コスプレ幽霊に出会った。 作:山田教信者ああああ?
讃州中学三年生の犬吠埼風。
二つ年下の妹を持ち、一年前には友奈や美森と共に勇者部を設立した少女だ。淡い茶髪と芽吹き色の瞳からは頼れる姉気質の雰囲気が醸し出され、うどんの暴食等の猛々しさも兼ね備えている。
――彼女には御役目が与えられていた。
その一つが結城友奈や東郷美森、そして妹である犬吠埼樹を『勇者部』として集めること。
四国を守護する地の神――所謂『神樹』と呼ばれる存在が勇者候補として選んだ少女達は、いづれは神敵と戦う
(……まさか、本当に選ばれるだなんて…ッ)
心の何処かでは、選ばれないと思っていた。風達以外にも勇者の適性を持つ候補は各学校に居て、部なり同好会なりを築いている。
一重に現実逃避をしていたのではなく、寧ろ選ばれる可能性の方が低いとさえ聞いていたのだ。故にこそ、先に情報を得ていた風ですら、実際に樹海を目の前にすると困惑してしまった。
「お、お姉ちゃん…」
「…大丈夫よ。大丈夫だから……」
戸惑い、姉が居なければ慟哭していたであろう妹の樹。風は咄嗟に呟いた言葉を徐ろに、何度も何度も繰り返した。
嗚呼、本当は解っている。
彼女は、自分が『大丈夫』と言えば安心する事も。その実は何も大丈夫ではなく、今からするのは恐ろしい敵との戦いなのだと――この異界で風だけは理解している。
だからこそ、
今更ながら、妹も後輩も巻き込めない。ならば彼女がするべき事は決まっている。
「……樹。多分、此処には友奈と東郷もいるわ。まずは二人と合流して…」
「――あ、東郷さん!風先輩と樹ちゃんがいるよ!!」
「…早速合流出来たね」
車輪が凸凹の地面を転がる音。次いで聞こえたのは、日常的に聞き覚えのある声だ。後方には結城友奈と東郷美森の姿が在る。
一通り再会の喜びを分かち合った後、風は両手をパンパンと叩き注目を集めた。
「全員揃ったわね!じゃあアタシが可憐でセクシーに
「はい!」
「…風先輩はこの異常を把握している…?一体どうして…」
「まず、アタシは
茶化した口上から一転、風の語りと口調は静かに、最低限の事情のみを選んだものとなる。妹の樹も知らない事情、勇者部の後輩も知らない『勇者』の意味。
この事態が風のせいでないにしても、そうなる可能性を完全に理解した上で『勇者部』を集めたのは飽くまでも彼女だ。現状に困惑にながらも糾弾しない後輩達に感謝しながら、風は更に説明を続けた。
「――つまり、これからアタシ達は神樹様を狙う敵……"バーテックス"と戦うことになってるわ」
「お姉ちゃん、それって…」
「……早速お出ましのようね」
遥かに彼方――樹海の奥に霞み見える樹木。神樹と呼ばれるであろう其れとは逆位置に在る神敵。
体長は30M程だろうか。全体的に白い身体と、二つの太いピンクラインで曲線を描かれた、丸みの帯びる頭部。蛞蝓を縦にぶら下げたような身体と頭部の間からは半透明のボロ布の様な触覚。
《
それに付け加えるように、現れる軍勢――肉質の白い袋に凶悪な歯茎を付けた星屑や、蒼い矢弦の四方八方に白いランス状の矢を浮かせる進化体。同じ進化体だが、前述と形状が異なり、黒灰色の細長い体付に無数の脚や触覚を付けたムカデを象ったような個体。
大凡、百鬼夜行にも見えるバーテックスの軍勢は少女達を怯ませるには十二分だった。
「アンタ達は下がってなさい!これはアタシの責任で、巻き込んでしまったアタシが片を付けるべき事よ」
「で、でも!」
「友奈……お願いだから、下がって。お願いだから…」
「っ!………わ、かり…ました」
怒鳴る訳でもなく、静かに懇願される。確かに友奈にも恐怖心があり、しかも足が不自由な東郷美森もいる。風の言葉に嫌だと叫んで我儘など、彼女には言えない。
何も納得など出来ない。だが恐怖心を噛み殺して、親友を放ってまで戦線に立てるのかと聞かれたら――結城友奈には出来ない。
罪悪感に髪を引かれながら、友奈は言葉少なく美森の車椅子を押して後ろに下がる。この空間に入り組んだ根は二人の少女の身を守るには十分であり、下手に前へ出なければ例え爆弾が飛んできたとしても被弾は無いだろう。
「…樹、アンタもよ」
「嫌だ……私は、私はお姉ちゃんの隣に居るよ!我儘でも、無謀でも、最後までお姉ちゃんについて行くよ…!」
「〜〜っ!もうっ、本当に我儘なんだから!……良いわ、後悔するんじゃないわよ?」
「しないよ。私は、自分の心に従うだけだから!」
「……いつの間にか、こんなに大きくなったのね」
「も〜!こんな時まで子供扱いしないでよ〜!!」
緊張感のない樹の言葉に笑いながら、風は少しだけ安堵する。彼女とて、やはり怖かったのだ。
「アプリを――勇者アプリを起動して。戦う意思を示したなら、『システム』も答えてくれるわ!!」
「うんっ!」
勇者部に入部する際にダウンロードした『勇者アプリ』。普段はチャットによる会話ツールとしてしか利用していないが、その真価は
意志を示すものに、システムもまた答える。端末の画面には円状のボタンが表示された。風は迷わずタップし、樹もまた信頼する姉に続く。
瞬間、携帯端末の画面からは光と共に花弁が溢れ出た。何処か、樹海化の予兆と似ている。其れは空を舞い、小さな竜巻となり二人の身体を覆い――一般人だった彼女達を『勇者』にする。
純白を基調とし、風は黄色。樹は薄緑の戦闘衣が展開される。風の手には大剣が現れ、樹の腕には鳴子百合をモチーフとしたブレスレットが装着された。
「往くわよ!!」
「うんっ――って、うわあぁぁぁぁ!?」
地を蹴った瞬間、莫大な力が発揮される。
スーパーボールの跳躍の如く、風と樹の身は上斜めの前方に弾かれる。これが『勇者』の身体性能であり、あの化け物達を相手取るには不可欠な力。
「多少の怪我なら『精霊』が防いでくれるわ!」
「ふぎゃあ!?…め、目が回る…あ、でも痛くない!精霊さんが護ってくれたの?」
有り余る力を使いこなせず、不時着をする樹。巨大な根にぶつかる刹那、薄緑に発光するバリアが彼女を覆い護った。
同時に、樹の目の前には奇妙な生物が出現した。緑色のモコモコとした球体につぶらな瞳、頭の上には大きな双葉が付いている。
これが『精霊』なのだろう。勇者の武器に宿り、盾にもなる存在。
「さて、まずは雑魚の星屑と進化体から――」
風が大剣を横薙ぎに振るおうとした瞬間。
「『……邪魔』」
「っ!?」
――二つに重なる中性的な声が聞こえた瞬間、目の前の星屑が灰となり、進化体が吹き飛ぶ。
風や樹は横槍を入れた
――其れは
其の人物の全身を覆う、銀色の布地。大きく深いフードの上部には過剰なまでに長い兎耳。彼、若しくは彼女の素顔は風と樹には見えない。
戦場に飛び込んできた其れは、最初の一言以来ただ無言で本物の兎の如く四方八方に飛び跳ねバーテックスを殴り、蹴り飛ばす。
異常な身体性能は"人間"を遥かに凌駕している。
「なに、あれ…ッ!?」
「……可愛い…」
「いやマイシスター、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?……援軍、なのかしら…まあ!取り敢えずアタシ達は一番デカいのを相手するわよ!!」
「う、うん!……後で写真とか撮ってもいいかな?」
「…気に入ったなら、後で似たようなぬいぐるみパジャマ買ってあげるから。今は戦闘に集中して…?」
「わ、分かってるよ〜!」
呆れて溜息を零しながら、風は大剣を再度握り直して
―――――――――――――――――――
「『……ふっ!…去ね…!!』」
樹海の世界には余るほど、
普通に戦う上では邪魔なのだろうが、少年と幽霊にとってはホームグラウンドと言っても過言ではない程までに相性が良い。
『調子良いな!』
(……ん、ここ…戦、い…易い…)
『相変わらずの挙動だもんなぁ。前世は本当に兎だったんじゃないか?っていうか、変身前も割と兎だし』
(誰が……兎、だ…!この悪霊…め…!!)
『何だとコンニャロー!』
生き物で例えるなら兎なだけで、その実はスーパーボールに近い。跳ねて、跳ねて、跳ねて、敵すら足場にした空中殺法的な三次元的挙動。
兎のぬいぐるみパジャマでさえなければ、多少なりとも格好はついていただろうが。現状では瞬く間に四方八方に跳ねては其の序と言わんばかりに星屑や進化体の身体を撃ち砕く様は、奇妙とも言えよう。
『いいか?アタシ達が相手するのは飽くまでも星屑と進化体だけだからな?それ以上は『勇者』の役目だ』
(……わかって、る……オレ、精霊が…いないから……危ない、ん…だろ…)
『そーだぞ。こう言っちゃあアレだけど、今の『勇者』には精霊システム…つまりはめっちゃ硬いバリアが常に展開されている。でも、アタシ達には其れがない』
(だ、から……御魂、持ち…危険)
『せめて御魂を出せる手段があれば、御魂持ちバーテックスも倒せるんだけどなー』
勇者の武器には精霊が宿り、その精霊の宿主が封印の儀式――つまりは祝詞を詠む事によって一定ダメージを与えた御魂持ちバーテックスから、御魂を出現させることが可能。
追い返すだけでも相応の儀式があったのだが、少年と幽霊は飽くまでも『個人』として樹海に赴いている。故に、『勇者』が相手をするバーテックスを撃退する手段は彼等にはない。
『にしても、今回の勇者達って不憫だよな…』
(……?そう、なの…?)
『だってさぁ、今日が初陣なのに今日今この瞬間まで何も伝えられてないだぞ?アタシ達の時は結構前から知らされて、訓練とかしてたんだけどな…』
(精霊、ないから……じゃ、ない…?…小学生、戦場に…投げ出す…な、んて…危険…)
『逆に言えば、精霊がいるから危険でも構わないってか?…あーあ、大人の考えることってやっぱり解らないな』
(……たん、じゅんに…今日…ま、で……勇者…が、決まって…なかった、とか…?)
『お、それ有り得るな!もしかして天才か?』
(ドヤァ…!)
飽くまでも可能性の話だが、勇者を選ぶのは飽くまでも神樹だ。勇者のサポートをしたり、勇者システムを開発するのは大赦だが、選抜には関与出来ない。
勇者は四国の極秘情報であり、選ばれない可能性のある少女達に『勇者』について情報をばら撒き全員に鍛錬をさせるなど非現実的だ。
大赦が本当にバーテックスが襲来するまで解らなかった可能性だって、大いにあるだろう。
そも、勇者の性能的に鍛錬が必要無いと判断した可能性だってあるが。どっちにしろ、神樹に人間の思考が及ばないのは言うまでもなく、思い通りになるとは限らないのだ。
『まー、どっちにしろ乙女座一体程度だったら勇者四人でオーバーキルだな!………で、須美ともう一人は…?』
(し、らん…)
『………大変そうだったら、少しだけサポートしような?』
(…手のひら、ドリル…?)
飽くまでも御魂持ちは勇者の役目だと割り切っているが、それでも幽霊少女は勇者に他ならぬ想いを向けている。
其れは彼女の生前に強く関係していて、遺した親友二人を憂いてのものである。彼女は嘗て『勇者』としてバーテックスと戦い、命と引き換えに世界を守った。
それでも未練は多い。
言わば、少年は幽霊の未練を解消するためにこの場に立っているのだ。自我が薄く、自身を"空っぽ"と認識する彼は、ある意味では幽霊少女の為だけに生きていると言っても過言ではないのだろう。
『あ、後ろから進化体の矢が来てるぞー?』
(…わかってる……!)
空中で無理やり身を捻り、矢の横に脚を叩き付ける。弾かれたランス状の矢は少年に喰いかかる星屑を貫通し、地面に深く刺さった。
そのまま三回の跳躍の後、矢を携える進化体の背後に回り込んで膝を叩き込み、矢弦のような巨体を無惨に折る。
星屑の融合体である進化体は、個体差はあれど御魂持ちほど硬くはない。寧ろ少年と幽霊の力であれば、当たり所によっては一撃必殺にもなり得る。
『そろそろ片付くな。さーて、
(…結城友奈…?……ばか、力…)
戦闘に乱入してから暫く、ふと
頭部から半身にかけてを大きく抉られ、殆ど行動不能になっている始末。もう行動不能であり、御魂を破壊されるのも時間の問題だ。
『………うん、無事に終わって良かったなー』
(…声、上擦って、る……)
『いや、だってさ……お前は同じこと、出来そう?』
(……三分の二……の、規模…なら…)
『それも大概だぞ?』
勇者の
進化体は乃木若葉は勇者であるで登場する融合体。其れの矢と百足です。