コスプレ幽霊に出会った。 作:山田教信者ああああ?
『――さて、ナンパ師の奈央くんよ』
「……塩、撒くぞ……ッ」
『この後も
幽霊――三ノ輪銀は神樹の記憶にアクセス出来る。原理は定かではないが、奈央は三ノ輪銀が『勇者』だったことに関係しているのでは無いかと推測する。
そも、不明事項が多数で在り方が大凡の亡魂に酷似しているが故に、判り易く『幽霊』やら『悪霊』と称しているが、実の所は不明なのだ。
疑問点を上げればキリがない。
――何故、彼女は神樹にアクセス出来るのか。
――何故、彼女は奈央に戦闘能力を与えれるのか。
――何故、彼女だけが『幽霊』で在れるのか。
――何故、彼女は奈央にしか見えないのか。
彼女を『幽霊』と言い切るには些か、不明瞭な点が多すぎる。元より彼女が『幽霊』と自称した事はなく、同時に深く肯定した事も皆無。少なくとも、物理現象に介入出来る点も含めては空想の産物ではない、という事だけは確かだ。
一般人たる少年に
「……お前、ほんと…に、幽霊……?」
『え、寧ろ違うのか?見ろよ、この膝から下を!アタシの超絶美脚が無くなってるんだぞ!?』
「……はっ、片腹…痛い」
『オーケー、喧嘩だなコンニャロー!ボッコボコのギッタンギッタンにしてやるー!!』
「上等…ッ!!」
然し、結局は少年にとって
彼女が"在り"、奈央が居る。たったそれだけの関係に彼は何も求めてはいない。
何処までも上辺だけであり、それでも離れる事など到底出来ない関係。互いに嫌ではなく、互いの隣には
空虚であろうと、やはり彼等には関係の無い話だった。
――――――――――――――――
――放課後。
朝からは一転、東郷美森の表情は明るかった。何も解決していないのに、それでも彼女はするべき事を定めている。その程度の、実に小さくて自分勝手な答えを胸に抱いているのだ。
「東郷さん、何か良い事あったの?」
勇者部の部室に向かう最中、後ろから車椅子を押してくれる親友はふと聞いてきた。美森は軽く首を傾げ、然し自分の口元がほんのりと微笑んでいたことに気が付く。
「良い事……うん、ちょっとだけね」
「なになに?気になるなー?」
「ふふっ、内緒♪」
「えー!隠されると気になっちゃうよ〜!」
特段と隠す必要なんて無かったのに、気が付いた時には内緒と口ずさんでいた。きっと、親友の友奈に悟られたくなかったのだろう。自分がみっともなく悩み、先輩に八つ当たりしようとしていた事を。
大好きな彼女の前では、完璧とは言えなくとも優れた東郷美森で在りたい。
小さな意地だが、彼女にとっては大切な事だ。
「…悩み、解決したの?」
「っ!……友奈ちゃん、気付いてたの?」
「親友のことだもの、小さな変化だって分かっちゃうよ。ゴメンね、私…東郷さんになんて声を掛けたらいいのか解らなかった。私、口下手だから…傷付けちゃうのが怖くて、何も言えなかった…」
「……うん、私も怖かった。友奈ちゃんに相談して、幻滅させるのが怖かった。友奈ちゃんなら、ちゃんと受け止めてくれるって解ってたのに……私こそ、ごめんね」
親友だから、近しい彼女だから、自分のせいで関係が壊れてしまう事が怖かった。見た目も性格も異なるのに、行き着く思考は同じ。其れが少しだけ可笑しくて、お互いに謝罪を交わした後に笑ってしまった。
「それにしても、東郷さんの悩みを解決出来ちゃう人かぁ…誰なんだろう?もしかして…東郷さんの好きな人とか!?」
「…ふふっ、残念ながら違います。私だって今日初めて話した人だし、そんな急に恋心なんて芽生えないわ」
「……初めて話した人なのに、悩みを相談したの?…うーん、それって…余程のお人好しさんか、
「え……?い、いや…でも…ん?え、ええっ!?」
「わっ!?急に暴れたら危ないよー!」
友奈から振られた言葉を改めて解釈し、美森の頭は沸騰した。思い返しても見れば、何故、彼は自分に声を掛けたのか。単純に顔色が悪いから、なんて理由で話し掛けるのはナンパ師くらいだ。
そもそも、美森は件の彼とは全くと言っても良いほど接点がない。一年の頃から同じクラスではあったものの、話すのは今日が初めて。
彼が余程のお人好しの可能性もあるが、彼が他人と話している様など見たことがない。独りを好んでいるのだろうとは思っていたが、単純に他人に対して無関心だったのだろう。
(えっ、奈央君が私を…?いやいやいや、そんな訳がないでしょう!?自意識過剰にも程があるわ…ッ!……でも、どうして彼は私に話し掛けたのか。それだけが分からない……)
「と、東郷さん?お顔が真っ赤だよ…?」
(そ、そう言えば…奈央君は最初から私を名前呼びだったわ!そ、それはつまり…
「東郷さん…?……き、聞こえてない…」
結局のところ、『何故話しかけてきたのか』という至極当然な疑問にぶつかる。友奈を除く、美森と親しいものでさえ顔色だなんて
つまり、彼は何故か
(……奈央君が、私を見ていたから…?今日だけじゃなくて、
無論、彼女の変化に気が付いたのは飽くまでも三ノ輪銀であり、伊予島奈央はそもそも東郷美森なんてクラスメイト以外の何者でもないと思っているのだが。
この場において美森が其れを知る手段はないし、たとえこの場に奈央が居たとしても態々事細かく説明なんてしないだろう。
「………友奈ちゃん。部室に行く前に、ちょっとだけ外にいかない…?少しだけ涼みたいの…」
「う、うん。東郷さんがそうしたいなら!」
何か地雷でも踏んじゃったのかな、と友奈は小さく呟いてから進行方向を変えた。
「っくしゅん…っ」
美森と友奈が校舎裏の非常口に向かうのと同時刻、奈央は小さくクシャミをする。寒気、とでも言えば良いのだろうか。背に冷水を入れられた様な、やはり形容し難い感覚が心做しか襲いかかって来た。
讃州中学の校舎、其の屋上。
無骨なフェンスに背を預けながら、奈央は
『あらら、風邪でもひいた?』
「………噂、されてる……ような、気が…」
『ははっ、ナイス冗談!コミュ障ぼっち奈央の噂なんてする人がこの学校にいるとでも?』
「足りない…知能、指数……を、補ってか、ら……出、直し…て来い、アホ銀…」
『同族嫌悪か?』
「な、んたる…屈辱…ッ!」
『バーテックスの前に奈央をぶっ飛ばしたい所存』
実体のない幽霊との喧嘩ほど虚しいものもない。足元の石を投げてもすり抜けるし、除霊しようと塩を振りかけても無駄だ。
無論、其れは幽霊とて同じだ。彼女が拳を振り下ろしても少年には傷一つ付かないし、呪いの言葉を耳元で囁いても何一つ効果は無い。
自然と語感が強まるのも時間の問題だった。
「………そろ、そろ…?」
『んー、まだっぽい。後…一時間……いや、三十分だな。残念ながら一眠りする時間はないぞ?』
「…残念」
『にしても、だよ。連日で攻めてくるなんて…相手側は新米勇者を一気に倒そうって魂胆かねぇ?天の神ってのも、意地が悪いな』
「……なら、複数体……来る、か…?」
『どーなんだろうなー、そこまでは分かんないかな。でも普通に考えたら其の可能性が高いだろうね。星屑だけじゃなくて、流れ弾にも警戒しないとだな…』
先日の襲来は
ならば、次は更に厳しい戦いになるのは考えるに難しくは無いだろう。
バーテックスに知性があるのかは定かでは無いが、其れを創造した
ならばこそ、昨日の襲来から間隔を殆ど開けず、まだ勇者の能力に慣れていない彼女達を仕留めようとしているのかもしれない。
『……まあ、もしかしたらテキトーで偶然なのかもしれないけどね。滅ぼそうと思えば、
「…も、しくは……勇者、の…力を、把握……するため…」
『あーあ、相手さんが知性のない獣とかだったら判り易いのにねぇ。獣と
「誰が、兎…か…」
事実、戦闘時の彼は文字通り"兎"の
補足するとしても、兎は最初から兎だったとしか説明出来ない。彼の初戦闘は二年前、奇しくも今の勇者と同じ
勇者らしからぬ憎しみの表情で自傷すら構わず戦う二人。銀は叫び、奈央に縋った。
故に、戦場には不似合いである兎が誕生したのだ。尚、幽霊も少年も何故兎だったのかは結局解らない。
『…奈央、ありがとな。あの時…アタシを
「……互いに、利用し合う……関係。…今更、だ…」
『ああ、そうだな。骨の髄まで利用してくれよな!まあ、実体はないから骨も肉もないけど』
「……テラワロス」
『ブラックジョークだよコンニャロー!!……って言ってる間に、迷惑な
「ん…」
視界の届く遥か向こう、極彩色の花弁と四国を包む光が展開される。空を飛ぶ鳥は空中に固定され、屋上から見下ろしたグランドには石像の如く動きを止めた生徒たちが見える。
樹海が展開される。
――神敵が、また襲来する。
―――――――――――――――――――
極彩色の樹海。以前から何も変わらず、神聖であり不気味だ。
「銀……往く、ぞ…!」
『………』
「……銀?」
ふと振り向けば、銀は前方――
知らない。奈央は、こんな彼女を知らない。意気揚々と勝利を謳う彼女が慄いている。そんなのは不似合いであり不自然だ。
「聞いてる、か…?」
『………だ、めだ…ッ!奈央…逃げろ!駄目だ、アレは本当に駄目なんだ…!!相手が悪過ぎる……今回は、戦線に出るべきじゃない……』
「……っ!」
酷く動揺し、怯える少女。彼女の見せる初めての反応に奈央は只管に混乱する。星屑の相手どころか、戦線にすら加わるなと声を大にされた。
決して触れられない彼女だが、其の声質に全てがこもっている。恐怖、焦り、混乱、恨み、悲しみ。
彼女自身も把握出来ていないほど、煮詰めた負の感情が声を震わせていた。
「……ど、うした…?らしく、ない…」
『……彼奴らは…あのバーテックス共は!
――
――
――
明確な
三体の御魂持ちバーテックスは『幽霊』――二年前の勇者、三ノ輪銀を死に追い込んだ元凶だった。
尚、三ノ輪銀が幽霊だとは限らないものとする。キーワードは