あの日君に出会えなかったら   作:宝良

13 / 31
「誰だべ? あのおっさん」

 

 

チョッパー「ウソップー!!」

サニーくん「サニー!!」

 

ごつん☆

 

小さな生き物同士が頭をぶつけてぺしゃっと落ちる。

 

ゾロ「なんだ、こりゃあ」

ウソップ「そうだ、みんなに紹介しないとな。聞いて驚け! こいつはわれらが……」

サニーくん「サニー!」

ゾロ「は?」

サンジ「サニー号だと!?」

ナミ「かわいい~!」

ウソップ「聞けよオイ!!」

フランキー「一体どんな改造しやがった!?」

 

再会を喜ぶ麦わらの一味の横で、ベポとローも感動の再会を果たしていた。

 

ミニベポ「キャプテ~~ン!」

ロー「ベポ!……無事でよかった」

ゴードン「彼らがきみたちの仲間なのかい?」

 

ベポの案内で歩いてきたゴードンが、集まっている大勢の海賊を見て驚いている。

丁度そこへ気絶から回復したバルトロメオも現れ、ゴードンを見て首をひねった。

 

バルトロメオ「誰だべ? あのおっさん」

ウソップ「おう、お前も来てたんだな。この人はな、プリンセス・ウタの育ての親のゴードンさんだ!」

バルトロメオ「なぬっ!?」

チョッパー「ええっ!?」

 

プリンセス・ウタのファン二人はウソップの言葉に大きく反応している。

 

ゾロ「おい、あんたはどこまで知ってる?」

ナミ「ウタの能力や……『トットムジカ』のことも知ってるんじゃないの??」

ゴードン「『トットムジカ』……やはりそれしか方法がないのか」

サンジ「どういうことだ?」

ゴードン「あれは……あの楽譜はもう消失している」

 

『!?』

 

驚く一同に対してゴードンは語り始めた。

 

ゴードン「きみたちのことだからもう調べはついているだろう。十三年前の事件でのことだ」

ミニコビー「……赤髪海賊団がエレジアを襲ったという事件のことですか?」

ゴードン「そうだ。表向きはそうなっているが、実際は『トットムジカ』がエレジアを滅ぼした。……そう、知っているのだろう?」

ゴードンの問いにサイファーポールのブルーノは肯定を返す。

 

ブルーノ「世界政府は“ウタウタの実”と『トットムジカ』に以前から目を付けていた」

ヘルメッポ「海軍も、赤髪に娘がいたという情報を元に逆算して情報を集めていた。当時の記録があったからな」

ゴードン「あの時の海軍には世話になった。国王の私が嘘をついていると知っていて尚、手を差し伸べてくれたのだからな」

フランキー「おい、話が見えねェ! それで、『トットムジカ』はどうなったんだ?」

ゴードン「……あれは古い楽譜に封印されていたものだ」

ゴードン「事件が起こった後、私はその楽譜を探そうとしたが……結局見つけられなかった。きっと燃えてしまったか、原型を留めないほど破損してしまったのだろう」

ゴードン「だが、ここは夢の世界だ。もしかしたら……」

ロー「……ウタが持っている可能性がある!?」

ウソップ「……とまあ、そのあたりはさっきおれもゴードンさんから聞いたんだけどよ」

ウソップ「問題は現実世界との同時攻撃だろ? それについて、このキャプテン・ウソップ様に秘策があるんだ」

チョッパー「秘策?」

ウソップ「おうよ。ちょっと耳貸せ」

 

ウソップは身を屈めてチョッパーの耳にヒソヒソと囁いた。

数秒後……

 

チョッパー「えええええ~~~~~っ!!!!?」

チョッパー「だだだ駄目だ!!秘策の前にそれは医者としてちょっと許可はできない!」

ウソップ「そこを何とか!頼むよ~神様仏様チョッパー様~」

チョッパー「いやでも……うう……トラ男~~」

ロー「諦めろトニー屋。どうせ夢の中だ。人体への影響なんざ考える必要はない」

ゾロ「やることは決まったな。こっちはとにかくウタに『トットムジカ』を使わせる。それが出来ないことにはどうにもならねェ」

ロビン「現実世界のことは海軍に頑張ってもらいましょう」

ミニコビー「責任重大ですね……」、

サンジ「どの道『トットムジカ』を呼び出さなきゃ、世界の七割は眠ったまんまなんだ。海軍も本気出すだろ」

ナミ「こっちはひたすら攻め続ける。現実世界で攻撃が始まって、タイミングが合えば成功ってことね」

フランキー「よーし!ス~~パ~~任せろォ!」

 

フランキーが拳を突き上げると、他の海賊たちもオー!と鬨の声を上げた。

 

ヘルメッポ「おい!あんまり大声出すと見つかるぞ、静かに!」

バルトロメオ「くゥ~~~っ!ビビッてたおれァ、なさけねェ! 麦わらの一味の皆さんがいれば負ける気がしねェべ!!」

サニーくん「サニー!サニー!」

ブルック「ヨホホホ、みなさん盛り上がってきましたね」

ジンベエ「気合が入っとるのう。しかしこんな時にルフィはどこに行っとるんじゃ」

ミニコビー「ルフィさん……」

 

コビーはぬいぐるみの身体をしゅんと縮こませる。

 

ジンベエ「なァに、わしらは心配しとらんよ。ルフィなら無事に戻ってくる。うちの船長じゃからな」

 

信頼が伺える発言に、コビーもそうですね、と頷いた。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

――エレジア・砂浜

 

溺れていたルフィを助けた男は、片腕で抱えたまま悠々と泳ぎ、岸に辿り着くとルフィを砂浜の上に降ろした。

 

「うへェ……ベタベタになっちまったなァ、気持ち悪ィ」

 

濡れたシャツの裾を絞り、サンダルを脱ぎ、頭にかぶっていた麦わら帽子を取るとブルブルと犬のように頭を振る。

揺れる赤髪にルフィの目は自然と釘付けになっていた。そして……

 

「おっ、どうした? おれの顔に何かついてるか?」

 

麦わら帽子を被り直した男が、視線に気づき陽気に笑う。

 

ルフィ「……腕がある」

「ん?」

 

口から零れた言葉に男はきょとんと瞬きすると、腕を上げてぐっ、と力こぶを作ってみせた。

 

「あるぞ。それがどうした?」

 

力こぶを作った右腕を支えている……“左腕”。

ルフィの目にははっきりと映っていた。そう、確かにそこに“ある”のだ。

 

……ルフィにはもう、目の前の男が偽物にしか見えなくなった。

自分が知っている“本物”のシャンクスの左腕は、故郷・フーシャ村の近海に棲む海王類に喰われたのだ。

その時の衝撃、混乱、苦しみ、後悔の気持ちが綯い交ぜになってぐっと奥歯をかみしめる。

 

ルフィ「……おまえはだれだ」

ルフィ「お前はおれの知ってるシャンクスじゃない!! 何でソックリな格好してんだ!!!」

 

半ば衝動的に叫んだ言葉を、しかし男は涼しい顔で受け止めた。

 

「……ほう。坊主、おれの名を知ってるのか」

ルフィ「坊主じゃねェ! モンキー・D・ルフィだ!」

「モンキー・D……なるほどなァ。そういうことか」

 

「おい、遅ェぞお頭」

 

男の背後から、さらに見覚えのある別の男が現れた。

 

「ベック!」

 

ルフィより先に赤髪の男が名前を呼ぶ。

さらに……

 

「ガキ一人助けるのにいつまで時間かかってんだよ、お頭!」

「おい坊主! 怪我はしてねェか。擦り傷でもあったら手当てしてやるよ。お頭はその後だ」

「おれの心配もしろ!ホンゴウ!」

 

続々と現れた男たちは、誰もかれもが赤髪の男を“お頭”と呼び、慕っている様子だ。

そのすべての顔に見覚えがある。

 

副船長のベン・ベックマン。

大食らいのラッキー・ルウ。

狙撃手ヤソップ。

電撃使いライムジュース。

航海士ビルディング・スネイク。

船医ホンゴウ。

戦闘員ガブ。

音楽家コンビのボンク・パンチとモンスター。

 

彼らの肩を軽く叩き声を掛けていた赤髪の男は、まだ呆然と見上げているルフィに対し、振り返って口を開いた。

 

「名乗ってもらったからには、こちらも名乗り返さねェとな」

「おれの名はシャンクス。“赤髪海賊団”の頭(かしら)をやってる。“赤髪のシャンクス”だ。……本物だぞ?」

 

ルフィ「嘘だッ!!! だって……シャンクスは……ッ」

 

突如、ぐらりと倒れたルフィをシャンクスはあわてて屈んで支える。

 

シャンクス「バカ、あんまり大声を出すからだ。それに身体が濡れたままじゃ風邪ひくぞ」

ルフィ「うう……」

 

くらくらする頭を押さえるルフィをひょいと小脇に抱え上げて、シャンクスはスタスタと歩き出した。

 

シャンクス「ひとまずアジトに戻るか。うちのお姫様の機嫌が変わらないうちにな」

 

『おう!』

 

抱えられて揺れながら、ルフィは自分の小さくなった手足を見つめる。

……すっかり縮んでしまって。これではまるで子供の身体だ。

ルフィは今、かつてシャンクス達と出会った頃よりも幼い姿になっていた。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

シャンクスと名乗る男が連れてきたのは、寂れた酒場だった。

どこかフーシャ村にある酒場と同じ雰囲気を漂わせるが、優しい女店主や懐かしい常連客たちは当然いない。

その酒場で、男たちはにぎやかに酒盛りをしていた。

どこからか持ってきた酒樽で乾杯をし、冗談で笑い、ゲームで賭け事に興じている。

服が渇いた後、カウンターの席にちょこんと座らされたルフィは違和感にずっと顔を顰めていた。

 

……なんというか、大人しすぎるのだ。

 

海の男たちはもっと豪快で、馬鹿で、何かとすぐに拳で喧嘩を始める騒々しい集団なのだ。

あまりの騒々しさに村長が叱り飛ばすことなど日常茶飯事。

しかし彼らが酒場に居着いたお陰で、流れ者の盗賊や山賊が村に寄り着かなくなったという側面もあった。

まさに、功罪だ。

だがしかし……彼らも最初からそうだったわけでは、なかった。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

――回想・ルフィの記憶

 

その船が現れたのは、もう日が沈むかという時間帯だった。

ドクロの旗を掲げた海賊船は、フーシャ村の桟橋に錨を降ろすと、そのまま静かに揺れていた。

海賊どもが続々と現れると思って身構えていた村人たちは拍子抜けする。

やがて、船から一人の男が姿を現した。

渡板を歩いて降りてきたのは、黒いマントを羽織り麦わら帽子を被った、若い男だ。

 

「お前ら、海賊か?」

 

口火を切ったのは、7歳のルフィだった。

いつものように山の中で特訓していた彼は、海賊船の影を見て急いで走ってきたのだ。

不躾な物言いに村長たちが戸惑う中、怖いもの知らずのルフィは小さな拳をぐっと握る。

 

「海賊なら出てけ!」

「こ、こらルフィ……!」

 

村長たちは、怒った海賊がルフィを傷つけるのではと身構えた。

だが……男は麦わら帽子の下でルフィをまじまじと見ると、肩を竦めて笑った。

 

「この村には手ごわそうな保安官がいるんだな」

「?」

「いや、おれたちは喧嘩や略奪をしに来たわけじゃない。おれはシャンクス。この船の船長だ」

「長旅でとても疲れてるんだ。しばらく場所を借りたい。村長に話を通してくれないか」

「変なことしたら、タダじゃおかないからな!」

 

ルフィはそれだけ言い捨てると、ダッと走って村長を呼びに行った。

それから、村長と何か話し合ったのか海賊たちはしばらく村に滞在した。

最初の一、二日は大人しかったように思う。

しかし、三日目を過ぎたあたりから、ルフィが船や海の事を尋ねると、ぽつぽつと話してくれるようになった。

元々陽気な連中だったのだろう。話は次第に弾み、海がどれほど危険に満ちているか、未知と冒険に溢れているか、

子供のルフィに大袈裟に話したのだ。

それでルフィも次第に、海賊に憧れを持つようになった。

元々、狭い村を出て冒険することを夢見ていた少年だったのだ。

しかし、船に乗せてくれとせがむと、途端に怖い顔をして断られた。

 

『お前みたいに危なっかしいやつはダメだ』

『血の気が多すぎる。戦闘中に船番なんかできっこない』

『特技の一つもない弱っちいガキを仲間に入れてたまるか』

『ガキすぎるんだ。せめてあと10歳年とったら考えてやるよ』

 

散々に言われたものだ。

しかし、それ以外の話では海賊たちはルフィを邪険にせず、真剣に取り合ってくれた。

時折航海に出て帰ってきたあとも、冒険の話を楽しそうに話してくれた。

海賊たちの話を聞くうちに、ルフィは広大な海への探求心を無邪気に育てていった。

それが、あんな結果になるとは知らずに――

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

シャンクス「どうした? 腹でも空いたか。これ食っていいぞ」

 

カウンターに座っている男が、自分の食事の皿をルフィの方に寄せる。

 

ルフィ「……いらねェ」

 

ぐ~~~っ

 

『腹減ってんじゃねェか!』『ギャハハハハ!』『ガキが無理すんなよ』『おい、ミルクはいるか?』

 

ルフィ「うるせ~~~~!!」

 

盛大に笑われてルフィはムキーっと怒り叫んだ。いつもなら堪えるところだが、この顔の連中に言われてはたまらない。

 

ルフィ「夢ん中で食っても腹一杯になんねェだろ!!バカにすんな!」

シャンクス「なんだお前、ここが夢の中だって知ってんのか。そりゃしょうがねェなァ」

 

したり顔で頷いた男は皿を手元に戻し、スプーンを左手でくるりと回している。

 

ベックマン「おれたちは元から夢の住人だからな。現実の人間と違って腹は膨れるのさ」

ラッキー・ルウ「そうそう。メシがなくなることもないしな」

ルフィ「夢の住人?」

ヤソップ「ああ、そうさ。おれたちはウタが作り出した思い出の中の存在だ。“本物”ではあるが“本人”じゃねェよ」

ライムジュース「“外”のおれたち今頃何やってんだろうなァ。懸賞金上がったか?」

ルフィ「???」

 

笑う海賊たちの中でルフィは理解しきれず首を90度に傾けている。

 

シャンクス「理屈はこうだ。ウタはな、“ウタウタの実”の能力を使ってこの世界を作ってる。ここでは船も食べ物も人間も好きに生み出すことができるのさ」

シャンクス「そういうモノはウタが眠ると能力が解除されて全部消えちまうんだが……おれたちは何度も何度も繰り返し生み出されたせいか、夢が消えても残るようになっちまったんだ」

ベックマン「深層心理だか潜在意識だか……そういう心の深い場所におれたちは住んでて、ウタが思い出したときだけこっちに顔を出せる」

シャンクス「最近は御無沙汰だったんだがなァ……やっぱり最後のライブに命を懸けてるせいか」

 

“最後”という言葉にルフィは反応する。

 

ルフィ「あいつやっぱり、死のうとしてるのか?」

ヤソップ「『死ぬって何?』って、ウタなら言いそうだな」

ホンゴウ「ウタは現実の肉体を捨ててこっちに籠ればみんな幸せになれると思ってる。ここには飢えも病気も苦しみも、死すらないからな」

ルフィ「でもそんなのは自由じゃねェ」

スネイク「“自由”……今のウタには一番遠い言葉だな。あいつは昔からずっと“自由”を奪われてる」

シャンクス「エレジアに置き去りにされてから、生きることと歌うことしかすることがなくて……島の外にも出られなかった」

シャンクス「本当、なんでおれたちはウタを置いてっちまったんだろうなァ……」

 

他人事のように言って遠い目をするシャンクスに、ルフィは更に違和感を感じていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。