あの日君に出会えなかったら   作:宝良

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「……ゆるさない」

 

 

『……そうね。私たちウタに頼りっぱなしだったかもしれない』『だからこんなことに……』

『お、おれは悪くねェぞ!ウタが勝手にやったんだ』『まだそんなこと言ってる!』『ウタ様……』

『今までごめんねウタ』『わたしウタの力になりたい!』

 

観客たちの中にも、そんな声がちらほらと現れるようになった。

ウタは黙してその声を聴いている。

 

ウタ「……あんたの言いたいこと、なんとなく分かったよ」

ウタ「でもね」

ウタ「もうそんな段階とっくに過ぎてるんだよなァ……!!」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

――折しもそのとき。

 

ウタは泣きながら銃に倒れた観客の傷口を必死に押さえていた。

ウタ「しっかりして!もうすぐ新時代なんだよ!?」

千切ったアームカバーの布が両手の下でみるみるうちに赤く染まっていく。

 

……自分のミスだ。“ウタウタの世界”に耳を傾けて油断しなければ。

ちゃんと庇えてさえいれば……!

 

意識がないまま駆け寄ってきた二人の医者が応急処置を施そうとするが、出血が多くこのままでは死に至るだろう。

ウタは奥歯を食いしばりキッと海兵を睨みつけた。

 

ウタ「……ゆるさない」

 

宙に浮かぶボルサリーノは見上げるウタを無感動に見下ろしている。

 

ボルサリーノ「哀しいのかい~? でも自分で巻き込んだんだろう」

ボルサリーノ「自分のやったことには責任持たなきゃねェ~」

ボルサリーノ「十三年前と同じように」

 

 

――ゆるさない。

――ゆるさない、ゆるさない!!

 

なんでもっと早く決めなかった! もっと早く新時代に行っていれば!!

待つんじゃなかった。全部連れていこうなんて思わなきゃよかった!!

 

ぜんぶ“おまえ/わたし”が悪いんだ!!!

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

ウソップ「うわっ!な、なんだ!?」

 

ウタを中心に黒い波紋が広がり、ウソップの着ていた服装がみるみるうちに変化した。

黒を基調としたレザーの上下にファスナーの付いたブーツ。トゲトゲしたバングルのおまけつきだ。

ウソップだけではない。

 

ゾロ「うおっ」

ナミ「きゃあっ」

 

身を隠していた他の海賊やコビー、ヘルメッポ、ブルーノも同じく黒の衣装に変えられていた。

 

ロー「まさか、気づかれたのか!?」

 

動揺する海賊たちの後ろで、一緒についてきていたゴードンが苦しそうに唇を噛む。

 

ゴードン「ウタ……」

 

 

ウタ「……悪い人たちには悪い印を。もっと早くつけておくんだった」

ウタ「……そうでしょ?」

 

――『トットムジカ』たち。

 

そう呟くと、ウタの周りに色とりどりの音符が渦巻き始めた。

時に相手を拘束し、時に幸せを与え、ウタの能力の源となっていた音符たち。

 

ウソップ「……! まさか、それが『トットムジカ』なのか……!?」

ウタ「へえ、知ってるんだ。それもゴードンに聞いたのかな」

 

私ね、覚えてるんだ。十三年前のあの日のこと、全部。

唄った歌のメロディも、順番も、演奏の音も、楽譜の配置も何もかも。

これは最後に唄った楽譜の歌。今でもはっきり思い出せる。

だから……ずっと心の中で唄ってた。

 

ウタ「……その身が尽きるまで奏でよ」

 

《夢見うつつ崇めよ》

《全てを照らし出す光を》

《いざ無礙に Blah Blah Blah……!》

 

《その傲岸無礼な慟哭を! 残響激励すら忘却を!!》

《さあ 混沌の時代には終止符を!》

《いざ無礙に Blah Blah Blaaaaah!!》

 

 

ウソップ「うっ……くそっ……!」

 

ウタを中心に巻き起こる暴風に巻き込まれないようにウソップは帽子を押さえ重心を低くして耐えた。

 

ウソップ(結局合図を送れなかった……! でも正解かもな!これじゃあ身体の小さいやつらは吹き飛ばされちまう)

 

作戦は失敗したが、結果として『トットムジカ』を呼び出すことに成功した。

しかし……これは『魔王』なのか!?

渦巻く音符の一つ一つが繋がっていき、黒い鎖で覆われた巨大な塊がウタを乗せて浮かび上がっていく。

真上の空に黒いインクを落としたような染みがばっと広がり、じわじわと空を覆いつくしていく。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

同じころ、現実世界では黒々としたオーラのようなものがライブ会場を中心に渦巻いていた。

“歌姫ウタ”の全身全霊の歌声に呼応するようにオーラは巨大化し、屋根をを突き破って自らを膨張させていく。

 

モモンガ「なんということだ……。発動してしまった」

モモンガ「“ウタウタの実”の能力者が歌うことで実体化する、古の魔王――『トットムジカ』!!」

ボルサリーノ「困ったねェ。せっかく用意したコレもああなったら意味ないねェ~」

 

脳髄に届くような音の洪水にうんざりしながら、用済みになったヘッドフォンを外し指先から出した光線で破壊する。

この歌は人を眠りにつかせないが、代わりにどんなに塞ごうと直接音を届けようとしているようだった。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

――聖地マリージョア

 

ルッチ「音声が切れません」

 

スイッチを何度もカチカチと押しても、音声だけでなく映像も途切れることがない。

映像電伝虫は完全に“ウタウタの世界”に取り込まれていた。

 

五老星「もういい。『トットムジカ』が発動したら歌声で“ウタウタの世界”に引きずり込まれることもないだろう」

五老星「意味がないのだ……魔王によって、現実と“ウタウタの世界”は繋がってしまったのだから」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

ゴードン「嗚呼……やはり! ウタは覚えていた! 楽譜も必要なかった……」

 

大きな身体を身を縮こまらせながらゴードンが嘆いている。

 

ゴードン「一度だけフレーズを唄ったあの時に、ちゃんと伝えていれば……!」

サンジ「嘆いてても始まらないぜ、ゴードンさんよ」

 

騎士のようなサーベルを下げたサンジが庇うように前に立つ。

 

サンジ「あんたの予想は当たって、『トットムジカ』は姿を現した。大成功だ。あの魔王を倒せばおれたちは現実へ帰れる」

ゾロ「倒せたらの話だがな」

サンジ「なんだ弱気か?マリモ」

ゾロ「言ってろぐる眉」

 

茶々を入れたゾロが刀を抜いて駆け出していく。ウソップに合流する心づもりのようだ。

 

ミニコビー「……仕方ありません。作戦変更です! 『トットムジカ』を攻撃しましょう!」

 

『おう!』

 

海賊たちが次々と魔王に向かっていく横でサンジがゆっくり煙草に火をつける。

 

サンジ「これからおれたちは魔王を倒しに行く。ウタちゃんから見りゃおれたちはみんな敵だ。海賊だしな」

サンジ「だけど育ての親のあんたは……あんただけは味方でいてやんな」

 

そう言うと煙草を咥えてサンジは飛び出していった。

 

 

《雨打つ心 彷徨う何処》

《枯れ果てず湧く願いと涙》

《解き放つ 呪を紡ぐ言の葉》

 

わかってる。わかってるよ、みんな。

みんなが幸せになる新時代は――私じゃ、作れないってこと。

 

ゴードンはこの歌を『封印された歌』だって言った。

二度と口にしてはいけない、とも。

どうしてそんなことを言うのか、知りたくて。

だから地下の書庫で調べたの。

 

――そうか。あの映像を見てしまったのだね。

――謝らなくていい。私の管理が甘かったのだ。

――エレジアを滅ぼしたのは『トットムジカ』だ。

――赤髪海賊団はきみを庇ったんだよ、ウタ。

 

……『トットムジカ』を唄ったのは、私。

だから赤髪海賊団は私を捨てた……。

私の歌は最高だと言ってくれたのに……。……なのに! 

赤髪海賊団に私の居場所はもう、なかったんだ……。

 

 

――ありがとう、ウタ!

――ウタのおかげで元気になったよ!

 

ある日、新種の映像電伝虫を拾って、みんなと話せるようになったとき。やり直せるって思ったんだ。

こんな私でも、誰かの力になれるって……!

 

――お願い、ウタ!

――あなたしか、あなたしかいないんです!

 

私で力になれるなら喜んで!!

……だから一緒に頑張ろうなんて言わないで。

私の歌が必要だって、言って?

 

 

みんなを巻き込んだのは、私のせい。私の責任だ。

だから絶対に守る!救ってみせる!

消えろ、海軍!! ここからいなくなれ!!!!!

 

 

《無条件 絶対 激昂なら Singing the song!》

《如何せん罵詈雑言でも Singing the song!》

《有象無象の Big Bang 慈しみ深く》

《怒れ 集え 謳え 破滅の譜を!!!》

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

イッショウ「急げ! 一般市民の避難を最優先だ!!」

 

海兵たちは夢遊する観客たちをどうにかこうにか抑えて船へと連れていく。

沖合で包囲していた軍艦からは『トットムジカ』に向けて大砲が何度も撃ち込まれた。

しかし着弾と同時に弾が消えてしまい、ダメージ一つ与えられない。

『トットムジカ』は黒い渦の中から道化師のような風貌を顕わすと、その目から強力なビーム光線を放ち軍艦を破壊し始めた。

 

 

ドォン! ドォォン!

 

 

[二番艦、大破!] [十三から十五番艦の船体に穴が!]

[第九番艦、操舵不能!] [二十七番艦、…!][十二…!] [このままでは、戦列を維持できません!!]

 

ボルサリーノ「やれやれ、おっそろしいねェ~『魔王』ってのは」

 

ボルサリーノも“ピカピカの実”の能力で『トットムジカ』に攻撃を続けているが、牽制になっているかすら掴めない。

さすがの“黄猿”の額にも冷や汗が浮かんでいた。

 

ボルサリーノ「やっぱりあの歌姫を直接殺るしか方法はないのかねェ…」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

一方の“ウタウタの世界”では。

 

ナミ「ウソップ!」

ウソップ「ナミ、すまねェ! 合図の前に『トットムジカ』を呼び出されちまった」

ナミ「いいわよそんなこと! それよりこいつ……」

 

魔法の天候棒(ソーサリー・クリマタクト)を構えながら海賊姿のナミが。

 

ベポ「アイヤー!キャプテーン!!」

ロー「ベポ! ……っ、近づきすらさせないつもりか!」

 

吹き飛ばされそうになったベポを片手でがっちり掴み引き寄せている黒ジャケットのローが。

天まで膨れ上がった『トットムジカ』の巨体を見上げる。

他の麦わらの一味やオーブン・ブリュレ、クラゲ海賊団たちも攻撃しようと試みるが、

曲から生まれた音符の戦士や『トットムジカ』自身の腕に払われ、容易には近づけない。

 

ロー「クソッ、やはりウタを同時攻撃しなければだめなのか……」

 

『もうやめてウタ!』『ウタ!聞こえてる??』『この世界は、なんか違う!』

『ウタァ!!!』

 

ぬいぐるみ姿の観客たちが必死で声を上げるが、『トットムジカ』の上で歌い続けるウタには届かない。

さらに、ライブ会場を覆っていた海水がかき消えていくと同時に、市街地や城がまるで砂のように崩れ始めた。

 

ウソップ「エレジアが……消えていく!?」

 

“ウタウタの世界”を構成していたすべての要素が崩れ、砂になり、魔王の身体へ“戻ってゆく”。

それはまるで、『トットムジカ』にすべての力を与えようとしているかのようだった。

さらに音符兵たちが王を守る騎士の如く、邪魔者を排除しようと襲い掛かって来る。

サンジが蹴撃で退け、フランキーが剛拳を振るい、ゾロが剣圧で疾風を起こして薙ぎ払った。

そのまま『トットムジカ』の鍵盤のような腕を駆け上がり、次々に音符兵を蹴散らしていく。

ブルックとヘルメッポがその後に続き、正面ではブリュレの鏡の中から現れたオーブンが熱風拳(ヒートデナッシ)をお見舞いする。

ナミの使役するゼウスの雷がジンベエの技に絡みつき、凄まじい威力の正拳が炸裂するが、

爆炎の中から現れた指先がまるで飴玉を転がすかのようにピン、とジンベエを弾いた。

 

ジンベエ「ぬわっ!」

ロビン「ジンベエ!」

 

バウンドして飛んで行くジンベエの巨体をロビンのスパイダーネットが辛うじて捕らえる。

 

ジンベエ「すまんな、助かった。しかしなんてやつじゃ、攻撃がまるで通じとらん」

ウソップ「同時攻撃しようにも音符兵が邪魔で近づけねェし、あの腕で攻撃を全部防いじまう」

ウソップ「どうする!?」

ミニコビー「……危険ですが、ウタに直接ダメージを与えられれば……! ぼくたちが行きます! ブルーノさん!」

ミニブルーノ「……片道だぞ!」

 

ブルーノが小さな空気開扉(エアドア)を開き、コビーとベポとチョッパー、サニーくんを急いで中に押し込んだ。

『トットムジカ』の頭頂部で歌い踊るウタの背後にドアが開くと、もつれ合うように飛び出た小さな軍団が襲い掛かる。

 

ミニブルーノ「そこまでだ!」

チョッパー「毛皮強化(ガードポイント)!!」

ベポ「アイィィィッ!」

ミニコビー「覚悟ーッ!!」

 

ウタの背中から生えた黒い翼が難なく攻撃を弾き、羽ばたき一つで四人をまとめて吹き飛ばす。

 

「うわっ!」「がっ!」「ぐうっ!」「ギャッ!」

 

しかし、攻撃はこれで終わりではなかった。

 

サニーくん「サニィーーーッ!!!」

 

 

ズドンッ!

 

 

最後に飛び出したサニーくんの口がぱかっと開き、ミニガオン砲を放った。

ウタの眼前で爆発が巻き起こり、周囲が煙幕に覆われる。

 

ウタ「…ッ、ゲホっ!」

 

まともに煙を浴びたウタはたまらず咳き込んだ。

 

ゾロ「……歌声が止んだ!?」

オーブン「風もおさまったぞ」

ヘルメッポ「よし、今だ!!」

 

しかし……

 

サニーくん「!?」

 

煙の中から伸びた左手がサニーくんの胴体をガッと掴んだ。

 

ウタ「……やってくれたね」

 

周囲が徐々に晴れていくと、一同の目にサニーくんを片手で捕えているウタの姿が映る。

 

ナミ「サニー!?」

ミニコビー「サニーさん!」

 

吹き飛ばされて転がり落ちた四人はブルックやフランキーに回収されたが、再びあの場所まで行く(すべ)がない。

なぜなら、

 

 

ギリャャャャャァァァァl!!!

 

 

『トットムジカ』が吼え、活動を再開したからだ。

鍵盤の手が2本から4本に増え、巨体はさらに膨れ上がり山一つほどの大きさになっている。

道化師のような風貌の口元に牙が生え、見上げる人間をあざ笑うように大きな顎を開いていた。

喉の調子を取り戻したウタが左手に力を籠めると、黒い音符が現れサニーくんにまとわりついていく。

 

サニーくん「サ、サニィ……」

 

黒い音符まみれになったサニーくんの手足は本物のぬいぐるみと同じように動かせなくなってしまった。

 

フランキー「やめろ! サニーを離せェ!」

 

風来噴射(クー・ド・プー)”で飛び上がったフランキーが“ストロング(ライト)”を伸ばすが、『トットムジカ』の腕に弾かれてしまう。

 

ウタ「これで悪いことはできなくなったでしょ?」

ウタ「大丈夫、あなたもちゃんと“新時代”に連れて行ってあげる……」

 

動かなくなったサニーくんを腕に抱え、もう一度唄おうと口を開いたときだった。

 

 

うおおおおおおおお!!!!!

 

 

漆黒に覆われた(そら)から声が響いた。

流れ星のような光が一筋、『トットムジカ』めがけて降ってくる。

風をまとったそれは一人の人間の形をしていた。

 

ルフィ「おおおおおおおおああああああああ!!!!!」

 

声に気づいた『トットムジカ』が落下してくるルフィに向かって大きな両腕を伸ばそうとする。

 

 

ザン!

 

 

しかし、その腕は後方から放たれた赤い斬撃によって阻まれた。

ルフィは指先を咥えて大きく息を吹き込み、膨れ上がった巨大拳を勢いのままに打ち下ろす。

 

ルフィ「"象銃(エレファント・ガン)”!!」

 

 

ドォン!!

 

 

『トットムジカ』の脳天に拳が直撃する。

ダメージこそ与えられないが振動が頭部全体に伝わり、サニーくんを抱えたウタの身体がわずかに浮かび上がった。

 

ルフィ「ふんっ!」

 

ルフィは反対の腕を長く伸ばし、サニーくんごとウタをぐるぐる巻きにしてしまう。

 

ウタ「えっ?」

ルフィ「おれの仲間を……返してもらうぞ!!」

 

そしてそのまま、ルフィは『トットムジカ』の上から飛び降りた。ウタを道連れにして。

 

ウタ「きゃああああああああっ!!」

 

 

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