時は未来、空には車が飛び、ロボットが人の代わりに働く時代。
そんな時代に場違いな者達がいた。
その者達の名は"兵法者"。
廃れて久しい剣術や槍術などを修める者達なり。
既に戦いは形を変え、戦場で活躍しているのは専らレーザー銃やビーム砲である。
アサルトライフルやマグナム銃などの普通の実弾兵器でさえも廃れている時代に、
兵法者達は己の信念のために剣と槍を持つ。
これは時代に抗う兵法者達の物語である。
◆
カゴシマPref.キリシマシティ。
ドン西郷の治めるこの町で一人の男が今日も叫んでいた。
男の名は東郷チュウイ、16歳、中卒。
本名、山田タカシ。
周りの者は変人と彼を呼ぶ。
今日も東郷は、庭に立てた立木を丸木で叩く。
叫びながら、一本一本全力で。
──立木打ち、示現流に伝わる修練法なり。
地面に敵と見立てた硬い木を立て、約9mほど離れた距離から走り寄り、気合と共に木を打ち据える。
かつての薩摩武士は、"朝は三千、夕は八千"打ち込んだとされる。
彼もそれに習い、早朝と夕刻に古の武士達と同じ数だけ立木に打ち込んでいた。
そして、そんな修練をする彼の耳にトラブルの話が聞こえてきた。
「中央街でYAKU座が暴れているらしいぞ!」
「マジか!見に行こうぜ!」
──YAKU座、世を乱すならず者の集団なり。
サイバードラッグに武器弾薬、果ては人身まで、裏の世界を牛耳る悪党達。
座の名が示す通り、彼らは徒党を組んで暴れている。
それを耳にした東郷の動きは早かった。
家から刀を持ち出すと、修練時の姿のまま彼は中央街に向かって走り出した。
"悪即斬"が彼の信念である。
目の前で悪党が暴れているのに手をこまねいている訳が無かった。
東郷はひたすら走った。
中央街まではエアバイクで5分程度だ。走りであれば1時間ほど掛かる。
なぜ走るのか?
それは彼がまだ免許を取得していないからだ。
バイクの免許は16歳から取得できる。
ドライビングスクールに通えば一ヶ月程度で取得できるが、彼は中卒金無しだ。
修練を理由に仕事も碌にしていない。
必然彼の足は己の足だけになる。
そんな彼に救いの手を差し伸べる者がいた。
親切なシティガールだ。
変人の東郷は中性的な容姿で顔だけは良い。
仕事もせずに鍛錬もしているため体も絞られており、非常にモテる。
そして、彼がトラブルにはいつも顔を出す事、足を持っていない事は周知の事実であるため、
トラブル発生時は彼目当てのナオン達が大挙して彼の家近くを訪れる。
本日、東郷を捕まえる事の出来た幸運なシティガールは東郷を助手席に中央街に急いだ。
その車内ではいつもの珍妙な会話がなされていた。
「かたじけなし」
「山田っち、今日も喧嘩?」
「山田ではない、東郷だ」
「うける〜」
東郷を乗せたエアカーは5分程で中央街の手前に到着した。
あまり近づき過ぎると運転手が危険なため、手前で止めてもらったのだ。
車を降りたあとの東郷は中央街に向けてひた走る。
中央街に近づくほど、ビーム粒子の残りカスの匂いが強くなる。
近づくに連れビーム砲が撃たれた時の特徴的な音も大きくなり、東郷は気を引き締めた。
「なんだコラ!」
「警察だコラ!」
しばらく進むと、警察とYAKU座の争う声が聞こえてきた。
東郷は迷わず声が聞こえた方向に進む。
急に現れた東郷を見て警察とYAKU座達は口々に叫ぶ。
「補導王が出たぞ!」
「クレイジー刀ボーイだ!」
東郷の評価はそれはそれは散々なものである。
未成年であるため補導で済んでいるが、警察は彼を捕まえたくて堪らない。
YAKU座もさっさと捕まえてシャブ漬けにしておもちゃにしたいらしい。
そんな散々な評価の東郷が彼らに一言告げる。
「義によって助太刀致す」
「早く帰れ!少年A!」
「毎度毎度迷惑じゃ!」
「いざ参る!」
「行くな!行くな!」
「あー!始末書がー!」
警察の声を背に東郷は突撃した。
ビーム砲とレーザー銃が飛び交うが彼には当たらない。
向かってくるビームとレーザーは全て刀で切り払われるからだ。
鍛えると出来るようになるらしいが多分気のせいであろう。
そんな神業的なものを見せた東郷は、遂にYAKU座達が陣地としている建物に到着した。
いよいよ血湧き肉踊る剣戟が始まる。
彼はそう思っていたのだが……。
「警察さーん!投降するでー!」
「ワイもやでー!」
当たり前だがビームもレーザーも通用しない怪物と誰が戦いたいものか。
YAKU座達は、東郷が陣地に到着すると即時降伏。
警察に保護してもらうことを選んだ。
そんなYAKU座達の対応を知ってか知らずか……。
「成敗!」
「ぎゃー!」
今更降伏なぞ許さんとばかりに東郷はYAKU座達をボコボコにした。
峰打ちなら死なないので安全だ。
「少年A辞めなさい!」
「安心しろ。峰打ちだ!」
「鉄の塊で人殴ったら駄目じゃろが!」
「峰打ち……」
「はい、刀は没収ね。補導するからついてきて」
「刀は武士の魂!何をするか!」
「山田くんさあ、いい加減にしないとお姉さん達でピーしちゃうよ?」
「はい、すみませんでした。書類書きます」
武士も官憲には敵わない。これ世の摂理なり。
こうして補導された東郷は、いつも通り警察に連れられて家に帰るのであった。
そして家に帰れば夕刻で、修練の時間であった。
不完全燃焼状態で八千本の立木打ちをする東郷の叫びは、
それはそれはうるさかったそうだ。
◆
次の日、東郷はいつも通り日が昇らないうちに目覚め、庭先に出る。
きええええと三千本の立木打ちをしたところで彼は郵便受けに向かった。
何か手紙が着ていないか確認するために。
この時代、手紙でのやり取りは途絶えて久しく、それを東郷も分かっている。
しかし今日はどうやら違うらしい。
胸騒ぎがしたため、彼は思わず郵便受けに向かったのだった。
「なんだこれは?招待状?」
郵便受けの中には招待状と墨で書かれた手紙が入っていた。
東郷はすぐさま手紙の中身を検める。
「"きたる12月28日、エドで兵(つわもの)を集め立ち会いたし"か……。
送り主は書かれておらぬな。どうしたものか……」
東郷は金が無かった。上京することなど不可能に近い。
しかし、彼は無駄に行動力だけはあった。
「かつての薩摩武士は参勤交代で歩いて江戸まで登ったと聞く。
ワシもそれにあやかって行くとするか。
幸い今は8月、寒さで死ぬことはなかろう。」
こうして一人の行方不明少年が鹿児島の地に誕生した。
少年の名は東郷チュウイ。
特徴:身長160cm程度。急に叫びだす。帯刀している。古めかしい喋り方。
見つけた方は、こちらの番号まで連絡ください。
☓☓☓-1234-☓☓☓☓
カゴシマPref.警察より