ウタ「よし! いっぱい歌ったしちょっと休憩入れようか。みんなーお腹すいたりしてない?」
数曲歌った後、ウタは音符の形をした
『そういえば少しすいたかも…』『時間を忘れて聴き入ってたよ』『お昼どうしよう?』
ウタ「よーし、食べ物とか楽しそうなの、いっぱい作っちゃう!」
『えっほんと?』『うわあすごい!』『食べ物だ!』『ありがとう!』
ウタは両手をパン、と打ち鳴らすと、叩いた音が小さな音符の形になって周囲に降り注ぐ。
たくさんの音符が観客の元に届くと、食べ物やぬいぐるみ、おもちゃに変化した。
ロミィ「うわあ、ふかふか……本当にこれ、もらっていいの?」
ウタ「もちろん!」
ロミィ「ありがとう!」
ウタ「みんな、ここでは好きな時に好きなものを食べて、歌って踊って、私と一緒に楽しく過ごせばいいからね!」
『夢みたいじゃ…』『こんなに美味しい食べ物はじめて!』『甘いのがほしー!』『ウター!少しお水もらえるー?』
ウタ「いいよー!」
観客に応えながら次々と望みの品を生み出していくウタ。
フロートがゆっくり近づいてくるとサンジも明るく呼びかけた。
サンジ「ウタちゅわーん! ここで料理したいから食材とかもらえないかな?」
ウタ「食材? うーん、ちょっと思いつかないけどとりあえず出してみるね!」
ウタが両手を打つと、野菜の入った大きな箱がボン!と宙に現れた。
あわててキャッチするサンジの横でルフィが飛び跳ねる。
ルフィ「肉ー! 肉も頼む!」
ウタ「オッケー!」
ポン、ポン、ポン、と大小さまざまな肉の塊が降ってきた。
ルフィ「ウッヒョ~~~!!」
ゾロ「ウタ、酒はねェのか?」
ウタ「お酒? いいよ。でもあんまり飲み過ぎないようにね! 酔っぱらって私の歌が聞けなくなったら怒っちゃうよ!」
色々な種類の酒が入ったワゴンが現れた。
手品のような芸当にジンベエが目を白黒させている。
ジンベエ「どうなっとるんじゃ、まったく…」
観客の喜ぶ顔を見届けたウタは、フロートに乗って空中でくるくると踊りながら呼びかけた。
ウタ「私と一緒なら、どんな夢でも叶う! みんなを怖がらせるものなんて、どこにもない!」
ウタ「新時代サイッコー!」
『うおおおウター!』『ありがとうウタ!』『新時代ってすげー!』『わたし、かわいい服がほしい!』
観客たちが大喜びでウタに声援を送る。
ウタも嬉しそうに笑顔を振りまいていた。
* * *
――ホールケーキアイランド
ペロスペロー「予想以上の能力だ。さすがに甘く見すぎたか」
映像電伝虫の映像を見守るビッグ・マム海賊団の幹部たち。
彼らは潜入させたオーブンとブリュレがあっけなく捕まる様を見て警戒を強めていた。
ビッグ・マム「マンマ、マンマ。あの能力は使いどころがありそうだね。何としても手に入れてやる」
ペロスペロー「しかもあの忌々しい麦わらの一味もいやがるぜ。なめやがって、ペロリン」
カタクリ「エレジアには俺が行く」
ビッグ・マム「ん?」
カタクリ「妹を奪われて、黙っているわけにはいかない」
* * *
――エレジア
ライブ会場の枡席では、サンジがみんなに御馳走を振る舞っていた。
サンジ「ここはコックにとっては天国だな。何でも好きなものが作れるし、材料もウタが用意してくれる」
チョッパー「んーミルクうめェー!」
ゾロ「ウタに頼んだら酒も出てくる……」
ナミ「あ、そっか!ウタなら財宝とかも……♡」
ウソップ「おいおい……」
ウソップ(それにしても大丈夫かなプリンセス・ウタ……休憩時間と言いつつ本人が一番休んでないんだよな)
ウソップ(案外、ああやって誰かと話してる方が休んでることになるのか?)
串焼きを頬張りながらウソップはウタの様子を自然と目で追っていた。
フロートを使って移動するウタは枡席の一つ一つに声を掛けて回っている。
ウタ「みんなー!楽しんでる?」
ヨルエカ「ウタ、こんなとこに来て大丈夫なの?」
ウタ「うん! 今ね、いろんな席を回って挨拶してるの。ファンサービスってやつかな」
ヨルエカ「そうなんだ……えっと、今日ここに来れて本当に嬉しいよ! ライブを開いてくれてありがとう」
ウタ「ふふ、こちらこそ! そう言ってもらえると、頑張った甲斐があるってものだよ」
女の子「ウタ、わたしウタの絵を描いたの! もらってくれる?」
ウタ「えっ、すごい! よく描けてるね!」
ウタ「この似顔絵、私のトレードマークのやつだよね。かわいく描いてくれてありがとう!」
ウタ「でもこれは、あなたに持っていて欲しいな」
ウタ「ほら、このアームカバーにも同じ絵が入ってるから、おそろいにしよ!」
女の子「うん! わかった!」
女の子とウタの微笑ましいやり取りが目に入る。
ウソップ「ウタはやさしいなーまるで天使だなー(ホッコリ)」
ナミ「あら珍しい。見とれてるの?」
ウソップ「いやいやいやこれは推しに対する感情であっておれには心に決めた人が……」
ナミ「へーえ、ふーん、いるんだー?」
ウソップ「か、からかうんじゃねェ!」
サンジ「ルフィ、カレーのおかわりいるか?」
ルフィ「いる!」
サンジ(やれやれ、あっという間に食材が尽きるな。……ん?おっと…こいつは食えないやつだな)
サンジ(あぶないあぶない。捨てとくか)
サンジは食材箱に入っていた小さなキノコを摘まんで指で弾き出した。
チョッパー「これ、なんの能力かな」
フランキー「悪魔の実の能力にしては、何でもできすぎだろう」
ロビン「確かにそうね。これだけ万能な能力なんて、聞いたことがない」
ブルック「ヨホホホ、もしかしたらウタさんは万能の力を与えられたのかもしれません。音楽の神様に」
ウタ「やっ! 楽しんでる?」
『!?』
見回るだけじゃなくフロートから飛び降りて枡席に着地したウタに、一同は驚いた。
ウソップ「はひ! ぷぷぷプリンセス・ウタ!」
ウタ「なんでどもってんの。普通にウタでいいよ」
ウソップ「は、はい!」
ウタ「さっきは庇ってくれてありがとうね。ちゃんとお礼言えなかったからさ」
ウソップ「いえいえあんなのお安い御用ですぜ…えへへへ」
ロビン「ウソップったら完全に舞い上がってるわ」
でれでれと鼻の下を伸ばしている様子にロビンが肩を竦める。
ウタ「他のみんなも楽しんでるかな」
サンジ「変わった食材もあるしね。天国だよ、ここは」
チョッパー「楽しいことだらけだな!」
ウタ「よかった、ファンのみんなに喜んでもらえて」
ウタ「ここのグループは君の友達なの?」
ウソップ「あ、ああ! おれたち一緒の船に乗って旅をしてるんだ。こいつが船長!」
ルフィ「ん?」
ぐいっと肩を引っ張られたルフィは食べかけのカレーをごくんと飲み込み口を開いた。
ルフィ「おう、おれはルフィ。海賊王になる男だ!」
ウタ「海賊王?」
ウソップ「あ」
ルフィの発言にウソップはさーっと青ざめた。
ウソップ(……しまったー! 海賊だってこと隠すように言うの忘れてた!)
ウタは世界の歌姫として名が通っているが、もう一つ通り名がある。
それは――“海賊嫌いの歌姫”だ。
ウタ「あなたたち海賊なの?」
ルフィ「そうだぞ」
ウソップ(あわわわウタの後ろ髪の輪っかがどんどん下がってる……機嫌を悪くしちまった)
ウソップは慌てて二人の間に割り込んだ。
ウソップ「き、今日は!ここには海賊として来たワケじゃねェんだ!」
ウソップ「休暇っていうか…純粋にウタの歌を楽しみたくてチケットを取ったし…」
ウタ「ふーん。だったらそのまま海賊やめちゃいなよ」
『えっ?』
ウタ「海賊をやめてここで暮らせば、困ることも苦しいことも起こらないし、楽しいことだらけだよ」
ルフィ「はァ? お前なに言ってんだ??」
ウタ「みんな私のファンなんだから、一緒にいた方が楽しいよね?」
あまりにも堂々とした宣言に全員言葉が出ない。
海賊は確かに悪者だが、こうも堂々とやめろと言われたのは初めてだった。
ウソップ(ど、どうしよう……何人かブチ切れてもおかしくないぞ。とにかく穏便に、穏便に……)
ウソップ「お、おれは…勇敢な海の戦士になるために航海をしてるんだ。だからやめることはできねェ」
ウタ「それって海賊じゃなきゃできないこと?」
ゾロ「……今はそうだ。無許可で船出すりゃ誰でも海賊だからな」
ナミ「ウタ、あなたの歌は好きだけど……私たちは目的があって航海をしているの。だからさすがにずっとは……」
ウタ「…………そのために、罪のない人々を傷つけても?」
ナミ「えっ? …きゃあっ!」
サンジ「ナミさん! うおあッ!!?」
いきなり現れた音符にナミが、咄嗟に庇おうとしたサンジが弾き飛ばされる。
枡席から追い出された二人はそのまま五線譜に絡めとられてしまった。
ウタ「やっぱりやーめた。あんたたち海賊どもはみんな同じ」
ルフィ「サンジ! ナミ! おい!おれの仲間を返せ!」
ウタ「みんなー! また海賊を見つけたよ! どうしよう??」
ルフィ「聞けェ! オイ!!」
再びフロートに乗ったウタが呼びかけると、観客に動揺が広がった。
『また海賊がいたって?』『またなの?』『またライブが邪魔されるんじゃ…』『こわいよお母さん!』『大丈夫よ、きっとウタが何とかしてくれる!』
「……U・T・A !U・T・A!」
『そうだ、ウタなら!』『ウタならきっと!』『ウタはおれたちの救世主だ!』
U・T・A! U・T・A! U・T・A!
怒号のようなコールが会場を包み込む。
ウタは満足そうに頷き、ファンに向かって応えた。
ウタ「オッケー! じゃあ、みんなのために私が海賊をやっつけちゃうね!」
宣言と共に照明が落ち、ドラムの音がビートを刻み始める。
ウタが手拍子を煽る。観客が手拍子を打つ。
音に合わせて幾つもの音符が飛び出し、集まって、鎧をまとった戦士の姿になっていく。
ウソップ「なんだこいつら!? うわっ!」
ゾロ「いくら世界の歌姫だからって、こりゃ自由にしすぎじゃねェか」
戦士たちの槍攻撃をゾロの刀が防ぎ、返す刃でその身を薙ぎ払った。
しかし斬られた戦士は無数の音符に変化すると、また戻って新たな戦士の姿を形作る。
ゾロ「こいつら、きりがねェ!」
ルフィ「“ゴムゴム”のォ……!」
両足を使ってジャンプしたルフィがサンジとナミを捕らえた五線譜に迫る。
しかし無数の音符の兵士の壁が行く手を阻んだ。
ルフィ「くっ、どけェ!!」
薙ぎ払おうとルフィが腕を大きく振りかぶった、その時、
ウタの歌が始まった。