コスプレ幽霊に出会った。 作:山田教信者ああああ?
評価ありがとうございます!
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三ノ輪銀を殺したバーテックスだ。其れの凶悪性を、銀だけは身を持って知っている。勇者殺しを成した神敵はまた樹海に現れた。
勝気で朗らかな幽霊も、自身の仇と相対しようものなら慄くだろう。事実、彼女は不似合いなほど取り乱している。元とは言え、勇者らしからぬ"逃げ"を真っ先に提案し、押し付けているのだ。
だが然し、幽霊の心情なんて
「……往く、ぞ…」
『…駄目だ。精霊のバリアがないのに…無理なんだよ!今回は勇者に任せたって――』
「喧しい…な、に…ビビって…ん、だ……少し、落ち着け…」
『……違うんだよ。アタシは冷静だ、
彼女とて、勇者を見殺しにしろと言っているのではない。寧ろ簡単な話で、最初から勇者の御役目であるバーテックス打倒に、今回ばかりは手を出すなというだけの事だ。
極論、元より奈央と銀が態々介入しなくとも勇者は御役目を為せる。そのために神樹が選んだのが、彼女達なのだ。
きっと、銀は自身の言葉に違いなく至極冷静だ。
冷静故に、語感を強めてでも奈央を止めようとしている。全世界で唯一、伊予島奈央を憂いているのだ。
だが、奈央は
故に――此処で『勇者を助けて』という彼女の願いを放棄したら、伊予島奈央の
何も無い筈の奈央は、何故なのか其れが死よりも余程怖いのだ。此処で敗走を受け入れたら、彼女との形容し難い関係性が変わってしまいそうで恐ろしい。
「……銀、答えろ……精霊のバリア、は…
『そ、れは………ううん、全ては
「ん、じゃあ…簡単。そ、の…太い矢…?……は、オレが防ぐ。べ、つのは……
『っ!……でも、お前…其れは――』
奈央の正体が――兎の着ぐるみパジャマで樹海を彷徨く者の正体が勇者にバレてしまう可能性が増えてしまう。
声質は、奈央と銀のものが重なりノイズ音のようにも聞こえるので、問題は無い。顔も兎耳付きのフードで隠れるので、前回と同様だ。
然し、其れでも奈央の姿形は変わらないのだ。日常生活では極力関わらないようにしてきても、何かの拍子で――と、なる可能性は大いにある。
そも、勇者から正体を隠しているのは奈央が過度に面倒事を嫌うからに他ならない。
だが其れでも、彼女との関係の変化を恐れるなら――伊予島奈央はバーテックスと関わり続けるしかないのだ。
其れが醜い依存だとしても、少年は元より縋るしかないのだから。
『……やっぱり、聞いてくれないんだな』
「利口、なら…最初から……この場に、居ない…」
『…はっ、違いないな。この悪ガキめ、簡単には死なせてやらないからな。死んだって地獄の底まで追っかけて叩き起してやる!』
「やっ、ぱり……悪霊だ、よ……お前は…」
『悪霊と悪ガキだし、相性は良いだろ?』
「最悪、だな…」
『ははっ、そんなに喜ぶなよ』
心做しか眉を寄せる少年に呆れて笑い、幽霊は少年に"重なる"。白銀光が樹海の一辺を強く照らし、次の瞬間にはこの場に不似合いの兎が現れる。
「『show time……なん、つって…』」
トントン、と地面を数回脚で叩き――少年は矢の如く弾かれる。勇者との戦闘を開始し、攻撃を始める射手座に目掛けて兎は駆け出した。
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勇者部が勇者となってから、二度目の樹海化。
敵は三体。それぞれが高度な連携やオールレンジ攻撃で勇者を追い詰める中。勇者となる覚悟を決めた東郷美森の援護によりバーテックスを分断するのに成功した。
犬吠埼姉妹が
「はあぁぁぁ!勇者パーンチ!勇者パァーンチィ!!おりゃおりゃおりゃー!!」
拳に山桜の花弁が集まり、掛け声と同時に開放される。一度、二度、三度。桜色の勇者である結城友奈の拳は巨大な球体が連なるような造形の
其れでも構わず、と振り下ろされる尾の尖端。パイプ椅子のような図体から伸びる其れは、辛うじて
尾を形成する水袋のような球体には猛毒が仕込まれており、尖端の針は勇者とて容易く殺してしまうだろう。
「――東郷さんっ!」
瞬間、遥か後方から蒼光が瞬く。
弾速の光は
「これで最後!勇者パアァァァァンチィィ!!」
真正面から打ち込まれた拳は椅子に酷似した巨体に罅を刻み、崩壊させた。
だが、
然し
「うーん、マップでは
友奈は崩れる寸前の
そのまま友奈も駆け出し、風や樹との合流を試みる。その刹那、視界の端を
「……?あれ、今…なにか居た?」
体長は友奈と同じくらいか、精々数cm程度の違いしかないだろう。
慌てて視線を当方向に向けると、白銀の布地の背が物凄い速度で遠ざかり、バーテックスの中でも特に後方で構えている
その様は友奈にはあまりにも衝撃的であり、浮かんだ疑問符を噛み締めるのに数秒を要してしまった。
「…兎さん?でも人型だし…薄い着ぐるみみたいに見える!……じゃなくて!?兎さーん!!危ないよぉぉー!!」
「『―――っ』」
「うぅ…聞こえてないのかな」
フードに付いた長耳をピクリと揺らし、だが一切の視線を向けない兎。遠ざかる背は、ついには声も届かない位置に至る。
其れを追いかけようとした所に星屑が喰い掛かり、友奈の足をその場に留める。
兎が向かう先には風と樹がいる筈だ。
友奈は"兎"について知らないが、大赦からの指示で動いている風ならば何か知っているのかもしれない。そんな可能性に頼み、友奈は友奈で眼前に群がる白い獣に拳を叩き込んだ。
そして、友奈の位置から数キロメートル先。
其の全長は以前の
真正面には星屑の凶悪な歯と歯茎に酷似した口が付いていて、その下には定規を用いて落書きしたような、無機質で雑な人面が斜め地面を見下している。
黄道十二星座型、若しくは完成体と呼ばれるバーテックスの中でも
「樹、こっちに来なさい!」
「うんっ!」
「ぐっ、〜〜〜ッッ!」
風と樹に細かい針が降り注ぎ、風が掲げて盾にする大剣の面にぶつかり金属音を鳴らし続ける。
針の雨は二人だけでなく
「きゃぁあ!!」
「なっ!?う、後ろから…ッ!」
相手の死角をも含めた
背後から襲いかかる何千もの針は精霊である犬神と木霊の展開するバリアに防がれるが、然しそのバリアも万全とは言い難い。
恒久的に勇者を護り続けるのは不可能だ。
「こんのぉ〜ッ!面倒臭い上に厄介なバーテックスめー!!」
「ちょっ!お姉ちゃん危ないから暴れないで〜っ!!」
「だって樹……って、ん?……あ、あぁー!!」
「え……」
風は視界に
「『ふぁっく、ゆー…!』」
二重に重なる中性的な声に、不自然なノイズ音が掛かる。男か女か、そもそも人間なのかも解らない。
そんな兎は
恐らくは後部と思われる部分は強烈な蹴撃で罅を刻まれ、然し
敵意を煽る兎は風と樹の前に着地し、ボソボソと拙く言葉を紡ぐ。
「『お、い……勇者…!……こいつ、は……
「っ!…アンタ、何者なの…?」
そっと表情を伺うが、深く被った厚布のフードは口元迄しか見せてはくれない。其の口元も、性別を判別するには不足していた。
チラリと見える、柔らかいクリーム色の髪色。風の視線に気が付いたのか、兎はほんの少しだけ、またフードを深く被り地面を蹴った。
「『…………』」
「あ、行っちゃった……無口な兎さんなんだね」
「無口っていうか、明らかに無視されてるでしょ。敵ではないっぽいけど…もうっ、バーテックスを倒したら取っ捕まえてやるんだから!!」
「…兎さんに酷いことしないでね?」
「マイシスターは姉を何だと思っているのか」
小さな兎の背中は、何故か紅い勇者衣と重なり――だが次の瞬間には全てが錯覚だったと視覚が訴える。
その背中に強い頼り甲斐を感じ、犬吠埼姉妹には安心して
樹と風は無言で頷き、
尚、数秒後には友奈と美森によってボロボロの行動不能となった