あの日君に出会えなかったら   作:宝良

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「ウタ……ウタ!もうやめてくれ!!」

 

 

一方“ウタウタの世界”では。

二本目の左腕が破壊された後、《トト》が狂ったように前に出て右腕を振り回し始めた。

後方に下がった《ムジカ》も新たな音符兵たちを大量に生み出しこちらに攻撃を仕掛けようとしている。

 

ヤソップ「しまった、やつらお互いを庇い始めてる!」

 

攻撃を避けながらウソップとヤソップが狙撃するが、牽制の弾はすぐに吸収されてしまった。

 

ウソップ「あとは右腕だけなのに! おい誰か!少しの間でいい、あの腕を止めてくれ!」

ロー「“ROOM”!」

 

すかさずローが自分と《トト》の周囲に巨大なサークルを展開する。

しかし『トットムジカ』の身体をすべて収めきることはできず、シャボン玉を割るように内側からあっさり壊されてしまった。

 

ロー「ぐあっ!」

ミニベポ「キャプテン!」

 

反動で吹き飛ばされたローをベポが体当たりして止める。その横をルフィが駆け抜けていった。

 

ルフィ「おれが行く!」

コビー「ルフィさん!」

オーブン「行かせとけ! もう残り時間が少ない!」

 

飛び出したルフィは“弾む男(バウンドマン)”の両腕を巨大化させ、強く引き絞って《トト》の正面に躍り出る。

 

ルフィ「“ゴムゴムの”ォ!!“獅子王(レオレックス)バズーカ”!!!!」

 

 

ドォン!

 

 

渾身の力を籠めて叩き込んだ掌底が《トト》の全身を揺るがした。

ダメージこそ与えられていないが、押し出された《トト》の身体がじりじりと後退する。

そして……

 

ルフィ「うおおおおおおおお!!!」

 

そのまま押し出し続けた《トト》の背中が《ムジカ》とぶつかり、折り重なって静止した。

 

ゾロ「動きが止まった!」

ヘルメッポ「行けるぞ!」

ブリュレ「右腕!」

ウソップ・ヤソップ「「右腕!!」」

 

ウソップが“黒カブト”を引き絞り、ヤソップが銃を構えて、同時に撃つ。

 

フランキー「“フランキー~~ィ”……“フレッシュファイア”!!!」

 

フランキーの放った炎が二つの弾を飲み込み、二羽の巨大な火の鳥へと姿を変えて魔王の右腕に突っ込んだ。

 

スネイク「ハアッ!」

 

更にその上から、駄目押しとばかりにビルディング・スネイクの高速回転斬りが炸裂する。

 

 

 

* * *

 

 

 

ガープ「まさか海賊の孫と共闘する日が来るとはのォ。人生まだまだ面白いことがあるわい」

 

巨大な鎖付きの鉄球を抱えたガープが船から跳躍し、『トットムジカ』に迫る。

モモンガ中将たちは何とかガープに現在の状況を伝えることができたのだ。

 

ガープ「さて……ルフィが攻撃しとるのとは逆の方を狙えと言うとったな」

ガープ「同時攻撃せんと効果がないそうじゃが……ま、なんとかなるじゃろ!」

 

そう言ってガープは《ムジカ》の右腕目掛けて鉄球ごと殴りつけた。

 

ガープ「ぬうェい!!!」

 

 

ドゴォン!!

 

 

鉄球を受け止めようとした《ムジカ》の右腕に凄まじい振動が伝わる。

 

ガープ「ぬうううううううおりゃあああ!!」

 

そのまま鉄球を押し付けて攻撃し続けていると、トゲトゲ衣装の男が撃った火の玉が《トト》の右腕に命中し、

掌から裂けるように亀裂がピシピシピシと入って魔王の右腕が崩壊した。

 

 

バコォォン!!

 

 

『やった!』

 

離れた場所で見守っていた海兵たちが感嘆の声を上げる。

 

 

 

* * *

 

 

 

ウソップ「よっしゃあ!!」

 

崩れていく右腕を見てウソップはガッツポーズをとった。

これですべての手足は失われた。あとは本体を叩くだけ。

誰もがそう思った、その時だった。

 

 

ゴオオォォォォォッ!!!

 

 

ルフィ「うっ!」

チョッパー「わあっ!」

ナミ「きゃあっ!」

 

二体の『トットムジカ』が凄まじい速さで背中の翼を羽ばたかせた。

ハリケーンを超えるような突風が巻き起こりルフィも観客たちも吹き飛ばされ、最後方まで下がってしまう。

 

 

 

* * *

 

 

 

[観客の保護を最優先にしろ!吹き飛ばされるなよ!][退避、退避―っ!]

 

ガープ「ぬうっ!……やるのう」

 

現実世界でも『トットムジカ』が起こした暴風にエレジア全土が見舞われていた。

空中で足場のないガープは風に乗って大きく後退すると、手近な地面に着地する。

奇しくもそこはカリファが潜伏していた水道橋の上だった。

 

 

 

* * *

 

 

 

ヤソップ「ダメだ!これ以上近づけねェ!」

 

どれだけ攻撃を仕掛けようとも烈風の壁に吹き飛ばされてしまう。斬撃も、雷も、音波も、銃弾も何もかも全て。

まるで魔王が全てを拒絶しているかのようだった。

 

ジンベエ「みんなわしとフランキーの後ろに隠れるんじゃ!」

ミニベポ「キャプテーン!」

サニーくん「サニ~~~~っ!」

 

飛ばされそうになったベポはローにしがみつき、ブルーノとサニーくんはゴードンを支えながらフランキーの背中へ移動する。

赤髪海賊団の連中も体格の大きい者を盾に必死に耐えていた。

 

ゴードン「ウタ……」

オーブン「ブリュレ、持ち堪えろ……!」

ブリュレ「オーブンお兄ちゃん……!」

 

観客を鏡の中へ誘導する間動けないブリュレを庇ってオーブンが風除けになろうと前に立つ。

そのおかげで気づけた。《トト》の目に凶悪な光が宿っていることを。

 

オーブン「……まずい! 攻撃が来るぞ!避けろ!」

 

『トットムジカ』から放たれた無数のビームが縦横無尽に空間を切り裂いていく。

動きづらい暴風の中でゾロは剣技で、サンジは炎を纏った蹴りで、それぞれビームの軌道を逸らすが、中には間に合わず被弾する者たちもいた。

 

ウソップ「ぐあっ!」

ルフィ「ウソップ!」

 

弾き飛ばされたウソップをルフィが手を伸ばしてキャッチする。

弾む男(バウンドマン)”の制限時間も残り少ない。しかし攻撃の糸口が掴めずルフィは悔しそうに歯ぎしりした。

 

ゴードン「ウタ……ウタ!もうやめてくれ!!」

 

ビームの嵐の中で身を縮こまらせながら、ゴードンは懸命に叫んだ。

届かないと分かっていながらも、言わずにはいられなかった。

 

ゴードン「ウタ!私が悪かった……!私がもっと話していればこんなことにはならなかった……!」

ロビン「ダメよ、ゴードンさん!」

チョッパー「危ない!」

 

前に出るゴードンを二人が止めようとするが、《トト》のビームに阻まれてしまう。

 

ゴードン「私が……私の愚かさが故にお前にすべてを背負わせてしまった……お前のせいではないと言った言葉の裏でお前の能力を怖れ、人前に出す機会をずっと作ってやれなかった……」

ゴードン「トットムジカのことも、記録に頼らず自分の口から伝えていれば、もっと話し合えたはずなんだ……!」

 

仁王立ちするゴードンの肩を、脇腹を、ビームが掠めていく。

それでもゴードンは両手を広げて訴えかけた。

 

ゴードン「なんだかんだと理由を付けて逃げている卑怯者が私だ、だから罰を受けるのは私一人でいい!戻ってきてくれ、ウタァ……!!」

ゴードン「私はひとりの音楽を愛する者として、お前とお前の歌を心から愛している!!!」

 

 

ギャリリリィィィァァァ!!!

 

 

叫ぶ言葉を遮るように《ムジカ》が吼え、《トト》のビームがゴードンを真正面から貫こうとした。

 

ルフィ「ふんっ!」

 

それをルフィが武装色の腕で弾き返し、“麦わらの一味”が庇うように立つ。

 

ウソップ「ゴードンさん……アンタやっぱ、立派だぜ」

サンジ「自分の国をトットムジカに滅ぼされて、恨んだっていいくらいなのに……」

 

思わず口をついて出たサンジの言葉に、ゴードンは悲しく首を横に振る。

 

ゴードン「そうじゃない、そうじゃないんだ……私はただの……」

シャンクス「あんたは十分やってくれたさ。十分過ぎるくらいだ」

 

愛剣グリフォンを手に、ゴードンの元へやってきたシャンクスの表情は穏やかだ。

 

シャンクス「それはあいつもよく分かってる」

ゴードン「シャンクス……うう……」

 

バルトロメオ「うおおおおォォォ!!おれァ感動した!!!また気絶してもかまわねェ!“バリア”全ッ開!!!!」

 

 

バギィィン!

 

 

叫びと共にバルトロメオが展開した巨大なバリアが味方を包み込むと、ビームも暴風も何もかもを弾いて押し戻し始めた。

 

 

 

* * *

 

 

 

 

現実でもそれは同じで、『トットムジカ』の攻撃が防がれていく様子をカタクリと海軍は驚きの顔で見上げている。

 

モモンガ「なんだあれは……!」

ガープ「ほう……大したもんじゃのう」

 

 

 

* * *

 

 

 

バルトロメオ「ぐっ……!今度はそう簡単に破れねェべ……おれのバリアは“最・強”だ!!!」

 

著しく体力を消耗する代わりに最大級のバリアを展開してニヤリと笑うバルトロメオ。

その唇の端から血がタラリと零れていた。

 

ルフィ「ロメ男!」

バルトロメオ「ルフィ先輩……こんな事をお頼みするのは筋違いかもしれねェが、言わせてくれ」

バルトロメオ「ウタ様を、止めてやってけろ!!」

ルフィ「……!」

バルトロメオ「おれァウタ様の歌だけ楽しく聴いて、ウタ様の気持ちはなんも分かってなかった半端モンだ。だども今でもウタ様のこど嫌いになれねェべ」

 

バリアの範囲を少しずつ広げながら、脂汗を流すバルトロメオはそれでも歯を見せてニッと笑う。

 

バルトロメオ「ルフィ先輩と同じように、ウタ様の活躍をこれからも見守りてェんだ……! へへっ」

 

とうとうバルトロメオのバリアが《トト》と《ムジカ》の目前まで迫った。

《ムジカ》は羽ばたき《トト》はビームを飛ばし、崩れた両腕で叩いて押し返そうとするがびくともしない。

そしてバリアの内側では。

 

 

“ギア(フォース)蛇男(スネイクマン)”に姿を変えたルフィが拳を構えていた。

 

バルトロメオ「ルフィ先輩!」

ウソップ「ルフィ!」

ヤソップ「シャンクス!」

ラッキー・ルウ「お頭!」

ブリュレ「お兄ちゃん!」

 

『今だ!!!!!』

 

 

 

* * *

 

 

 

カタクリ「これは貸しだぞ、麦わら……!」

 

かつて自分を倒した姿と共闘することに思う所がないわけではない……が、今のカタクリには“家族を救う”という大義がある。

カタクリは覚醒した“モチモチの実”の能力で地面をモチ化させ、無双ドーナツを作り出した。

 

 

 

* * *

 

 

 

そして“ウタウタの世界”では。

“覇王色の覇気”を剣に纏わせたシャンクスがルフィと背中合わせに立つ。

 

シャンクス「タイミングは任せる。……一撃で仕留めるぞ」

ルフィ「……ああ!」

 

最後の攻撃だと予期して、ゴードンが叫ぶ。

 

ゴードン「頼む!シャンクス、ルフィ君……ウタを救ってくれェ!!」

シャンクス「『当たり前だ』」

 

そう口にした途端、ルフィはシャンクスの覇気がぐっと増したように感じた。

 

バルトロメオの張ったバリアが限界を迎え、徐々に薄まっていく。

バリアが完全に消える前に、ルフィは武装色を纏った拳を引き絞り“JET大蛇砲(カルヴァリン)”を放った。

 

ルフィ「うおおおおおおお!!!!」

 

ルフィの放った拳は《トト》に向かって猛スピードで伸びていく。

最後の抵抗か、黒い翼を大きく羽ばたいて遠ざかろうとする《トト》を追尾するように曲がり、どこまでも追い詰めていった。

一方の《ムジカ》には、現実でカタクリが――“ウタウタの世界”ではシャンクスが――猛追し渾身の一撃を放つ。

 

『はあああああっ!!』

 

しかし《ムジカ》は抵抗することなく、その一撃を受け入れようとしているように一同の目には映った。

 

ブルック「あれは……」

ルフィ「おおおおおおおお!!!!」

 

大蛇(パイソン)”の縮む勢いで《トト》へ急速接近し、全力の右拳を叩き込もうと力を溜める。

ルフィは『トットムジカ』に対して恨みも、憎しみも抱いていない。

ただ己の行く道に邪魔だから退かすだけだ。

なら、“ウタ”に対しては?

 

 

――おい!おれの仲間を返せ!

――こんなのただの支配じゃねェか!

――お前はこんなのが幸せだっていうのか

 

仲間を拘束されて、口喧嘩して、戦って、変な場所に飛ばされて。

心底ムカついて早くここから出たいと願った。

 

――私は海賊が嫌いなの

――あんたは私に勝てないよ

――どう?これでわかったでしょ

 

挑発的で、独善的で、誰かのためという顔を崩さない、いけ好かない女。

歌が上手くてどうやら本当にシャンクスの娘らしいというのがまた気に食わない。

みんなのためにと唄いながら“みんな”の中に自分を入れず。

 xzc周りに愛されていると分かっていながら、失った愛を恋しがって。

 

心が雁字搦めでまったく自由じゃない。

 

 

……おれはそういうのが一番嫌いだ!!!

 

 

 

 

 

ルフィ「うおおおおおおおおおおお!!!!」

 

吼えるルフィは“覇王色の覇気”を纏った右腕を構え、凄まじい勢いで《トト》の心臓部に叩きつけた。

 

 

ドオォォン!

 

 

衝撃で拳がめり込みながら《トト》の身体が急降下し、《ムジカ》の背中とぶつかる。

そこへカタクリとシャンクスの一撃が《ムジカ》に突き刺さった。

 

『おおおおおおォォォッ!!!!』

 

前後から挟み込むように攻撃が炸裂し二体の『トットムジカ』を同時に削っていく。

魔王は断末魔のような悲鳴を上げ、削れた傷口から黒い音符が大量に噴き出した。

 

 

ギイアアアアアアーーーーーーッ!!!!

 

 

魔王の悲鳴を聞きながら、気づけばルフィは真っ白な世界の中にいた。

見聞色が『トットムジカ』の中の気配を探り当てる。

魔王と一体化した“彼女”はどこか安堵の表情を浮かべ、だらんと腕を下げて滅びを受け入れようとしていた。

 

――ふざけんじゃねェ、勝負の決着はまだついてねェだろ!

――こんな分厚い鎧ぶっ壊してやるから、出てこい!

――おれはお前に言いたいことがあるんだ!!

 

どこまでも伸びるゴムの腕を真っすぐ伸ばす。届こうが届くまいが、世界は彼の縦(ほしいまま)に変わっていく。

誰かのために、自分のために。

 

きっとそれもまた一つの――“解放”だ。

 

 

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