コスプレ幽霊に出会った。   作:山田教信者ああああ?

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一員

 

樹海内のバーテックスを全て片付け、樹海が解けた後。光と花弁の波は逆再生のように(ほど)けて、また世界の時間を動かし始めた。

 

勇者部の面々が学校の屋上に戻されている頃、少年と幽霊の姿はとある()()の前に在った。

 

『意外と楽勝だったなー!やっぱ定期的に壁外で鍛えておいて正解だっただろ?』

 

「……はぁ…つ、かれた……帰って、寝る……」

 

『待て待て待て!一旦教室に戻らないと……って言いましても、保健室でサボってたからなぁ…どっかの誰かさんは』

 

「……この、方が…好都合……」

 

勇者が樹海に召喚される際に、世界の時が止まるのは今更だが。問題とされるべき由々しき事態はその後に有る。

樹海が溶けた後、勇者達はどうなるのか。答えは神樹の()()()()()()()に"移動する"のだ。言わば(やしろ)や祠、神社等々。

 

そも、樹海とは神樹の顕現させる()()なのだ。現実に重なる形で展開され、樹海内は四国と殆ど同等の広さを誇る。然し()()()()()()故に、相応のフィードバックがある。

とどのつまり、樹海がバーテックスに荒らされれば荒らされるだけ、現実世界では事故や災害といった形でダメージを受けるのだ。結界の傷口から祟り(ウイルス)を流し込まれるに近い。

 

そんな樹海だが、特定の()()が存在する。

 

無論、自由自在に行き帰りは不可能だが。少なくとも重なる現実において、神樹の力が強い場所(特定位置)の近辺に居れば、樹海化が解けた際に引っ張られる形で()()に帰されるのだ。

 

端的に換言するならば、『適当に走れば適当な場所に帰される』ということだ。勇者と鉢合わせせずに済むのであれば、少年にとっては何処でも良いのだ。

 

『ここは… 高屋神社か?うっひゃー、良い眺めだねー!』

 

「…圧巻…」

 

讃州中学からは多少離れているが、勇者に近しい身体性能の少年と幽霊ならば数分と掛からずに学校に戻れる程度の距離だ。灰色の鳥居を通して覗いだ景色は朗らかな青空と良く映え、街を見下ろす様は正に『天空の鳥居』だ。

住み慣れた街なのに、こうも新鮮に感じてしまうのは心が踊っているからだろう。

 

普段から感情豊かな幽霊だけでなく、少年もまたポツリと似合わず言葉を零してしまった。そうするだけに価値が、この場所にはあるのだと感じたのだ。

 

『まー、兎に角だよ。一応は体調不良で寝てるって設定なんだからさ…せめて保健員のセンセーには一言入れてから帰ろうな?』

 

「……戻る、の……めんどい。……悪霊、からだ…貸す…」

 

『こんの物臭太郎め!いつか本当に体乗っ取るぞ!?』

 

「べつに、構わない…」

 

『………はぁ、そんなんだから放っておけないんだよ。ばーか、ばーか!』

 

鈍色の髪の幽霊は一通り悪態をつくと、少年の身体に重なり――()()した。少年の身体の主導権は、今に限っては幽霊のものだ。バーテックスとの戦闘とは違い相互関係足り得ない、事によっては幽霊が少年の命を握っているに等しい状態。

 

其れが成り立つのは信頼――否、薄っぺらい()()()だ。

 

幽霊少女は目的の為に彼と共に在り、少年には()()()()。故にそこ無謀にもバーテックスに挑める。失う物なんて最初から無いから、自分自身を蔑ろに出来る。

 

――『勇者』とは違い命綱(精霊)もない。

――『勇者』とは違い使命(理由)もない

――『勇者』とは違い仲間()もない。

 

『ホント、バカ』

 

少年の意識が底に落ちる瞬間、微かに聞こえた幽霊の声は聞き覚えがあった。其の声質は、初めて出会った頃と同じだ。

悲しくて、後悔ばかりで、だから縋り付いた。そんな彼女は一向に前に進めない。惰性で少年と在り続け、共依存に堕ちている自覚すら見て見ぬふりをする。

 

何も、正しくなんてないのだから。

 

――――――――――――――――――

 

――翌日。

 

少年は昨日から何も変わらず、惰性とほんの少しの義務感で教室に向かう。今日も朝から悪霊が言葉煩く起こしてきて、彼女に身体を預けて朝食を作ってもらう。

その後は急かすように臀を叩かれながら荷物をまとめ、登校するのみだ。

 

『…………』

 

(…?…珍し、く…おとな、しい……どした?)

 

『あー、いや。お前、須美って覚えてるだろ?二年前の勇者の片割れ』

 

(…ん、モチ。……名前…か、わってる…けど、ちゃんと……覚えてる)

 

須美――今は東郷美森という名の少女。幽霊は彼女の方を一心に見つめ、ウムムと唸る。今更ながら幽霊が彼女を気にするとしたら、昨日のバーテックス襲来についてであろう。

少年と幽霊は乙女座(ヴァルゴ・バーテックス)が完全に撃破されるまでは身を隠し眺めていたが、勇者達の中に美森の姿はなかった。

 

つまり、彼女は勇者システムに"戦う意思"を示せなかったのだろう。

 

暗い顔色と眉による皺は葛藤故の長考の証だ。

 

『…なあ、声を掛けてくれって頼んだら…やってくれるか?』

 

(………ホンキ…?)

 

『放っておけないんだよ。…忘れたとしても、アイツは親友だし。まあ、結局はまたお前に頼ることになるんだし、アタシには強制出来ないよ。飽くまでも善意に訴えかけてるだけだよ』

 

(…質、悪い…!………なんて、はなし…掛け、る…?)

 

『はぁ、有難いけど…コミュ障は健在だな。流石友達ゼロのボッチ君だな』

 

(…除霊、するぞ…!悪霊め…ッ!)

 

『誰が悪霊だコンニャロー!……まあ。適当に飲み物でも買ってきて、『顔色悪いよ?』とでも言えば良いんだよ。ほら、簡単簡単』

 

(……ナンパ?)

 

『コミュ障ぼっちがナンパを謳うなっての!』

 

幽霊少女ほど爽やかに努めれるのであれば、少年だって今頃は友達の一人や二人は居る筈だった。逆説的に唱えるなら、コミュニケーション能力に過大なる難ありな為に日常生活における話し相手が幽霊少女しかいない現状。

特段と何か思うこともないが、馬鹿にされれば相応に腹は立つ。

 

せめてコミュ障だけは撤回してもらおうと。少年は柄にもなく勇み足で購買の自動販売機に向かった。

 

 

――其れから数刻。勇気を出せず、買ってきたホットの飲み物が完全に冷えた頃。後ろで爆笑する悪霊に再度腹を立てながら買ってきた緑茶をそっと東郷美森の机の上に置いた。

 

「……ん」

 

「…………えっ、私に…?」

 

「…うん。顔色…わ、るい…から…」

 

彼がまだあどけない少年だから、多少なりとも絵になるものの。これが後数年もして、背も伸びたとしたら。途切れ途切れの言葉で大和撫子に緑茶を渡す青年の、ただの奇怪な光景になっていただろう。

 

然し唯一の幸運とでも言うべきか。少年の容姿は他クラスメイトから微笑ましげに眺められる程度には、中性的で何処かフワッとしたモノになっている。

大凡、気持ち悪いと思われる様な光景には見えない筈だ。

 

「…貴方、伊予島君だよね。話すのは初めてだっけ…?」

 

「……多分」

 

「そっか、そうよね……えっと、何か用事かしら?」

 

「…顔色、悪い……から、心配…で」

 

「え、ええ…そういえばさっきも言ってたね。御免なさい、目障りだったかな…」

 

「ううん……話、聞く…?」

 

幽霊少女は少年の後ろで頭を掻き毟る。なんだ、このたどたどしい会話は。これは本当にクラスメイト同士の会話なのか。

尽きぬ疑問も、自分から声を掛けておいて完全に混乱している少年以外には届かない。

 

「……もし良かったら、廊下に出ない?…ここだと人が多いから…」

 

「っ!……ん、わかった」

 

もしかしたら、美森にとっては親友よりも全く親しくない彼の方が相談し易いのかもしれない。

 

兎も角として、少年はゆっくりと美森の車椅子のグリップとハンドルに手を掛け、出来る限り注目を集めないようにと猫背で教室の後ろドアから美森と共に出て行った。

コロコロと、無言の二人の間には車輪の転がる音が響く。授業開始まではまだ時間がある。目的地は多少遠いが、人気(ひとけ)のない階段付近の踊り場だ。

 

「…………」

 

「…………」

 

『…何これ気まずいぞ!?なんか、こう…世間話とか振れないのか?』

 

(黙れ…悪霊…ッ!)

 

心の中で幽霊に悪態をつき、ほんの少しだけ足を早める。気まずいのは少年とて同様だ。

 

長いようで短い、無言の時間を過ごし――精神的疲れを感じる頃。誰もいない踊り場に到着した。

 

「……ん、着いた」

 

「あ、ありがとう……話、聞いてくれるんだよね?」

 

「うん。……大丈夫、口外…しない…」

 

「……あのね、伊予島君。貴方はもしも…いきなり化け物に出会して、得体の知れない其れと戦う事になったら…どうする?」

 

「………」

 

「…ごめんね、抽象的過ぎて分からないよね。私も、解らないの……解らないから、怖くて…其れを知っていた人が身近に居たから………ううん、きっとね…私は()()に八つ当たりをしたいんだと思う。解ってるの、守秘義務があったことも。ちゃんと解ってる、一番苦しいのは他でもない彼女だったのだって…」

 

敢えて言葉を省き、美森は膝を強く握る。

 

もどかしいのだろう、自分自身が。親友のように『仕方ない!』と割り切れない自分が酷く小さい人間に見えて、後輩のように『それでも着いて行く』と最初から言えなかった自分が卑しい人間に思える。

 

自分と同様に、他の皆だってバーテックスが怖かった筈だ。でも、勇気を振り絞った者がいた。広く受け入れてしまった彼女達がいた。なのに、美森は震えることしか出来なかった。

自尊心は音を立てて崩れた。積み上げてきた信頼は、きっと揺らいでしまっただろう。

 

そんな自分が――仲間を信頼出来なくて、そう思ってしまう自分が大嫌いだ。

 

「……()()は…後悔、してる……の、か?」

 

「…あの、私…須美じゃなくて美森です。東郷美森です」

 

「あ……うん、間違え…た。…美森…は、悔やん…でる…?」

 

「な、名前呼び……あっ、ううん。何でもないわ。……うん、多分…私は悔やんでるの。あの時、私が戦えてたら…ずっと、そう思ってばかりなの」

 

「……()()()なら、良い……と思う。次があって……覆せる、なら…そうしろ。……その、化け物に…()()()()()、すれば…いい」

 

「っ!……全て、覆して…八つ当たりをする…?」

 

"後悔"を出来る者は、()に臨める者でもある。勇者たる彼女ならば化け物(バーテックス)に苛立ちをぶつけることが出来る。

 

少年はただ、『知らん、勝手にサンドバッグでも殴ってろ』と言っているのだ。美森がどう受け取ろうとも、少年は過干渉するつもりはない。

彼女は"後悔"出来る人間だ。仕方ない、全部先持って知らせてくれなかったアイツが悪いんだ――そんな言い訳をしない彼女は、やはり少年には理解し難い存在だ。

 

「…私、勇気を出せるかな…」

 

「美森…次第」

 

「私…みんなの隣に立てるかな」

 

「美森が、立ちたい…なら…」

 

「私…ッ、勇者部の一員になれるのかな…っ」

 

「…証明、すれば…いい…」

 

「……っ!……ありがとう、伊予島君――ううん、奈央(なお)君!……まだ、解らないけど…丁度、腹の立つ(バーテックス)が身近にいるの。だから…戦って、証明してみせるわ。私が勇者部の一員だって事を」

 

「ん、がんば……」

 

決意を固め、少年――伊予島奈央に礼を告げてから一人で教室に戻る美森。その後ろ姿は、足が不自由で車椅子なのに、『勇ましい者』にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

『ひゅー。カッコイイぜ、奈央』

 

「……煩い、銀…」

 

心做しか奈央の頬は赤く染まり、幽霊少女――三ノ輪銀は悪戯に笑って揶揄った。

 

◆◆◆オマケ◆◆◆

 

伊予島(いよじま)奈央(なお)

 

・讃州中学二年生、部活動は未所属。

 

二年前に幽霊少女の三ノ輪銀と出逢って以来、常に共に過ごしてきた。コミュニケーション能力に多大なる難ありであり、まず普通に話せない。

彼の幼少期が関係しているが、それは銀も預かり知らぬ所だ。関係を壊さない為に、敢えて触れていない節がある。

 

柔らかいクリーム色の髪と青緑色の瞳が特徴的で、その容姿と無口(コミュ障)な事で周りからは穏やかな目で見られているが、ただの性根拗れの病みぼっち。授業をサボることが多いので割りと阿呆。

 

 

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