そこにはかつて、“ウタウタの実”の能力により恐ろしい存在を呼び出した伝説が記されていた。
争いの止まぬ時代、人が誰でも持つ救いを求める心から顕われた、誰にも侵されることのない恐ろしい魔王。
愚かしくも“その存在”を生み出してしまった罪深さと共に。
……我らはここに封印する 決して覗くな 開けるな 崇めるな
……もしまた三度、ウタウタが現れたなら
……喉をかき切り 歌わせるな
……さもなくば 夢と現の 双方から
……ウタウタの者を 弑すべし
ロビン「……!」
ナミ「ロビン、何が書かれてたの?」
ロビン「……いえ、これだけでは足りないわ。他に手掛かりが……」
ゾロ「おい、ここ隠し扉じゃねェか」
ゾロがコツコツと壁を叩くと、漆喰がパラパラと剥がれて木製の扉が現れた。
中に入ってみるとそこは小さな書斎のようになっていて、書きかけの日記や空のインク壺など、最近まで使われていた形跡がある。
ロビン「この本棚…! 『トットムジカ』の資料はここに移されてたのね」
ジンベエ「この様子からすると、誰かが先に調べていたのかもしれんのう」
ナミたちも本棚から一冊抜き取って開いてみる。するとそこには古代文字ではなく今の文体で記録が記されていた。
ナミ「よかった、これなら私たちもロビンを手伝えるわね!」
ブルック「ヨホホホ、では私もお手伝いましょう」
バルトロメオ「みなさん方、早くしてけろ…!! あ、あんまり長いと、体力が……」
フランキー「おう、悪ィなもう少し頑張ってくれィ」
サンジ「ん? こりゃあ……」
戸棚を探っていたサンジは、奥に何か挟まっているのを見つけて、腕を伸ばして探った。
引っ張って取り出したのは、箱型の道具がついた何かの貝だ。
サンジ「……
チョッパー「サンジ動かせるか?」
サンジ「ウソップなら詳しいんだがな……」
あちこち探っていたサンジは、裏側の突起をポチっと押した。
すると、映像貝から光が溢れ、壁に何かを映し始めた。
* * *
――XXXX年XX月XX日。私はこの映像を電伝虫に記録する……
――トットムジカの話は本当だったんだ! あの伝説の……うわっ!
――と、トットムジカによってよみがえった魔王が、街を破壊している!
――城から離れろ! 港へ急げ! 駄目だ、そっちは危なーい!!!
ドォン!! ドォン!!
――あ、あああ……ああ、街が!港が! ……母さんっ!!!
――なんでだ……なんでだよ! ちくしょおおおっ!!
――なんで魔王なんかよみがえらせたんだ!!!
――……この映像を見ている人! 気を付けろ、ウタという少女は危険だ!
――あの子の歌は世界を滅ぼす!
――歌わせなきゃよかった、あんな子が来たからエレジアは……! はっ!
――ひィッ! 化け物! く、来るな! 来るなー!! ぎゃあああああっ!!!
* * *
全員、言葉を失っていた。
映像に記録されていたのは凄惨な光景だった。
街がひとつ……いや国がひとつ、焼かれている。
巨大な何かが燃える街を闊歩し、稲妻のような光を放って破壊の限りを尽くしていた。
この映像を記録していた人間も、おそらく亡くなったのだろう。
一度強い光が目の前で炸裂した後、電伝虫が転がって映像が斜めになり、それきり声が聞こえなくなった。
チョッパー「ロ、ロビン……大丈夫か?」
無意識に口元を手で押さえていたロビンは、我に返って小さく深呼吸をした。
ロビン「ええ……大丈夫。それよりこの映像を調べましょう」
ロビン「記録していた人間の言葉によると、おおよそ十三年前の映像のようね」
ジンベエ「なに!? 『トットムジカ』は太古の昔に封印されたんではなかったんか?」
ブルック「その封印が解けてしまったんでしょうねェ、十三年前に」
映像はまだ続いていた。
記録者の音声が聞こえなくなった後、空を横切る何者かが映ったのだ。
ナミ「あれは……!」
麦わら帽子を被った赤い髪の男を先頭に、数名の男たちが武器を構えて飛び去って行く。
しばらくして、叫び声のような音が轟いたあと、突如破壊行為は治まった。
空から落ちてくる何かを受け止めようと走っていく男の背中が映し出される。
降りてきたのは、小さな少女だった。
男は両手を広げて優しく受け止めると、ひしと抱きしめているようだった。
その男の傍に数名が近寄り、何か話した後、男の指示で立ち去っていく。
やがて白い礼服を血で汚した背の高い男が、少女を抱いている男の元にふらふらと歩いてきた。
怪我をしたのか、頭に包帯を巻いている。
『シャンクス……! ウタ……! よかった無事で……』
ゾロ「シャンクスだと……?」
サンジ「あの“赤髪”か!?」
二人は揃って驚いた。映像に映っているのは、今や四皇と呼ばれる“赤髪のシャンクス”なのか?
そこから一旦映像が途切れ、再び点くと、少女の姿は無く二人の男が立っているだけになっていた。
『もう海軍が……』
『……には黙っていてくれないか。……あまりに酷だ』
『ああ、海軍には私の……』
『………。おれたちだ。赤髪の………その一味、赤髪海賊団がやった。……にはそう伝えてくれ』
『……置いていくつもりか?』
『あいつの歌は……なんだ。……わけにはいかない。あんたの手で……』
『あいつの歌声に罪はない』
遠くにいるため声はかなり聴き取りにくいが、その言葉だけははっきりと聞こえた。
やがて赤髪のシャンクスはどこかへ去っていき、残された包帯の男だけが彼に向って叫んでいた。
『承知した! エレジアの王ゴードンは音楽を愛していたすべての国民に誓おう』
『必ずウタを世界中を幸せにする最高の歌い手に育て上げる!』
チョッパー「……封印を解いたのは、プリンセス・ウタだったんだな」
ロビン「それで魔王を呼び起こしてしまったという真実を隠し、赤髪海賊団が滅ぼしたことにしたのね……」
ナミ「当時有名な事件だったわね……私も新聞で読んだことあった」
フランキー「……ん? 映像はまだあるみたいだぞ」
ザザッとノイズが走り映像が途切れた後、再び廃墟のエレジアの様子が映し出された。
しばらく何も起こらなかったが、やがて、転がるように走っていく小さな少女の姿が端から端へ横切っていく。
その後、映像は変わらなかったが、泣き叫ぶような少女の声だけが記録されていた。
『シャンクス―!! 置いてかないでーーー!!!』
『なんで……なんでだよ!! ああああああぁああああああーーーーー!!!!』
映像記録が終わった後、誰もが沈黙していた。
やがて、最初に口を開いたのはジンベエだった。
ジンベエ「……悲しい出来事だったんじゃのう」
ナミ「ひょっとするとウタは、赤髪海賊団に置き去りにされたって、ずっと思ってたのかもしれないわね……だから、『海賊嫌い』を名乗ってたのかも」
ゾロ「コビーの言っていたことがこれで証明されたわけだ。赤髪の娘か……」
ブルック「残酷なことを言うようですが、あのまま赤髪海賊団の一員となっていても、いずれはどこかで下ろされていたかもしれませんね……」
一同がしんみりしていると、書斎の外から苦しげに呻く声が聞こえた。
バルトロメオ「……お、終わったべか……? もう、限、界……」
バルトロメオが白目を剥いてバタンと倒れると、バリアが薄れて再び天井がミシミシと言い始めた。
ロビン「ごめんなさい! あと少しだけ頑張ってニワトリ君!!」
バルトロメオ「は……はい、だべ……」
一同はバルトロメオのバリアが消える前に急いで資料をかき集めると書庫を脱出した。
* * *
――そして現在
ブルーノとコビーがローたちと合流して十数分ほど経った後、崩れた民家の鏡の中から麦わらの一味とバルトロメオが姿を現した。
コビー「みなさん!ご無事でしたか」
ナミ「えっ……まさかコビー?! なんでそんなにちっさくなってんの!!?」
ミニコビー「あはは……これには事情が……」
二人が話している後ろで、さらに鏡の中からオーブンとブリュレたちが出てくる。
オーブン「チッ、戻ってくる羽目になっちまうとは……」
ブリュレ「ごめんねオーブンお兄ちゃん……」
実は本格的に城が崩壊を始めた際、気絶したバルトロメオを抱えた一同はブリュレの“
鏡の中から見ていると踏んだナミが、巧みな脅迫もとい交渉術でブリュレを説得。
家族に会えなくなると脅されたブリュレが半泣きで全員を“
ミニコビー「ロビンさん、ウタを倒す方法はわかりましたか?」
バルトロメオを民家のベッドに寝かせた後、ロビンは静かに語り出した。
ロビン「……昔の記録によると、“ウタウタの世界”に取り込まれた者は、自分の力で現実に帰ることはできないそうよ。絶対に」
『えっ!?』
ロビン「ただし、“ウタウタの実”の能力者……あるいは『トットムジカ』をよみがえらせれば……チャンスは訪れる」
オーブン「『トットムジカ』?」
ロビン「古代から続く、人の思いの集合体。寂しさや辛さなど、心に落ちた影。“魔王”と呼ぶときもある」
コビー「それは兵器なんですか?」
ロビン「……触れてはならないもの。そう伝承には書かれていたわ。何にせよ、起こしてはならない禁断の存在」
ロー「やはり『トットムジカ』の伝説はこの土地に眠っていたのか……」
フランキー「おめェ知ってたのか?」
ロー「噂程度だ。で、そのタブーを“ウタウタの実”の能力者が使った時、どんなチャンスが?」
その言葉にロビンも、他の一味も咄嗟に口ごもってしまった。
『トットムジカ』がよみがえった結果を見てしまったのだから。
ナミ「……私たち、記録を読んだわ。それによると『トットムジカ』を使い呼び出された魔王は、この“ウタウタの実”によるウタワールドだけじゃなく、現実の世界にも姿を現すみたい」
チョッパー「そのせいで、魔王を接点としてウタワールドと現実が繋がってしまうらしいんだ」
ブルック「その時に、魔王を二つの世界から同時に攻撃すれば……魔王を倒しウタワールドを消すことができる」
ブリュレ「本当かい!?」
オーブン「上手くいったから記録として残したんだろ? やってみるしかねェ」
出られる可能性があると分かったオーブンは大きく頷いた。
ミニブルーノ「現実の世界じゃ誰がウタを攻撃するんだ?」
ヘルメッポ「確かにおれたちは全員、“ウタウタの世界”にいる。現実世界のウタを攻撃できるとしたら海軍かサイファーポールぐらい……」
コビー「無理です、一般市民を傷つける恐れがある以上、海軍は手を出せません」
コビー「せっかくの情報ですが、現実世界に誰かいなきゃ……」
周囲に沈黙が広がる。片方の世界で行動を起こすだけではどうにもならないのだ。
ロー「そういやニコ屋。さっき妙な言い方をしていたな」
ロビン「えっ?」
ロー「【“ウタウタの実”の能力者……あるいは『トットムジカ』】……どういうことだ?」
ロビン「…………」
ロビンは少しだけ言い淀んだ後、ゆっくり口を開いた。
ロビン「……可能性の一つではあるけれど、“ウタウタの実”の能力者自身も『トットムジカ』と言えるかもしれないわ」
ミニコビー「えっ!?」
ロビン「彼女は自らの能力を発動する以上、現実とウタワールド両方を見ている。彼女の中で現実と夢が繋がっているから、歌うことで心を夢の世界に取り込めるのよ」
ヘルメッポ「なるほど。歌っている時は現実から夢へ……能力が解除されれば夢から現実へ、ってわけか……」
ロビン「そう、おそらく今は一方通行。だから万に一つとは思うのだけど……」
フランキー「おいロビンまさか……」
ブルック「ウタさん自身が『トットムジカ』となる可能性があるということですか!?」
オーブン「そうなりゃ魔王となったウタを倒すだけだろう」
ブリュレ「えっ!?待ってよオーブンお兄ちゃん! そうしたらママの所に連れていけないじゃないの!」
オーブン「だから、もしもの時の話ってだけだ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ兄妹を尻目に、ローは眉をしかめる。
ロー「……本人がなる可能性もあるし、追い詰められて呼び出す可能性もあるってことか……厄介だな」
ミニコビー「どういう結果になるにしても、ぼくらが現実世界に戻るためにはウタに『トットムジカ』を呼び出してもらうしか方法がありません」
再び沈黙が訪れる。そこへ……
「おーい! みんな~!」
陽気な掛け声と共にやって来たのは、ウソップだ。
ナミ「ウソップ!」
ウソップ「よかった、みんな無事だったんだな~! 心配したぞコラ!」
サンジ「そりゃこっちの台詞だ! ルフィはどうした」
ウソップ「ありゃ?戻ってきてないのか? 確かコビーたちと一緒に……ってえええええーー!!なんだその不思議な生き物!?」
ミニコビー「あ、はい。コビーです」
ミニブルーノ「いまさらか」