『シャンクスの娘なら何で海賊狩りなんかするんだ。おかしいだろ』
ルフィ「おい!なんだお前! ニセモノか!」
思わず走って自分の姿に近寄る。
けれど脚を掴んで揺さぶっても、蹴っても、子供の小さな身体ではびくともせず石像のように微動だにしない。
ルフィ「おいシャンクス! なにやってんだよ! おい!」
シャンクスも、ゴードンも、ベックマンも、誰一人としてこちらを見ない。
ルフィだけがこの場に取り残されている。
ルフィ「冗談じゃねェ……お前を責めるのにおれを使うな! ここから出せよ!」
ルフィ「こんなつまんねェ世界、いつまでも続けんなーー!!」
怒りのままに、ルフィはウタに掴みかかろうとして……
「ちょっと! 何してんの!」
その腕を、小さな手に掴まれた。
「危ないじゃないの!」
声と共にぐいっと引っ張られて振り返った先にいたのは。
先程レッド・フォース号に向かって泣き叫んでいた小さな少女のウタだった。
ルフィ「えっ? あ…」
二人いる??
咄嗟に後ろを向くと、そこにうずくまっていた大人のウタの姿は既に無く。
周囲もいつの間にか元の酒場に戻っていた。
ルフィ「いてててて!! おい何すんだ!!!」
「それはこっちの台詞よ! なに勝手なことしてんの! あの状態の“私”に触ったら取り込まれてたわよ」
ルフィ「お……お前には触ってんじゃねェか! 痛え!はなせ!!」
凄い力で握られていた腕がぱっと放されて、ルフィは慌てて距離を取った。
黄色のワンピースを着たその少女は、両手を腰に当ててふんぞり返っている。
「あたしは!“私”が作った記憶の中のあたしだから問題ないの。そんなことも知らないわけ?」
シャンクス「まあまあ、ウタ。こいつはさっき来たばかりだからな、知らなくて当然だ」
左目に三本の傷跡と、髭のある顔に戻ったシャンクスが、“ウタ”と呼ばれた少女の頭にぽんと手を置いた。
ウタ「甘やかしちゃだめよシャンクス! こういうのは最初が肝心なの」
シャンクス「ああ、それもそうだな。うちのお姫様はかしこいな」
ウタ「ふふん、当然でしょ!」
ルフィ「すっげェ甘やかしてる……」
思わずルフィがツッコミを入れる程、男は少女に甘々だった。
ベックマン「なんだウタ、先に戻ってたのか」
ウタ「ベック! ヤソップ、スネイク、ライム、ラッキー・ルウもお疲れ!」
ヤソップ「おう、お疲れ」
スネイク「今日はこれで終いか?」
ウタ「んーどうだろう……最後に大きいのが残ってるんじゃないかな。走馬灯ってやつ?」
ライムジュース「あーそりゃ大がかりだな」
ラッキー・ルウ「ま、それまでは暇だってことだな。メシにしようぜ!」
男たちは再び席に戻って騒ぎ始めた。
腕の痺れがやっと治まったルフィは、少女に近づくとずいっと顔を寄せた。
ルフィ「おいお前、さっさとおれを元に戻せ!」
ウタ「失礼なガキね。お前じゃなくて“ウタ”って名前があるんですけど。特別に呼ぶの許してあげるわ」
ルフィ「うるせー! 誰が呼ぶか!」
ウタ「じゃああたしもガキって呼ぶわ。ガーキ!ガキ!!」
ルフィ「なんだとー!」
シャンクス「二人とも、同い年同士仲良くしなさい」
父親の諫める声に娘は心外だと言わんばかりに口角を下げる。
ウタ「あたし現実では21だもん! あんたは?」
ルフィ「……19」
ウタ「ふっ、勝った。あんたより2歳もお姉さんよ」
得意げに勝利宣言するウタに、ぐぬぬ……と歯ぎしりするルフィ。
逆転する要素のない勝負を挑まれるのは反則だ。
ウタ「……そうね、あんたがあたしとの勝負で一度でも勝ったら、考えてあげなくもないけど」
ルフィ「勝負?」
ウタ「そう。まずは駆けっこよ! 港まで先に着いた方が勝ち!」
言うが早いかウタはダッシュで酒場を出ていってしまった。
いきなりのことにぽかんとするルフィ。
が、次の瞬間、ハッと気づいて急いで追いかけた。
ルフィ「こらー! ズルすんなーーー!!!」
ウタ「海賊との真剣勝負にズルも何もないでしょー!」
酒場の扉の向こうから、叫ぶルフィとウタの声が聞こえてくる。
置いて行かれた男たちが顔を見合わせると、どっと笑い声が上がった。
シャンクス「だーっはっはっは! あいつら仲いいじゃねェか」
ベックマン「歳の近いガキとの交流は久しぶりなもんで、ウタもはしゃいでるな」
ラッキー・ルウ「ナメられないように喧嘩腰で行くから、嫌われてばかりだったもんなァ」
ヤソップ「おれの息子も歳が近いんだがなァ……会わせてやりたかったぜ」
* * *
ルフィ「待てェー!ちくしょー!」
ルフィは必死で走った。ゴムの手足を伸ばせば楽勝のはずなのに、この体はぴくりとも伸びず歩幅も小さい。
ルフィより少しばかり背の高いウタはあっという間に先へ行ってしまい、時折こちらを振り返って挑発するように顔の両横で手を振っている。
ルフィ「ふぐぐ……! なら……“ギア
ルフィは息を詰めて体勢を変え、足で地面を何十回も蹴った。
ぐん、とスピードの上がったルフィに驚いてウタは背を向け一目散にゴールを目指す。
それを追ってルフィは懸命に地面を蹴ったが……
ルフィ「……~~~っぐあああみじけえええ~~~!!!あし!!!」
蹴り続けるだけの筋力もない子供の脚ではいつまでも続かず、終いには道端の砂利に滑って顔からドテン!と転んでしまった。
結果、ウタの勝利。
ルフィ「ぜェ…はァ…ぜェ…はァ……」
ウタ「あらら、大丈夫~?」
地面に大の字に寝転がっているルフィに近寄り膝を曲げて見下ろすウタ。
思った以上に動かない身体に辟易しながらルフィはぐぐぐと顎を上げて見返した。
ルフィ「ぜェ…はァ……う…るせェ…!まだ勝負はついてねェだろ……!」
ウタ「しぶといわね~。なら、次の勝負でわからせてあげる」
ウタ「身長対決!」
背比べで約2cmウタが高かった。
ウタ「腕力対決!」
腕相撲勝負、2勝3敗でルフィの負け。
ウタ「かわいさ対決!」
審査員:赤髪海賊団による満場一致でウタの大勝利。
ルフィ「えこひいきだ!!」
ウタ「じゃあ、モノマネ対決!」
ウタ「二日酔いで起きられなくなるからって、ベックマンにお酒を没収された時のシャンクスの真似!」
ウタ「『ベックぅ~~~!』」
『ギャハハハハ!!』『似てる~!』『上手いぞウター!』『お頭そっくりだ~!』
シャンクス「うるせー!お前ら後で覚えてろよ!!」
ルフィ「ふぬぬぬ…!モノマネならおれだって得意だぞ!サンジのマネ!」
ルフィ「『肉くったのお前かー!!』」スパー
ウタ「サンジ?誰それ?」
ルフィ「おれの仲間だ。凄腕の料理人だぞ!」
ウタ「ふーん、そうなの。でも、赤髪海賊団にはラッキー・ルウがいるもの、羨ましくないわ」
ラッキー・ルウ「ウェヘヘヘ、いきなる褒められると照れるぞ」
ウタ「というか、あたしたちが知らない相手のモノマネで勝とうなんて何考えてるのよ」
ルフィ「ぐぬぬぬぬ……」
ウタ「どう?これでわかったでしょ。あんたがあたしに勝てないってこと」
ルフィ「まだだ!決着はまだついてねェ!!」
ウタ「しょうがないわね……」
その後、何回勝負してもルフィはウタに負け続けた。
チキンレースでは無限にチキンを増やされ。
ナイフ投げでは的を持ったモンスターが動き回り。(ウタの時は止まった)
ポーカーやブラックジャックではイカサマ祭り。
ルフィ「ちくしょう……ズルばっかりしやがって……」
本当はこんな勝負、投げ出してしまいたい。
けれど、この場から逃げ出そうとするとなぜか足が逆方向に向いて戻ってしまうのだ。
このままでは仲間の安否もわからない。脱出の手がかりも掴めない。
こんなことしている間に刻一刻と時間は過ぎていくというのに……――
シャンクス「なんだ、時間を気にしてるのか? 心配しなくてもここでの時間は5分も経ってないぞ」
うんうんと悩むルフィに対してシャンクスがそんなことを告げる。
ベックマン「夢と現実での時間の流れは異なるからな。ここでの時間はあってないようなものだ」
そういえばコビーもそんなことを言っていた気がする。
――夢の中での時間の流れが現実と同一とは限りません。
――ぼくらがこうして過ごしている時間が、現実ではたったの5分ってこともあるかもしれません。
ウタ「さっきの“私”の回想だって、ほんの一瞬思い出してただけよ」
ウタ「ここはね、現実からも夢からも切り離された心の世界。心のクローゼット」
ウタ「ここにあたしたちがいることは“私”も知らないわ。だって忘れてるもの」
子供の頃の思い出って、忘れててもずっと心に残ってたりするでしょ?
“私”には“ウタウタの世界”もあるからクローゼットの距離はとても近くて、すぐ取り出せる場所にあったの。
でも“私”は、もう要らないって捨てちゃった。
『子供の頃の思い出はもういらない。これからはファンの皆と新しい時代を作るんだ』って。
そう決めた時に……子供のあたしも切り離されちゃった。
そのまま消えちゃいそうなところを、シャンクスが拾ってくれたの。
ウタ「だからあたしは、いつまでもシャンクスが好きなあたしでいられる。“私”が今どう思ってようと変わらないわ」
ウタ「ってそれより、いつまで迷ってんの?あんたの手番よ!」
ルフィ「う~~~~ん……これだ!」
ルフィがめくったトランプの数字は、ハートのQとスペードのA。
神経衰弱の勝負中だった。
ウタ「はい残念。次はあたしの番ね。ハートのQとクラブのQ、それとスペードのAにダイヤのAね。はいおしまい!」
ルフィ「あーッ!!そこさっきおれがめくったやつ!!」
ウタ「そういうルールなんだから当然でしょ!?あんたちゃんと聞いてたの??」
ルフィ「もうひと勝負だ!」
勝負の決着はまだまだ着かなかった。
* * *
――エレジア・ライブ会場
次第に小降りになってきた雨の中。
うずくまっていたウタはふと顔を上げた。
ウタ「……きた」
ゆっくり立ち上がると、そばで眠っていた海賊や観客たちもゆらりと起き上がる。
ステージの上からは、先程以上の大量の海兵が武器を構えて押し寄せてくるのが見えた。
その後方には、白のコートを羽織ったサングラスの人物がいる。
ボルサリーノ「さて歌姫。大人しく捕まってくれないかねェ~」