「野郎ども準備はいいか」
「あの人気者を奪い去れば、大金と巨大な名声が手に入る……」
会場では『U!T!A!! U!T!A!!』と大コールが起こっている。
ウタがそれに手を振り、次の言葉を発しようとしたところでそれは起こった。
パン!
カギノテ「悪いなウタちゃん、本当に残念だがライブは中止だ」
ウタ「あなたたち、だれ?」
ライブステージに数隻の小舟が漕ぎ着けられると、見るからにガラの悪そうな連中が降りてきてウタを取り囲んだ。
ウタの知名度に目を付け悪事をたくらむクラゲ海賊団の一味だ。
ウソップ「まずいぞ! あいつらもしかしてウタをさらおうとしてるのか!? ファンみたいな恰好してるくせに!」
チョッパー「助けなきゃ!」
サンジ「いや待て!」
サンジが腕で二人を制止すると同時に、灼けるような熱風が目の前を横切った。
「
「ぐわあっ!」
ドォン!
猛烈な熱気が爆発し、クラゲ海賊団が吹き飛ぶ。
もうもうと立ちこめる水蒸気の中に大男が立っていた。
男は持っていた鏡を正面に構える。すると中から背の高い痩せ細った女性が姿を現した。
ブリュレ「ウィッウィッウィッ、その子はアタシたちの獲物だよ」
ナミ「あいつは…ビッグ・マム海賊団の!」
ルフィ「枝!」
ブリュレ「ブリュレだよ! 誰だい枝って言ったのは!」
ウソップ(わざわざ振り返ってツッコミ入れるのかよ……)
ウタ「隣の人は?」
オーブン「ビッグ・マムことシャーロット・リンリンの四男、オーブン」
オーブン「楽しそうだな。まぜてくれよ」
ブリュレ「ウタ、先日の配信じゃママをコケにしてくれたそうじゃないか」
ブリュレの発言にウタはきょとんと首をかしげる。
ウタ「えっ? もしかして…ビッグ・マムってあの手配書に載ってたひと?」
ブリュレ「そうだよ。ま、詫びを入れさせようと思ったけど、アンタほどの歌声の持ち主ならママも気に入るだろうからね……」
ブリュレ「悪いけどママへの手土産にさせてもらうよ!」
『なんだあいつら』『ウタのステージから降りろよ!』『ライブの邪魔すんな!』
次々と現れた海賊たちに観衆がざわめき出す。
ウソップ「こりゃあまずいぞ……おいみんな! …あれ?」
ロビン「もう行ったわよ」
ウソップが声を掛けるより先に飛び出した三人の男たちが、無法者に向かって武器を構える。
サンジ「おいおい、ウタちゃんを狙うなんてクソどもはおれが相手してやる」
ブルック「素晴らしいステージを汚す不届き者を放っておけませんね」
ゾロ「ようやく面白くなってきやがった」
エボシ「なんだてめェら、クラゲ海賊団をナメんなァ!」
エボシの放った衝撃波をゾロが難なくいなし、逆に反撃をお見舞いする。
ブルックの“掠り唄 吹雪斬り”が、サンジの回し蹴りが次々とクラゲ海賊団をなぎ倒していくが、
まだまだ敵は大勢いる上、オーブンとブリュレも油断ならない。
ナミ「しょうがない!」
チョッパー「ライブはまだ始まったばかりなんだ!」
フランキー「やるぞ!ウタを守るために!」
仲間に加勢するため残りの“麦わらの一味”も飛び出した。
ジンベエ「魚人空手、槍波!」
ルフィ「ゴムゴムの…JET
ジンベエの放った水槍をオーブンの熱拳が片手で受け止め、ジュウウウと蒸発が充満する。
もうもうと立ち込める白煙の中から飛び出したフランキーと、オーブンの拳が激突する横でルフィの打撃が海賊たちを次々と宙へ放り投げた。
ロビン「
ネット状になったロビンの手が落ちてきた海賊を残さず包み込み拘束する。
ウソップも加勢しようとスリングショットをめいっぱい引き絞り――
ウタ「はーい、そこまで!!」
ウタの一声が、全員の動きを止めさせた。
ウタ「そこのきみたち! 守ってくれてありがとう。でもケンカはもうおしまい!」
オーブン「喧嘩?」
フランキーとせめぎ合うオーブンが眉を顰める。あまりにも能天気な発言だ。
ウタ「みんな私のファンなんだから、仲良くライブを楽しんでね!」
ウソップ「いやでも、こいつらウタを連れ去ろうとしてるんだぞ!?」
フランキー「それに話して分かる相手じゃねェ」
オーブン「おれたちは欲しいものがあったら戦って奪う。海賊だからな!」
ウタ「じゃあ、海賊やめちゃおう」
ウタ「今までやった悪いことは、私が許してあげる! ねえ、ほかのみんなも悪い海賊なんておしまいにして、私と一緒に楽しいこといっぱいの世界で過ごそう?」
ウタ「私の歌があれば、みんなが平和で幸せになれる!」
ウタの突拍子もない言い分に、周りがしいんと沈黙する。
次の瞬間、大きな笑いが巻き起こった。
ワハハハハ!!!!
オーブン「この世に平和なんてものは無い」
ブリュレ「バカなことを言うガキは、顔を切り裂いてやろうか?」
エボシ「おっと、こいつはおれの獲物だ」
ウタ「みんな私の歌を楽しみにきたんじゃないの?」
エボシ「おれたちゃ海賊だ。歌なんかより大事なモンがあんだよ」
喉元に剣を突き付けられたウタを観客たち固唾を飲んで見守っている。
『ひどい…』『せっかくのライブを』『ウタや私たちの気持ちを踏みにじって…』『やっぱり海賊は悪いやつらだ!』
その声を聞き届けたウタの声のトーンが大きく低下した。
ウタ「……残念。なら、歌にしてあげる」
ブリュレ「は?」
思わず気の抜けた声を発したブリュレの目の前で、ウタの全身が発光する。
――次の瞬間。
喉の奥から
《さぁ 怖くはない 不安はない》
ウソップ(これは……『私は最強』!! 次に歌う曲だったのか)
ウソップ(こんな至近距離で聴けるなんて耳が幸せ……じゃなくて! どうなってんだこれえええ???)
《私の夢は みんなの願い》
《歌唄えば ココロ晴れる 大丈夫よ 私は最強》
ナミ「ウタが変身した!?」
チョッパー「飛んだアアア!!!」
ルフィ「ははは、あいつすげェなー」
サンジ「のん気に見上げてる場合か!」
オーブン「
ルフィ「! あぶねっ!」
《あなたの声が 私を奮い立たせる》
《トゲが刺さってしまったなら ほら ほら おいで》
ウタに攻撃を仕掛けようとしたオーブンと迎え撃とうとしたルフィの目の前に音符の花が咲き。
オーブン「うおっ!」
唖然としたオーブンの身体に虹色の五線譜がしゅるしゅると巻き付いて拘束した。
ロビン「あら?」
海賊を捕えていた
包まれて大きな繭玉のようになった海賊たちの塊をウタはジャイアントスイングで軽々と放り投げた。
《さあ 握る手と手 ヒカリの方へ》
金色の鎧に身を包んだウタが観客席の上を飛び、伸ばされた手に軽くハイタッチしていく。
放り投げられた玉は宙に浮かぶと青空に大きな五線譜を展開した。
線と線の間にはおかしな格好をした海賊たちが、音符のようにぴったりと貼りついている。
「うぐぐぐ……」
オーブンとブリュレがどれだけ力をこめても剥がれない。まるでトリモチのようだ。
一つの譜面となった五線譜の最上部に王様のように腰掛けた後、ウタは会場に降りてきて最後のフレーズを歌い切った。
《私は最強 アナタと最強》
ウタ「みんなー! 悪い海賊は楽しい歌になってもらったよ! これで平和になったから、安心してね!」
『うおおおウター!』『すごーい!』『本当に最強だー!』『ウタが無事で良かった~』
ブルック「どうやら手出しは無用だったようですね」
サンジ「ウタちゃんがあんなに強いだなんて……素敵だ!!」
ゾロ「うるせェぞぐる眉。……あいつは何かの能力者なのか?」
ナミ「さあ、聞いたことないけど」
ウソップ「おいルフィ何やってんだ、邪魔になるから早く戻るぞ!」
ルフィ「すっげー!なんだこれ?」
ウタへの歓声の中、用は済んだとばかりにルフィ達は元の席に戻った。
ウタ「よし、服を元に戻して…っと。ここで!みんなに嬉しいお知らせがあります」
ウタ「いつもの映像電伝虫を使った配信ライブは、私が疲れて眠くなっちゃうからすぐに終わっちゃうけど」
ウタ「今回のライブはエンドレス! 永遠に続けちゃうよ!」
ウタ「そう、みんなとずーっと一緒にいられるってこと!!」
ウタ「配信で楽しんでるみんなも、この会場にいる君たちも! もっともっと楽しんじゃおう!」
『うおおおおー!!!』
ウソップ「すっげェー! 一人でライブやり続ける気かよ!」
チョッパー「最高かよー!」
ブルック「いやはや、エンドレスライブとは……随分と体力がありますね」
ロビン「一体何曲歌ってもらえるか、とても楽しみだわ」
観客の大歓声を浴びる中、ウタはすっと真顔に戻る。
ウタ「それとね…」
ウタ「大事なお話。海賊のみんな、それに海軍、世界政府の人たち」
ウタ「このライブの邪魔をしないで。みんな、楽しいこと、幸せなことを探しているの」
ウタ「ひどいことをやったら、覚悟してもらう」
ウタ「私は新時代を作る女、ウタ! 歌でみんなを幸せにするの」
『すごい…』『まるで女神様のようじゃ』『ウタとずっと一緒にいられるなんて…』『ありがとう、ウタ―!』
U・T・A! U・T・A! U・T・A!
「まずいな…」
「やはり、ウタはあの計画を…」
盛り上がる観衆席の中で二人の男がひそひそと会話している。
ステージ上ではスポットライトを浴びたウタが目を伏せ、気持ちを切り替えて高らかにアナウンスした。
ウタ「じゃ、次は2曲続けて行くよ。……『世界のつづき』と『風のゆくえ』」
* * *
――聖地マリージョア
「サイファーポールの報告通り……大海賊時代を全否定する、全く新しい敵の出現だな」
「厄介なことに民衆も彼女についている。革命の芽は早めに摘んでおかねば手遅れになる」
「あの娘がフィガーランドの血筋でもか?」
「『トットムジカ』の存在も気になるな」
「『トットムジカ』……アレが再び目覚めるのなら、悠長に構えているわけにはいかないだろう」
「海軍に指令を出せ」
――海軍本部
ボルサリーノ「おっかしいねェ~。女の子たった一人に全世界が注目してるなんて」
サカズキ「おい、甘くみちょりゃあせんか? ライブの場所は音楽の島エレジアじゃ。あそこには古代に封印された『トットムジカ』がある」
イッショウ「で、どれだけ出すんです?」
サカズキ「エレジアに今すぐ出撃可能な軍艦は?」
イッショウ「三十隻」
サカズキ「よし、中隊小隊率いて全艦出せ!」
ボルサリーノ(音楽の島エレジア……滅んだはずの島で、一体何を起こそうってんだろうねェ。あの歌姫は)