あの日君に出会えなかったら   作:宝良

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「さあて、大人しくしてもらおうじゃねェか」

 

 

墜落しながら上がる悲鳴にお構いなしに、ルフィはゴムの身体で着地するとボヨン、と跳ねた。

腕の中にいるサニーくんを取り返してぽいっとウタを放り出すと、離れた場所へ再着地して急いで音符を手で払っていく。

 

ルフィ「サニー、サニーしっかりしろ!おい!」

サニーくん「……サ、サニィ……サニー!」

 

音符が取れたサニーくんはぷるぷると全身を震わせたあと、元気に片手を上げた。

 

ルフィ「よかった……!」

 

 

ウタ「いたた……なんなの……?」

 

放り出されたウタが腰をさすりながら起き上がると、クラゲ海賊団たちが周囲を取り囲んでいた。

 

エボシ「さあて、大人しくしてもらおうじゃねェか……ウタちゃん」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

ウソップ「ルフィー! 遅ェじゃねーかコノヤロ~!」

 

いの一番に駆け寄ったウソップが飛びついてがしっと肩を組む。

難なく受け止めたルフィは集まった仲間たちを見回して笑顔を向けた。

 

ルフィ「悪ィ、なんか変なトコに落ちちまってさ。みんな無事か?」

ゾロ「ああ。こっちは一足先におっぱじめてたところだ」

 

顎をしゃくって示す先にはこちらに向かって腕を伸ばす『トットムジカ』が。

 

オーブンが“熱風拳(ヒートデナッシ)”で弾こうと試みるも、質量を増した鍵盤が圧し潰すように襲い掛かり、距離を取らざるを得なかった。

 

オーブン「おい!感動の再会は後にしろ!」

ルフィ「あいつを倒すんだな?」

ロビン「ええ。でも『トットムジカ』はこちらと現実世界との同時攻撃でしか倒せないの。現実ではおそらく海軍が攻撃を仕掛けているはずよ」

ルフィ「うっし、じゃあこっちからはずっと殴ってりゃいいんだな!」

ミニコビー「やはりみなさん同じことを考えるんですね……」

バルトロメオ「くゥっ、麦わらの一味のみなさんもルフィ先輩もさすがだべ!」

ルフィ「おう、ロメ男! お前も来てたんだな」

 

遠巻きに見ながら感涙するバルトロメオに気づいたルフィが二カッと笑って手を振る。

 

バルトロメオ「ファファファ、ファンサ!? ありがたき幸せだべ~~!!」

 

さらに滂沱の涙を流すバルトロメオの背後で、突然それは起こった。

 

「ぐわっ!」「があっ!」

 

拘束しようと手を伸ばしたクラゲ海賊団は、ウタによって生み出された音符兵にまとめて弾き飛ばされた。

槍を構えた音符兵に護衛される中、ウタがゆっくりと立ち上がる。

 

ロー「…っ! やつに唄わせるな!“ROOM”!」

 

唇の動きにいち早く気づいたローが“オペオペの実”の能力を展開した。

 

ロー「“シャンブルズ”!」

ミニコビー「うわっ!」

 

最速でウタとコビーの位置を入れ替えると、状況を察したバルトロメオが急いで指を結ぶ。

 

バルトロメオ「“バリアボール”!!“サウンド”!!!」

 

黄金のバリアが二人の周囲を覆うと、海賊たちを攻撃していた音符兵は次々と姿を消していった。

 

バルトロメオ「ウタ様! これで歌声は外に届かねえべ!」

カギノテ「うおおお、やったぜ!」

 

歓声を上げた海賊たちは、残るは『トットムジカ』だけだと離れていった。

バリア内のバルトロメオは油断なく警戒する。

あの魔王がウタを奪いに来るかもしれない。

逆にバリアの中のウタが激しく抵抗するかもしれない。

 

しかし……

 

ウタは、その場でただ茫然と立ち尽くすのみだった。

彼女は見てしまったのだ。

位置を変えられたことで偶然視界に入った、『トットムジカ』の背中側にいる――彼らの姿を。

 

 

――シャン……クス。みんな……

 

 

――アハハハハッ!アハハハハ!!アハハハハハ!!!

 

 

ナミ「!?なに?」

ロビン「この声……まさかバリアの中から!?」

 

聴こえないはずの声が全員の耳に届いてしまっている。

耳を塞いでも、バリアで閉じても、まるで空間全体に降り注ぐかのようにあちこちでウタの声が反響している。

 

ウソップ「これってまさか……ライブの時と同じ……!?」

 

 

――いたんだ! ベックもルウもホンゴウさんもヤソップもガブもパンチもモンスターもスネイクもライムも!シャンクスも!!

――私の中にずっと!

――だから来ないんだ!ずっと面影ばかり追い求めてるから……私が愚か者だから!

――だから捨てられたんだ!!

 

 

ブルック「……気を付けてください! 何か来ます!」

 

 

gah zak tak gah zak tat tat braaaaak!

《ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ》 

 

 

(まじな)いのような祝詞を唱えると、ウタの身体が漆黒の音符に覆われていく。

無数の音符は大きな渦を作り、先程見たのと同じように巨大な何かを形成していった。

同時に、『トットムジカ』にも変化が訪れる。

手足が6本に増え、鋭い黄金の爪が生じ、背中には漆黒の大きな翼が現れて宙に羽ばたいた。

巨躯はは二倍、三倍と増大し、今まで見たこともない大きさに膨れ上がっている。

頭上の帽子は王冠となり二匹の竜の頭を従えて、破壊の魔王たる圧倒的な姿をもって世界に君臨していた。

 

ミニコビー「なんですか、これ……」

 

ぬいぐるみの小さな身体でコビーは慄く。

そこには――『トットムジカ』が2体、存在していた。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

バルトロメオは決して油断していなかった。

しかしバリアを維持するためとはいえ、ウタへ直接攻撃しなかったことは事実。

その間にウタは何かに気づいたように怯え、戸惑い、両手で顔を覆うと震え出した。

……そして、次の瞬間には顔を上げて笑い出したのだ。

 

 

――アハハハハッ!アハハハハ!!アハハハハハ!!!

 

 

バルトロメオ「ウ……ウタ様!?」

 

歌声でもないのにバリアが音波でビリビリと振動する。

嫌な予感にバリアの強度を高めようとしたところで、それは起こった。

 

 

gah zak tak gah zak tat tat braaaaak!

《ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ》 

 

 

バリィィン!!

 

 

バリア全体に大きな亀裂がピシピシと走ったかと思うと、一気に粉々に砕けてしまった。

 

バルトロメオ「おれの……完全バリアが……」

 

“無敵”のバリアを“無敵”の魔王の概念が上書きしたのだ。

呆然とするバルトロメオの前で漆黒の翼を羽ばたかせて飛び立ったウタは、黒い渦に飲み込まれながら高らかに歌声を上げた。

 

そして――

今、2体の『トットムジカ』がルフィたちの目の前にいた。

 

オーブン「なんだこれは! 魔王が増えるなんて聞いてないぞ!」

ブルーノ「おい、こんなのとどうやって戦うんだ……!」

フランキー「お前らとりあえず散開しろ!散れ! 囲まれるとヤバいことになるぞ!」

 

フランキーの声でオーブンとクラゲ海賊団はバラバラの方向に走った。しかし、

『トットムジカ』の巨大な羽ばたき一つで凄まじい旋風が巻き起こり、吹き飛ばされて一箇所に集められてしまう。

折しもそこは、2体のトットムジカが向かい合う絶好の挟み撃ちの場所だった。

 

ブリュレ「ひ、避難するやつはこっちへおいで!」

 

大急ぎでブリュレが鏡を出し、手下や巻き込まれた観客たちを吸い込んでいく。

間一髪、『トットムジカ』が放つビームの集中砲火から逃れることができた。

他の面子も大量に生み出された音符兵や羽ばたきの暴風に行く手を阻まれている。

 

ヘルメッポ「なんてこった……現実世界だけじゃなく、こっちでも同時攻撃しなきゃならないのか!?」

 

ナミ「もしかして現実にも2体……? きゃっ! きっと海軍だけじゃ手が足りないわ!」

 

飛来する音符兵の槍攻撃を避けつつナミがお返しにサンダーブリード=テンポをお見舞いする。

 

ロビン「……ウタは今、自分の生命力をを削って魔王とウタワールドを維持している。こんなやり方をしたら、命がもたない!」

ウソップ「だったらさっさと『トットムジカ』を倒さなくちゃな……。おい、チョッパー!」

 

吹き飛ばされないようゴードンやミニベポたちと固まっていたチョッパーが、ウソップの呼びかけにぎょっとする。

 

ウソップ「“アレ”をやるぞ!」

チョッパー「えっ!?」

ウソップ「おーい! みんなちょっとこっち来い!」

 

音符兵に反撃していたルフィ、サンジ、ゾロ達もウソップの呼びかけに集まってきた。

 

チョッパー「……どうしてもやるのか?」

ウソップ「ああ! だからチョッパー、預けてたやつを出してくれ!」

チョッパー「……本当に本当の特別なんだからな!」

 

そう言ってチョッパーは帽子を外し、中から布包みを取り出した。

 

包みを解いて現れたのは、ピンク色の耳を持つ小さなキノコの束。

 

ルフィ「なんだこれ?」

ウソップ「ルフィにはまだ見せてなかったな。こいつはネズキノコだ!」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

――回想・ウソップの記憶

 

ゾロ「ネズキノコ?」

ウソップ「ああ。ゴードンさんが言うところによると、こいつは“ウタウタの世界”で“ある効果”が出るそうなんだ。そうだろ?」

 

森で採取したネズキノコを見せながらウソップが説明している。

ゴードンに話を振ると、彼も神妙そうな顔で頷いた。

 

ゴードン「うむ。あれは二か月ほど前のことだった……」

ウソップ「ゴードンさん、回想は手短に!」

ゴードン「あ、ああ……ウタが部屋の中でぐるぐると歩き回っていたので、声を掛けたんだが一向に返事がなくてね……」

ゴードン「かと思えばいきなりベッドに倒れて驚いたんだが、すぐに起きたウタが、自分が何をしていたかとしきりに尋ねてきたんだ」

ゴードン「聞けば、ウタワールドの中で実験をしていたと言っていた」

ミニコビー「実験を?」

ゴードン「ああ。眠れなくなるキノコを夢の中で食べたらどうなるか、ということだったが……。その時は、あまり危険なことをしないようにと叱った話を、ウソップくんにしたんだ」

ミニブルーノ「……まさか秘策というのはそれか?」

 

首をかしげるブルーノに向かってウソップはぐっとサムズアップする。

 

ウソップ「その通り!現実で眠ったままのおれたちを動かせるなら、同時攻撃のチャンスはある!」

フランキー「なんだ、ネズキノコで目を覚ませるんじゃねェのかよ」

ミニコビー「それに現実の身体はウタに支配されているはずですよ?」

ウソップ「それも破れるかもしんねェだろ? 何せ自分の身体だ、他人が動かすよりずっと言うこときいてくれるはずさ!」

ロビン「ウソップ。残念だけどそれだけじゃ、根拠が薄いわ……」

ウソップ「おれもそれは分かってる! だからこれは、色々試してダメだった時の秘策なんだよ」

サンジ「調理もできねェ毒キノコに頼らなきゃならんとは……微か過ぎる希望だな」

ゾロ「おう、ウソップが信用ならねェってのかこの素敵マユゲ」

サンジ「なんだとクソマリモ!! ってこの流れ前にやったな……?」

チョッパー「だだだ駄目だ!!ネズキノコには覚醒作用の他に毒性もあるんだぞ! 秘策の前にそれは医者としてちょっと許可はできない!」

ウソップ「そこを何とか!頼むよ~チョッパー様~」

チョッパー「いやでも……うう……トラ男ォ~~」

ロー「諦めろトニー屋。どの道夢の中だ。人体への影響なんざ考える必要はない」

 

ウソップはあちこち回って摘んできた小さなネズキノコの山を布で包む。

 

ウソップ「そんなに心配なら、こいつはチョッパーが預かっててくれよ。必要になったら言うからさ」

チョッパー「う~~~ん……わかった!そこまで言うなら預かる!けど、本当に必要になるまでは許可しないからな!」

ウソップ「おうよ!」

ゾロ「やることは決まったな」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

ウソップ「かくかくしかじか、というわけでこいつを食べりゃ現実のおれたちを動かせるかもしれないって話だ!」

オーブン「さっきも聞いたが、本当に眉唾物の話だな……」

ロー「それでも何もしないよりマシだ。あのウタの命が尽きる前に『トットムジカ』を倒さなきゃおれたちは出られない」

ブルック「そうですね。それに、彼女に時間はもう……」

 

ネズキノコを囲んで悩む一同。

その横合いからにゅっと手が伸びて、キノコをひとつ摘まむとひょいとルフィが口に放り込んだ。

 

ナミ「ルフィ!?」

ルフィ「|よふわはんねェへろ、うほっふがいうなはしんひへみふふゃふぇーはろ《よくわかんねェけど、ウソップが言うなら信じてみるっきゃねーだろ》……うげェまじィ……」

 

ゴクン、と飲み込んであまりのまずさに顔を歪めるルフィ。

 

チョッパー「全部食べる必要はないぞ!ほんのひと齧りでいいんだ!」

ルフィ「あーマズかった。よし! じゃあ同時攻撃ができるか、やってみっか!」

 

そう言うと、ドン!と“ギア(セカンド)”を使って加速し、片方の『トットムジカ』に接近する。

 

ウソップも慌ててキノコを飲み込み“黒カブト”を構えた。

 

ウソップ「言い出しっぺのおれがビビってちゃ世話ないぜ! いくぞ!必殺“緑星”!!!」

ルフィ「“ゴムゴムの”ォ!!!“象銃乱打(エレファントガトリング)”!!!!」

 

ルフィの放つ巨大な拳の乱打が、音符兵を蹴散らし突き進んでいく。

同時にウソップの放った弾がもう片方の『トットムジカ』へ飛んで行くが、盾を構えた音符兵たちの密集陣形に阻まれてしまった。

 

ウソップ「あっ!ちくしょう……」

ウソップ「やっぱり音符兵をどうにかしないと遠距離攻撃は難しいか……!」

フランキー「諦めんなウソップ! 道ならおれたちが作ってやるぜ!」

ジンベエ「そうじゃ! 通じるまで何度でも撃てばいいんじゃ!」

 

ネズキノコを齧ったフランキーやジンベエ、ゾロとサンジも援護に飛び出していく。

ロビンやナミもいつでも攻撃できるように自身の武器を構えた。

 

ルフィ「うおおおおお!!!!」

 

音符兵の防衛を突破し、ルフィが『トットムジカ』に迫ろうという時だった。

 

 

「手伝うか、ルフィ」

 

 

声と共に紅い彗星が飛来し、もう片方の『トットムジカ』に攻撃を繰り出した。

 

 

ドォン!

 

 

ルフィが最後に打ち放った“象銃(エレファント・ガン)”と、巨大な斬撃が同時にヒットする。

すると、双方の『トットムジカ』が体勢を崩し大きくのけぞったのだ。

 

ブルック「効きました!」

ミニコビー「現実世界と同時だったんだ!」

 

 

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