ジンベエ「ワハハ、まさかかの赤髪と共闘することになるとはのう。まあ偽者と言うとったが。道理で若い見た目なわけじゃ」
ロー「チッ、夢の世界だからってなんでもあり過ぎだ……!」
豪快に笑うジンベエと額を手で押さえながら呻くロー。
対照的な二人の後ろでコビーも目をまん丸にしていた。
ミニコビー「まさかと思いましたが、“ウタウタの世界”に赤髪海賊団がいたなんて……」
ヘルメッポ「あれもウタが作り出した人形なのか? 妙に俗っぽいが」
ミニコビー「わかりません……でも、味方なら心強い戦力です」
ゾロ「敵意はねェみてェだし、うちの船長の言うことだからな。信用するさ」
ロビン「そうね、1体でも大変な『トットムジカ』を相手してもらえるなら大助かりだわ」
ブルック「ヨホホホ、ルフィさん相変わらずですね」
麦わらの一味も相変わらずだなと思っていると、ふとルフィが振り返りこちらに視線を向けるのが見えた。
ルフィ「コビー!その身体、元に戻れるぞ」
ミニコビー「えっ?」
ルフィ「なりたい自分を強く願え!それでいい!」
それだけ言うと、ルフィは先陣を切って『トットムジカ』に向かっていった。
ゾロ、サンジ、ジンベエ達もその後に続く。
残ったのは体の小さい組とゴードン、そして気絶しているバルトロメオのみだった。
ミニコビー「なりたい自分……」
* * *
一方その頃、ビッグ・マム海賊団のオーブンとブリュレ率いる一群は『トットムジカ』に攻めあぐねていた。
オーブン「“
群がる音符兵をオーブンの拳が蹴散らしても、後から後から同じ兵士が湧いて出る。
オーブン「くッ!きりがない……!それにあのキノコを食ってから妙に身体が重い……本当に現実の身体は動いてるのか?」
ブリュレ「きゃあッ!助けてオーブンお兄ちゃん!」
オーブン「ブリュレ!」
いつの間にかブリュレが音符兵に囲まれていた。
彼女も“ミラミラの実”の能力を使い攻撃を反射して応戦するが、いかんせん数が多い。
それに、鏡の中に手下や観客を匿った上での戦闘はブリュレにとって不利だった。
オーブン「妹から離れろ!“
高速回転するオーブンの体当たりが音符兵を一掃し、そのまま『トットムジカ』へ直撃するかと思われた。
ガキィン!
が、間一髪で巨大な腕に阻まれてしまう。
オーブン「ぐうゥゥゥ……!があッ!!」
ブリュレ「お兄ちゃん!」
回転を止められ弾き飛ばされたオーブンをブリュレが慌てて追う。
しかし巨大な鍵盤腕に行く手を阻まれ、更に背後からも腕が迫ってくる。
まるで前後からブリュレを挟み込もうかとしているようだった。
――圧し潰される!
鏡に隠れるのも間に合わない。ブリュレはぎゅっと固く目を閉じた。
己のふがいなさに歯噛みする。
――もっと私が強けりゃ良かったのに。
――助けて……助けて!
ブリュレ「助けて!カタクリお兄ちゃん……!!」
『ブリュレ!!』
はっと目を開けると、『トットムジカ』が再びバランスを崩しひっくり返るのが見えた。
“麦わらの一味”たちの何度目かの攻撃が成功したのだ。
ズウゥゥン…と巨体が倒れる音で空間が振動する。
しかし、ブリュレの耳にはそれ以外の音が届いていた。
『ブリュレ!聞こえるかブリュレ!今見聞色を通じてお前に話しかけている!』
ブリュレ「カタクリお兄ちゃん……!」
思わず涙ぐみそうになりブリュレは慌てて目をごしごしと擦る。
オーブン「ブリュレ、無事か!」
ブリュレ「おおおオーブンお兄ちゃん~!カタクリお兄ちゃんが来てる!」
オーブン「なにィ!?どこだ??」
ブリュレ「ここじゃない!現実!現実のエレジアにお兄ちゃんが来てるんだよう~~!!」
今度こそ涙があふれてしまいブリュレはわんわんと泣いた。
一番頼れる兄が来たことで緊張が解けてしまったのだ。
『泣くなブリュレ! 今お前の見ている視界が一瞬だけ見えた!オーブンもそこにいるんだな!』
ブリュレ「いるよう~~~オーブンお兄ちゃんと一緒なの~~~!」
『そうか……こっちでもお前が泣いている。口の動きで何と言っているかは読み取れるが……少し落ち着いてくれ、ブリュレ』
オーブン「落ち着けブリュレ!それで、カタクリは何と言ってる?」
ブリュレ「うう……スビッ、現実でアタシの身体が動いているから、何喋ってるかわかるって……」
オーブン「そうか……。いや待て、ということはこちら側の情報が伝えられるのか!?」
* * *
カタクリ「……そうか。眠っているお前たちの見ている『トットムジカ』と、こちらの『トットムジカ』は繋がっているんだな」
カタクリ「だから同時に攻撃する必要があるのか」
その通り、とぱくぱく口を動かす眠ったままのブリュレを見ながらカタクリは考える。
彼らは今、妹を電伝虫代わりにして連絡を取っていた。
カタクリ「……同時のタイミングだけでなく、攻撃する部位を合わせれば、よりダメージが大きくなるのではないか?」
カタクリ「そちらの司令塔に伝えてくれ、“協力してやるからさっさとこの化け物を倒すぞ”と!」
カタクリの言葉を聞いたオーブンとブリュレは急いで“麦わらの一味”の元に向かおうとした。
ブリュレ「いいの?オーブンお兄ちゃん……」
オーブン「元々この場限りの協力の約束だ。それにこのまま戦っていても埒が明かない。お前だって早くママやカタクリに会いたいだろう?」
ブリュレ「うん……会いたい!」
ブリュレは決心してゴードンやチョッパーが集まっている場所に向かうと、カタクリの伝言を伝えた。
ヘルメッポ「なんだって……!?現実と繋がったのか!」
ミニコビー「これはチャンスです!なんとか皆さんに……ううっ」
コビーはジタバタとぬいぐるみの短い手足を動かす。ゴードンの肩から落ちそうになって慌ててヘルメッポが支えた。
ヘルメッポ「おいおい、無理すんなって……」
ミニコビー「ううう……」
ジンベエ「気をつけろ、そっちへ行ったぞ!」
音符兵を魚人空手で張り飛ばしていたジンベエが、猛スピードで飛来する一部隊に気づき声を張り上げた。
槍を構えた兵士たちが上空から編隊を組んで急降下して来る。
バルトロメオを担いだゴードンとチョッパーたちは急いでその場を離れた。
ミニベポ「アチャチャチャ~!」
ミニブルーノ「急げ!!」
サニーくん「サニー!!」
チョッパー「くっ、こんな後方まで!」
オーブン「おれたちを分断させるつもりか!」
ブリュレ「オーブンお兄ちゃん!」
編隊を崩そうとオーブンが前に出る。しかし、それを予測していたかのように大きく弧を描いて音符兵が後方のブリュレへ迫った。
サンジ「危ねェッ!」
ブリュレ「えっ……?」
身構える前に音符兵たちがあっという間に蹴り飛ばされる。
いつの間にか戻ってきていたサンジが振り返り、フッと笑みを浮かべた。
サンジ「レディに怪我を負わせるわけにはいかねェ。それに、キミにしかできないことがあるんだ」
サンジは上空に漂っているぬいぐるみたちを指差す。
『助けてえ!』『もうこんなことはたくさんだ!』『お願いウタ、もうやめて!』
サンジ「あの散らばってる観客たち、あいつらを鏡の中に入れちゃくれねェか。このままだと巻き込まれちまう」
ブリュレ「……ええ!」
レディと言われてぽっと頬を赤らめたブリュレは、サンジの言葉に頷いて鏡を構えた。
ミニコビー(そうだ、まず戦えない人たちを保護するべきだ。ぼくは一体何をやってるんだ!)
コビーの小さなぬいぐるみの身体がふるふると震え出す。
ミニコビー(目の前の人たちを救うために、できることをするんだ。ぼくならやれる!やるんだ!)
ミニコビー「役に立つんだ……みんなのために!」
――なりたい自分を強く願え!それでいい!
ぼくは、ぼくは……!
――海軍に入ってえらくなって、悪い奴を取り締まるのがぼくの夢なんです!!小さい頃からの!!!
――ぼくはいつか!!!海軍の…た…“大将”の座についてみせます!!!
コビー「ぼくは!!! 海軍大将になる男だーーー!!!!!」
コビーの身体がカッと白熱したかと思うと、黒い海軍コートに身を包んだ“青年”が現れた。
ヘルメッポ「コビー!」
サンジ「やったな!」
元の姿に戻ったコビーは二人に頷いて、正面を見据える。
前方には2体の『トットムジカ』。左方には参戦した赤髪海賊団、右方には“麦わらの一味”と海賊たち。
ナミ「戻ったのねコビー、なら指揮を執って!あんたならやれるでしょ!」
ゼウスの雷を繰りながら檄を飛ばすナミに、コビーは大きく応えた。
コビー「はいッ!」
コビー「防衛陣形!観客の保護を最優先します!」
コビー「ナミさんとロビンさんは、避難の列を作ってください。観客のみなさん、落ち着いて鏡の中へ!!」
ロビンが“
避難路の目印が出来たことで観客たちも漂いながら移動し、ブリュレの鏡の中へ吸い込まれていく。
コビー「ブルーノさんたちは離れずガードを! ぼくとヘルメッポさんは側衛に入ります。チョッパーさんはゴードンさんとバルトロメオさんを守ってください」
チョッパー「わかった!」
後方の指示が終わると、前に向かって声を張り上げる。
コビー「今からトットムジカ2体を《トト》、《ムジカ》と暫定的に呼称します!!」
コビー「ルフィさんたちは《トト》を、赤髪海賊団のみなさんは《ムジカ》を集中攻撃して、あの邪魔な手足を破壊してください!」
コビー「ウソップさんとヤソップさん、後方から火力支援しつつ攻撃対象の選定をお願いします!」
ウソップ「よしわかった!」
ヤソップ「任されたぜ。しっかりしてるなァ兄ちゃん!」
狙撃手親子が片手を上げて応と答える。コビーは次にくるりと後ろを振り向いた。
コビー「ブリュレさん、あなたがこの作戦の要です。ウソップさんたちが指示した攻撃対象を即座に現実世界のカタクリさんに伝えてください」
コビー「観客の保護と同時進行ですが、やれますか!」
ブリュレ「もちろんよ! アタシを誰だと思ってるの!」
ブリュレも凛々しい表情で大きく胸を張る。
“ビッグ・マム”ことシャーロット・リンリンの八女としてのプライドが戻ってきたようだ。
コビー「フランキーさんとジンベエさんはウソップさんをガードしつつ側衛! ……そちらは出せる人員は居ますか!」
呼びかけると、副船長のベックマンが応えて味方に指示を出した。
ベックマン「スネイク、ガブ! ヤソップにつけ!」
コビー「ブルックさん、サンジさんは防御中心の前衛! 可能な限り観客を集めて誘導してください」
シャンクス「ホンゴウ、ライムジュース、お前らも行ってくれるか」
ライムジュース「任せときな!」
コビー「攻撃中心の前衛はゾロさん、オーブンさん、ローさん、そして、ルフィさんに任せます!!」
シャンクス「ベック!ルウ!パンチ! いくぞ!!」
『おう!!』
ゾロ「へっ、はじめるか」
ルフィ「やるぞ!」
前衛を任されたルフィとゾロは『トットムジカ』《トト》に向かって攻撃を開始した。
ゾロは十字の斬撃を連続で放ち、《トト》を覆っている透明な防御フィールドの存在を露わにする。
今までの攻撃はこのフィールドに吸収されて本体へ届かなかったのだ。
ゾロの攻撃の間にルフィは、武装色に染まった黒い腕に息を吹き込み“ギア
ルフィ「おおおおお!!!」
空間を蹴って猛スピードで《トト》へ近づくと、防御フィールドに向けて高速の連打を放った。
ルフィ「“ゴムゴムの”ォ~~!!!“
嵐のような攻撃がすべて吸収されていく横で、シャンクスが《ムジカ》に向かって愛剣グリフォンを構える。
シャンクス「……破ァッ!!!」
覇気を纏わせた斬撃を放つと、ルフィの拳と同時にヒットした瞬間に閃光が走り、
バリィン!とフィールドがガラスのように砕けた。
同時攻撃の感覚を掴んだ二人はニヤリと唇の端を持ち上げる。
ルフィ・シャンクス「「……よし!」」
* * *
――一方の現実でも
ボルサリーノ「“
ボルサリーノの光弾が《ムジカ》に降り注ぎ、眠ったままのルフィの一撃が《トト》に直撃する。
すると、見えない壁のようなフィールドがパリンと割れる音がした。
ボルサリーノ「やれやれ、まさか“麦わら”たちと協力する羽目になるとはねェ~」
カタクリ「それはこちらも同じだ!」
カタクリは音符兵の攻撃から妹を庇いながら戦況全体を見据えるように目を凝らしている。
彼は海軍に話を通し、『トットムジカ』を倒すことを条件に通信役となっているブリュレを護衛させる約束を取り付けた。
後顧の憂いを絶てば、最強の将星は堂々と前に出られる。
そして今、ブリュレの口がゆっくりと開かれた。