなんてアイは凄いよね・・・」
アイも真面目に返さないで、余計、闇雲が図に乗っちゃうから。
「ちっ、口の中が甘ったるくなってきた」
「・・・ヒック///」
「でも・・・、罰はちゃんと受けてね♪」
パチンと指を鳴らすと二人はその場で正座した。勢いよく正座させたこととまだ痺れが回復していなかったのか、体を震わせていた。
さすがアイ、涼しい顔して、えげつないことをする。いつも思うのだが、アイがどうやって私達を一時的に体を支配しているのかがわからない。まあ、今まで酷い事はされなかったし、私自身も特に気にしていないんだけど。そう思いながらレイナが見つけてくれた、バルキリーのデータに目を向けた。
「それで?出会って三日しか経っていないのにあなたと美雲が同じ家に住み始めた理由はなにかしら?」
「正直に話せ」
「だから!ことある毎に体固めるのはやめてください!ギャアアアア!!」
いつの間にか高評価がされていてびっくりしました。更新遅いですが、これからも頑張らせていただきます。