カゴシマPref.キリシマシティ。
いつもはうるさいこの町の朝夕は、最近静かである。
東郷が旅立ってから一週間、異変に気付いた近所の住民が通報。
東郷の捜索願が出されることになった。
そんな事を知らない東郷はひたすら北上していた。
道なき道は……この時代には既にない。
よっぽど変なルートを選ばない限りは舗装された道路を歩くことが出来る。
流石の東郷でも変な道は選ばないと思われたが、彼は常に斜め上を行く行動をする男。
"直進行軍"と自身の行動を銘打ち、ひたすらに真っ直ぐ進んでいた。
ある時は人家の屋根を、ある時は険しい崖を、またある時は川を。
気付いた時、彼はキリシマジャングルの中を彷徨っていた。
…
……
………
「ここはどこだ?」
ブンブンと愛刀を振り回し、邪魔な樹木の枝を切りながら東郷は自問する。
──キリシマジャングル、国が指定する難関天然記念物公園の一つだ。
無政府状態のジャングルを跋扈するのは、ロボット3原則を何処かに置いてきたアンドロイド、遺伝子組み換え動物とそいつらを狩るためのハンター。
そう、ここは三国志状態の危険地帯。
地元民は絶対に近寄らないため、生まれも育ちもキリシマっ子の東郷も当然ここに来たことはなく、実情も知らなかった。
そんな東郷がフラフラと歩いているとアンドロイドに発見されてしまった。
アンドロイドは警戒音声を放ち、戦闘態勢となる。
「敵性生物発見、発見。タダチニ排除シマス」
「む!アンドロイドか!相手にとって不足なし!」
一見、アンドロイドに対し、人は不利に見える。
尽きぬスタミナ、人を軽く超える膂力、予備動作無しの攻撃などなど、ストロングポイントを挙げれば枚挙に暇がない。
しかし、薩摩武士が修めた示現流には対ロボット用の必殺技がある。
その名は──モンキーシャウト(猿叫)。
東郷が日々の鍛錬で叫んでいたのは決して気合を入れる為ではない。
対ロボット戦を想定しての事だ。
モンキーシャウトは口から超高周波の音波を発生させ、ロボットの中枢回路を破壊する必殺技なのだ。
生身の人間に対しては、ビビらせる、鼓膜を破る効果などがあるがあくまでサブ的な武器になる。
「キエエエエエエエ!」
「破壊、ハカイ、ハカ、ハカ……」
「他愛なし!」
"ザンッ"
見事モンキーシャウトを決めた東郷は、中枢回路が壊された物言わぬアンドロイドを一刀の元に切り捨て、その場を後にした。
◆
それから東郷は迷いながらもキリシマを真っ直ぐ進んだ。
出会うものは先程倒したアンドロイドの残骸ばかり。
突然だがリングワンダリングという言葉をご存知だろうか?
森林や山中では代わり映えのない景色が続くことが少なくはない。
この様な迷いやすい場所で同じところをグルグル回ってしまう現象のことをそう呼ぶ。
東郷も絶賛それを体験していた。
真っ直ぐ進んでいるつもりなのだが、実際は少し曲がったりしているため、同じところをグルグルと回っていた。
何度も同じアンドロイドの残骸を見て、流石におかしいと思ったのか彼は呟いた。
「これは……敵の攻撃を受けている!」
気付いてからの東郷の行動は苛烈だった。
"許せん"とばかりに、手当たり次第樹木を切り倒し、目印を作り、遂にリングワンダリングのるつぼから逃げ出したのだ。
ちなみに先程から東郷は何の気なしに木を伐採しているが、自然破壊は犯罪だ。
バレたら大変なのだ。
こうして迷子から自然破壊者にジョブチェンジした東郷は直進行軍をやめ、目の前のデカイ山を目指すことにした。
あらなら見失わないだろうと彼は考えたのだ。
デカイ山の名はキリシママウンテンと言う。
──キリシママウンテン、別名死の山。
キリシマジャングルを進む者の目的は、この山を登ることである。
山頂には伝説の鉾が刺さっており、抜いた者は人智を超えた力を手にすると言われている。
この山を登る際は以下の事に注意されたし。
突如溢れ出る湧水、火山弾、巨大な殺人カラス……色々なものが登山者の命を狙っている。
そんな危険な山だが、そもそも登頂するにはジャングルを突破する必要がある。
東郷はと言うと、マウンテンまで3分の1程度しか進んでいない。
一週間でその程度だ。マウンテン到着は何時になることやら……。
◆
…
……
………
あれから3日が経過した。
東郷は今ハンターと戦っている。
遺伝子組み換え動物達の平和のために。
「刀ヤンキーが出たぞー!」
「撃て撃て!」
「剣は銃より強し!」
なぜ東郷が動物の味方をし、人間のハンターと戦っているのか?
それは、遺伝子組み換え動物の長(イデオサ)のテレパスを受信した為である。
細かい理由など薩摩武士にはいらない。
"義によって助太刀する"、戦う理由はそれだけで良い。
一方のハンター達はどうだろうか?
彼らはなぜ動物を狩るのか?
人々を助けるため?望まれず生まれた動物達を天国に送るため?
いやいや、そんな高尚な理由はない。
理由はハンティング遊び。それだけ。
つまり東郷が成敗することは真っ当な行為である。
一人、また一人と東郷の峰打ちでハンター達は刈られていった。
今では彼らが狩られる側だ。
そんなハンター達だが一人だけ骨のある者がいた。
その名は木戸山河(キドサンガ)。
サンダンスキッドの生まれ変わりと自称する彼は、狩りに使う銃は実弾のマグナム銃だ。
薩摩武士(自称)vsガンファイター(自称)の世紀の決戦は避けては通れそうにない。
「やるな侍!俺の名はサンダンスキッド!」
「お主こそ!我が名は東郷チュウイ!」
「埒が明かねえから、早撃ち勝負といかねえか?」
「面白い!居合抜き勝負だな!」
喋る内容は違うが何故か話が噛み合っている二人。
二人は互いの獲物が届く位置に立ち、居合の構えと抜き打ちの構えを取る。
「このコインが落ちたら開始だ!分かったな!」
「承知した!」
東郷の返事と共に"ピン"とコインが弾かれる。
瞬間東郷は居合抜き、木戸は抜き打ちをした。
弾かれる銃弾、避けられる刀。
二人してルール無視の無法者である。
二人は自分の行動を省みず、相手だけを責めた。
「卑怯だぞ侍!コインが落ちてからだろ!」
「お主こそ卑怯だ!」
結局取っ組み合いの喧嘩に発展したが、救援に来たイデオサパンチで木戸がノックアウトされ、ジャングルの平和は守られた。