「どうしたんだその姿は!」
――どこかの時間軸
雷鳴が吼え、滝のような雨が降り注ぐ荒波の中を一艘の船が突き進んでいた。
船上では大勢の船員が行き来して帆を畳み、荷を固定し、時折大きく揺れる甲板に足を取られぬよう踏ん張っている。
「大頭ァ! この向かい風じゃ無理でさァ! どうやっても夜明けまでかかっちまう!」
「スネイク! 嵐が晴れる予兆はないのか!」
「無理だ! 積乱雲がこの先もずっと連なってる。このままだと雹が降るぞ!」
「急ぐんだ! 船体がバラバラになってもいい、全速力で突っ込め!」
「アイアイサー!」
ロープを握り締めるクルーたちに激を飛ばしながら赤髪の男が操舵室に向かう。
操舵輪を握る男は船長に軽い会釈をすると険しい顔で正面に視線を戻した。
船窓に打ち付ける激しい雨音を聞くだけでも、この先の航路が困難を極めることがわかる。
「焦ってもろくなことがねえぞ、お頭。少しは落ち着け」
副船長の言葉に小さく溜息を吐き、赤髪の男――シャンクスは、目の前の暗い海を見つめた。
(間に合ってくれるといいが……)
* * *
――エレジア・旧市街
時は少し遡る。
ライブ会場から離脱したコビーとブルーノは、ヘルメッポが合流地点に指定した場所に“ドアドアの実”の能力で移動した。
空中に小さな“
ヘルメッポ「おっ、ようやく戻ってきたか!」
ブルーノ「なんとか逃げられたな……」
コビー「うう、ルフィさんが……」
ヘルメッポ「お、お前……コビーか!? どうしたんだその姿は!」
なんとコビーもブルーノも、ぬいぐるみのような小さな姿になってしまっていたのだ。
ヘルメッポ「お前……こんなに小さくなっちまって……」
ロー「ベポと同じか……。どうやら説得は失敗したようだな」
ローの言葉に、コビーはヘルメッポの手の上でしゅんと頭を下げる。
ミニコビー「はい……。観客もぼくらも、ウタの能力で姿を変えられてしまいました」
ミニコビー「ルフィさんはぼくたちを庇って逃がしてくれました。まだライブ会場にいるはずです」
ミニブルーノ「そっちは?」
ローが後ろを親指で指すと、建物の奥から海賊たちが出てきた。
ビッグ・マム海賊団のブリュレとオーブン、そしてクラゲ海賊団の面々が集まっている。
オーブン「ちょっと待て、麦わらだと?! あいつと手を組むとは聞いていない。死んでも御免だ」
ブリュレ「じゃあね。ウタを倒すのは勝手にやらせてもらうよ!」
ブリュレは“ミラミラの実”の能力で鏡を出すと、オーブンと手下たちを吸い込み、自分もその中へ消えてしまった。
ヘルメッポ「おい、待て!」
ロー「チッ、麦わら屋は一体何を考えてる。あいつらがウタの弱点を見つけてくれないと勝負にならないというのに」
ミニブルーノ「ああ……“ドアドアの能力”も、この身体じゃあ……」
ミニコビー「そういえば、ウソップさんはどうしましたか?」
ロー「さあな。仲間と合流しているなら一緒に戻ってくるだろう」
* * *
――その頃のウソップ
ウソップ「フ゛リ゛ン゛セ゛ス゛・ウ゛タ゛に゛そ゛ん゛な゛こ゛と゛が゛あ゛っ゛た゛な゛ん゛て゛ェ~~~~~~!!!」
サニーくん「サ゛ニ゛~~~~!!」
ゴードン「そうなのだよ!わかってくれるかね!!きみも!!!」
ウソップ・サニーくん「う゛あ゛あ゛~~~~~~!!」「サ゛ニ゛ィ~~~~!!」
ミニベポ「……あちょー…」
ゴードンが情感たっぷりに語る過去回想に涙する一人と一匹を、若干引いた目でベポが見守っている。
ウソップ「ううう……ひでェよ……いくら才能があるからってエレジアに一人置き去りにするなんて……まだたったの8歳だったのに」
サニーくん「サ゛ニ゛~~!」
ウソップ「ズビッ……おれの親父もよォ……おれが小さい頃に出ていったっきり、ずっと放ったらかしだった。でもあんたはプリンセス・ウタのそばにずっといてあげたんだろ?」
ウソップ「小さな頃からずっと育てて、国を滅ぼされても誓いを守って……立派だよアンタはァ!」
ゴードン「……ウソップくん」
号泣するウソップにぎゅっと両手を握られ、ゴードンは洟をすすり上げながらも項垂れる。
ゴードン「きみに話せてよかった……。だが私は……私は、きみにそう言ってもらえるような資格はない」
ウソップ「そんなこと気にするなって! でもそうか……その『トットムジカ』ってやつだけが“ウタウタの世界”と現実とを繋ぐのなら、もうそれは使えないのか……」
* * *
――さらに時間は遡る
コビーとブルーノの協力によって五線譜から解放されたゾロ、サンジ、ナミ、チョッパー、ブルック、ロビン、フランキー、ジンベエの8人は、エレジアの城地下に潜っていた。
そして……
バルトロメオ「麦わらの一味の皆さんとご一緒できるなんて、光栄だべ~~~!!」
脱出の際に階段を上ってギリギリ追いついたバルトロメオもそこにいた。
彼らは考古学者のロビンが調べていた、エレジアの“とある事件”の調査に来たのだ。
はるか昔にエレジアで、“ウタウタの実”の能力者が禁断の楽曲を歌い、世界を滅ぼそうとした事件。
ロビン「もしもその時の記録が残っていれば、“ウタウタの実”の能力の弱点がわかるかもしれない」
ゾロ「微かすぎる望みだな」
サンジ「ロビンちゃんを信じろこのバカマリモ!」
ゾロ「事実だろ素敵マユゲ!」
チョッパー「ふんふん……あっちに本がいっぱいの部屋があるって!」
城ネズミから情報を聴き取ったチョッパーが示す方向に、地下書庫があった。
ゴン、ガン! バキィン!!!
固く閉ざされた扉をゾロとサンジがぶち破り、一同は書庫内へと足を踏み入れた。
中の空気はひんやりと冷え、小さな物音でも遠く反響するほど広大で静謐な空間が広がっている。
ロビン「これだけ防音がしっかりしていたら、ウタの能力も届いてなさそうね」
ジンベエ「歌声が届かぬところは大丈夫と、海軍のヤツも言っておったからの」
ナミ「意外にホコリっぽくないのね。手入れがされている……あ、鏡」
ブルック「ヨホホホ、これぜーんぶ昔の記録なんですか?すごいですねェ」
天井まで敷き詰めれられた本棚の列をぐるりと見渡して、ブルックは驚いている。
フランキー「こんなにあるのに一体どうやって探すんだよ」
ロビン「図書目録とかないかしら。あるいは司書がいれば……」
ぶつぶつと呟きながらロビンが書庫の棚に手を触れる。
すると、背後から鈍い物音が響き、一同振り返った。
チョッパー「なんだあれは!!」
奥に眠っていた古い彫像の目に光が入り、ゆっくり立ち上がると武器を構えてこちらに向かってきたのだ。
その後ろには同じような彫像が眠る貯蔵庫が見えている。
ナミ「まさか、警備システムなの!?」
石像の目がキラリと光った瞬間、フランキーは急いでロビンを庇いジャンプした。
直後、ビームが一直線に床を走り、二人のいた位置をジュっと焼き焦がす。
サンジ「ロビンちゃんに何すんだ! “
ゾロ「三刀流…!!“
刀を抜いたゾロと足に炎を纏ったサンジが反撃に躍り出た。
凄まじい斬撃と蹴撃を浴びた彫像が吹き飛ばされ、バランスを崩して倒れる。
フランキー「“ストロング
バルトロメオ「“バリアクラッシュ”!!!」
フランキーとバルトロメオも技を繰り出し、迫り来る彫像を砕こうとする。
他の面々もロビンを庇うように周囲に散らばった。
ブルック「ロビンさんは本を探してください!」
ナミ「任せて! ロビンには指一本触れさせないから!」
バルトロメオ「ロビン先輩、ファイトだべ~~!!」
ロビン「みんな…!」
仲間たちの応援を受け、一気に書庫を調べようとロビンは“ハナハナの実”の能力を解放した。
チョッパー「
ナミ「
彫像が発射したミサイルをチョッパーがいなし、ナミは光の屈折を利用して自分とロビンの姿を隠す。
ナミの狙い通り、書庫の本に触れた攻撃対象が見えなくなった彫像たちはそれぞれ別の場所に向かって攻撃を始めた。
ナミ「……それにしても、こんなに厳重な警備があるなんて! 一体何がここに眠ってるの?!」
ロビン「わからないわ……エレジアが何百年と続く歴史を持っていたとしても、こんな近代的な攻撃をするシステムがあったのかしら」
バルトロメオ「もしかして……超古代の技術ってヤツなんだべか?? あだっ!」
ナミ「ちょっとちゃんとバリア張りなさいよ、危ないでしょ!」
チョッパー「おいみんな! あれ!」
チョッパーが指差した先から、今までの彫像より2倍は大きい巨像が姿を現した。
サンジ「
ゾロ「一刀流!“
サンジの蹴りを食らって巨像の首が落ちる。その横を飛び出したゾロの一太刀が巨像の身体を粉々に砕いた。
続いて現れた彫像たちに対し、ブルックが
ブルック「“
カチーンと凍った氷床に足を取られた彫像がまとめて転倒し、バラバラに崩れた。
さらに、構えを取ったジンベエが勢いよく片手をフランキーに突き出す。
ジンベエ「「魚人空手」!! “鮫肌掌底”!!!」
突き飛ばされたフランキーは空中で高速回転しながらビームをド派手に放出した。
フランキー「“ラディカルビ~~~~ム”!!!
ドカドカドカーン! ズドーン!!!
チョッパー「やばい、崩れてきた!」
あちこちにビームが命中したせいで壁にヒビが走り、天井が崩落し始めたのだ。
瓦礫を避けながらチョッパーが右往左往する。
ゾロ「誰だ、こんなトコで派手にやったヤツは!」
フランキー「スーパーすまねェ!」
フランキーは素直に謝った。
ナミ「ちょっと、どうすんのよ! まだ手がかり見つけてないのに!」
サンジ「ロビンちゃん、大丈夫か!?」
ロビン「ええ、まだ……もう少し……!!」
ロビンは目と手を大量に生やして書庫全体を
ブルック「このままじゃ生き埋めになります! あっ私、生き埋め似合いそう!」
バルトロメオ「うおおお~~!! ここはおれに任せるべ!!! “バリアボール”!!!!」
バルトロメオがバッと勢いよく印を結び、自分を中心に巨大なバリアの球を生み出した。
落ちかけた天井も剥がれそうな壁も、バリアに押されて動きが止まる。
チョッパー「や、やったー!」
ナミ「これでもうしばらくは平気ね!」
ゾロ「やるな、お前」
バルトロメオ(ゾ、ゾロ先輩に褒められた~~~!!)
バルトロメオは感激に滂沱した。
サンジ「攻撃が止まった。おれたちも急いで手がかりを探そう!」
フランキー「どうやら書庫に触れると反応するセンサーみてェなモンもバリアで遮れるみてェだな」
バルトロメオ「べ、へへへ……でも早く探して欲しいべ。この大きさで維持するの、結構大変で……」
冷や汗をだらだらと流しながらバルトロメオは天井を見上げる。バリアが薄くならないか監視するためだ。
バルトロメオ「ん? なんだべ? あれは」
ナミ「どうしたの?」
バルトロメオ「天井に何か描いてあるべ……落書きか?」
ロビン「そんなはずは……はっ!」
同じように天井を見上げたロビンが目を見開いた。
ロビン「ニワトリ君! お手柄!」(バシッ)
バルトロメオ「べっ!?」
ロビン「フランキー!!」
バルトロメオの背中を軽く叩いたロビンが振り返り、意図を察したフランキーが親指をぐっと立てる。
フランキー「おうよ! フランキー~~~~
ピカーッ!とフランキーの胸部が煌き、二つのライトが天井を明るく照らし出した。
そこには何かの儀式を描いたような絵画が描かれており、薄暗くて読み取り難かった文字もフランキーの乳首(ニップル)ライトでよく見えるようになった。
ナミ(しまった、ツッコミ役のウソップがいないわ……)
サンジ(普通に役に立ってるだと……)
ロビンは気にせず天井の文字を読み上げていく。
ヒトオノソレ ヒトノマヨイ
トットムジカノ ナノモトニ
オビエヨ ニゲヨ トラワレヨ
ユメノサナカニ マドエヨ タミヨ
ウタウタノ ミノ チカラトトモニ
ホロビノ マオウハ ヨミガエル