あの日君に出会えなかったら   作:宝良

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「ルフィ! ウソップ!」

 

 

赤とオレンジのライトが会場を照らし出す。

指先から放たれた色とりどりの光が会場を縦横無尽に駆け巡り、まるで光の檻のように張り巡らされていく。

ウタのパフォーマンスがドラムと手拍子を更に煽る。

疾走感のあるサウンドに合わせて音符の戦士たちが疾走し、“麦わらの一味”に攻撃を仕掛けた。

 

ロビン「六輪咲き(セイスフルール)スラップ!」

ジンベエ「唐草瓦正拳!」

ブルック「ダメです、どんどん増えていきます!」

 

ウソップ(まずいまずいまずい!! この曲はやばい!! どこかに逃げ道は…くそっ!)

 

曲に合わせてウタが手を打つ度に音符の戦士の数は増えていく。

ウソップがまごついている間に最初のフレーズが始まった。

 

《散々な思い出は 悲しみを穿つほど》

《やるせない恨みはアイツのために 置いてきたのさ》

《あんたらわかっちゃないだろ 本当に痛む孤独を 今だけ箍外してきて》

《怒りよ!》

 

怪物強化(モンスターポイント)したチョッパーがロビンとウソップをかばい、ゾロとブルックが戦士を片っ端から斬っていく。しかしきりがない。

しびれを切らしたフランキーの放った炎の弾がウタに迫り、直撃するかと思った瞬間、光の繭がウタを包み込み炎はかき消された。

 

ルフィ「ぐあっ!」

ウソップ「ルフィ!!」

 

足場のない中空で音符兵を蹴散らしていたルフィが横合いから攻撃を食らって落下、

追撃に向かう戦士たちをウソップの必殺“緑星”が打ち払った。

 

ルフィ「ウソップ!」

ウソップ「おう!」

 

ステージへ続く回廊へ着地したルフィの元に枡席から飛び出したウソップが合流する。

背中合わせに構えを取ったところでウタの容赦ない攻撃が降り注いだ。

 

《怒りよ!》

 

ルフィ「うがっ!」

ウソップ「ぎゃっ!」

 

四方八方から突き刺さったレーザービームがルフィとウソップを拘束。

そのまま光の線が紐のように絡みつき二人をぐるぐる巻きに縛り上げてしまった。

 

チョッパー「ルフィ! ウソップ!」

ルフィ「しまった!」

 

ウタの手から放たれた虹色の五線譜が枡席全体を覆うように包み込み、残りの五人を貼り付けて音符にしてしまう。

そのままサンジとナミが貼り付けられた場所の下に五線譜が移動し、楽譜が完成した。

 

《逆光よ――――!》

 

ウタの勝利に会場から大歓声が湧き起こる。

ウタこそが正義だ。間違いない。そう信じる民衆は一心に感謝の祈りをささげた。

いつの間にかウタの背中には、赤と白の翼が生えていた。

 

ルフィ「んぐぐぎぎぎ!!はなせェ…!!」

ウソップ「ぎゃあ痛たたたやめて!!そっちが動くとこっちが締まる…!!」

 

芋虫のようにもぞもぞと動く二人の塊を音符兵がウタの元まで運んでくる。

ウタは一度だけ無造作に見下ろすと、観客たちに向かって呼びかけた。

 

ウタ「みんなはさ、海賊をどう思う?」

 

『おれの街は海賊に焼かれた!』『私の夫は海賊に殺された!』『母ちゃんを返せ!』『国を返せ!』

 

海賊いらない! 海賊追い出せ!

海賊いらない! 海賊追い出せ!

 

民衆の悲哀の籠った叫びがルフィとウソップに降りかかる。

恐れ、悲しみ、恨み、怒り……さまざまな感情がうねり会場全体を包み込んでいた。

 

ウソップ「プリンセス・ウタ! ルフィは…おれたちはそんなことしねェ!!」

 

身動きが取れないまま、ウソップは必死に叫んだ。だが……

 

バシャッ

 

「ウタちゃんに近づくな、海賊が!」

 

いつの間にかステージに上がっていた民衆の一人が、桶に汲んだ海水をルフィに浴びせかけた。

 

「お前……悪魔の実の能力者なんだろ?」

「海水で力が入らない能力者なんてこわくないぞ!」

 

ルフィ「なんだこれ……ちからがでねェ……」

ウソップ「お、おい! しっかりしろルフィ!!」

 

ウソップ(海に落ちたわけでもねェのに……海水を浴びただけで、なんで??)

 

チョッパー「おい、やめろー!」

ナミ「ルフィィ!!」

 

ウソップ(このままじゃやられる……!)

 

ウソップが歯を食いしばった瞬間、ステージを謎のドームが覆い尽くす。

次の瞬間、二人の姿が消えて代わりにゴトンと大きな岩が転った。

 

『ええっ!?』『消えた?』『どこに行ったの?』『海賊が逃げた!』

 

動揺する観客たちの声を聞きながら、ウタは冷静につぶやいた。

 

ウタ「ほかにも海賊が隠れていたのか……」

 

 

 

* * *

 

 

 

――ライブ会場外

 

ウソップ「な、なんだ?? ここはどこだ?」

 

ウソップとルフィは石造りの橋の上に縛られたまま転がっていた。

 

ルフィ「ゼェゼェ……なんでちからがはいんねえんだ……?」

ウソップ「お、おい…ルフィしっかりしろよ」

 

「だらしないザマだな、麦わら屋」

 

橋の袂から聴こえた声に、ルフィは朦朧とする視線を向けた。

 

ルフィ「そのこえ……とらお?」

 

奥の暗がりからゆっくりと姿を現したのは、“ハートの海賊団”のトラファルガー・ローだった。

“麦わらの一味”とは友好的な関係にあり、ルフィたちは彼を“トラ男”とあだ名で呼んでいる。

 

ウソップ「そうか、トラ男がおれたちを移動させてくれたんだな! 助かったぜ」

ウソップ「おまえらもプリンセス・ウタのファンだったんだなー」

ロー「違う。付き合いだ。……ベポの」

ベポ「すんません」

 

ローの後ろから全身にウタグッズを身に着けたベポが現れ、頭を下げた。

 

ウソップ(うっわァ、電飾まで背負っておれよりすげェ恰好……ガチなファンだなこりゃ)

 

驚いているうちにローが“オペオペの実”の能力を使ってロープを外してくれた。

剥がれたロープに触れないよう取り除きながらローが舌打ちする。

 

ロー「……チッ、縄に海楼石の成分が含まれてやがる」

ルフィ「トラ男ありがとう! ……しっかしなんなんだあいつ! 歌はうめェけどとんでもねーな!」

 

ルフィはぷんすかと蒸気を上げて怒っている。仲間を奪われた上に殺されかけたのだから当然だ。

 

ウソップ「おい落ち着けって。……まあプリンセス・ウタは海賊嫌いで通ってるから、当然といやあ当然なんだが……」

ルフィ「なんで海賊嫌いなやつのライブになんで行こうって誘ったんだ!?おれしらなかったぞ!!」

ウソップ「そりゃ行きたかったからに決まってるだろ? 最前プレミア席だぞ!??」

ルフィ「知るかそんなこと! あーんな嫌なヤツの歌が好きなんてシュミわりーぞウソップ」

ウソップ「るっせェ! 人の趣味をとやかく言うんじゃねェよ!!!」

 

べーっと舌を出すルフィにウソップはムキーッ!と憤慨する。

ウソップはウタの歌が好きだ。聴いていると元気になるし応援されている気分になる。

映像電伝虫の配信を見てウタが海賊嫌いだと知ったが、納得できる理由だった。

ライブのチケットに当選した時は本当に嬉しかったし、チョッパーと一緒にはしゃいだものだ。

自分が海賊だということさえ黙ってさえいれば、ライブに行っても問題ないと思ったのだ。

 

……そんなはずなかった。

 

落ち込むウソップの脳裏に観客たちの恨みの籠った視線、そしてウタの蔑むような冷たい目の記憶がよみがえる。

 

ウソップ(他人の悪意を浴びるのってやっぱり怖いな……)

 

思い出すと背筋がぞくっと震えて、ウソップは両手で二の腕をさすった。

 

ロー「喧嘩している場合か麦わら屋に鼻屋。あの女の能力を解き明かさない限り勝ち筋はないぞ」

ウソップ「プリンセス・ウタは悪魔の実の能力者なのか?」

ロー「そうとしか考えられない。まァ、あんな万能の能力の話なんざ聞いたことがないが……」

ウタ「あ、いた!」

 

突然ウタの声が上から降ってきた。

見上げると、音符のフロートに乗ってこちらを指差している姿が見える。

 

ベポ「あっ、ウタ―!」

ロー「なにやってるベポ! チッ、一旦退くぞ!」

ウソップ「立てるか? ルフィ」

ルフィ「くっ……まだ足に力が入らねェ」

ウソップ「しょうがねェな、このウソップズ・デリバリーさまにお任せだ!」

 

ベポを引きずって走るローとルフィを背負って後を追うウソップ。

逃げる四人を追いながらウタは楽しそうに声を張り上げた。

 

ウタ「海賊が逃げたよ! さァ、みんなで海賊狩りをやろー!」

 

 

 

* * *

 

 

 

ステージに巨大なグランドピアノを模した移動車(フロート)が現れ、陽気なマーチングバンドを奏で始める。

観客たちは後ろに並んで行進を始めた。

先導するウタがグランドピアノの上に軽やかに着地し、ニカッと笑う。

 

ナミ「みんな行っちゃった……」

ロビン「楽譜に貼りついている私たちだけが取り残されているようね」

ブルック「これはチャンスでは? 今のうちに……ふぬぬぬ……!」

 

空中で不安定な体勢で五線譜に貼りつけられている彼らは、思い思いに動き始めた。

 

サンジ「クッソ、ダメだ。外れねェ…」

ゾロ「情けねェぐる眉だな」

サンジ「お前だって外せてねェじゃねーか!マリモ!!」

ナミ「フランキーとジンベエはどう?」

フランキー「びくともしねェ」

ジンベエ「わしもだめじゃ」

チョッパー「んぐぐ……ブルックは……?」

ブルック「も、もう少しで……」

チョッパー「え!」

 

他と違う反応にナミとチョッパーは目を輝かせた。

 

ナミ「外れそうなの?」

ブルック「見えそうです。……ナミさんのパンツが」

サンジ「なにィ!」

ナミ「見たらぶっとばす!」

ブルック「ヨホホホホ」

 

そんなやりとりをしている一味の足元に近づく謎の影があった。

 

「“流動防壁(バリアビリティ)”!! 「階段(ステアーズ)」!!!」

 

五線譜の足元まで透明な階段がぐーんと伸び、全身をウタグッズで固めたトサカ髪の男が駆け上ってくる。

 

バルトロメオ「麦わらの一味のみなさ~~ん!!!」

ロビン「あら、ニワトリ君?」

バルトロメオ「はィ!!麦わら大船団2番船船長、海賊団「バルトクラブ」船長、不肖バルトロメオ!!!みなさんのピンチに助っ人に上がりました!だべ!!」

 

バルトロメオは“バリバリの実”の能力者だ。指を結ぶと最強のバリアを張ることができる。

その力で応用でバリアを階段状に変形して空中で固定し駆け上がってきたのだ。もうその姿は真下まで迫っていた。

 

ゾロ「相変わらず騒々しいな」

ロビン「あら、元気があるのはいいことよ」

ブルック「そっちからの方が見えそうですね。ナミさんのパンツ」

ナミ「あんたも見たらぶっとばす!!」

バルトロメオ「ヒェェッ!お、おらァ何も見てねェべ!!」

チョッパー「あ」

 

思わず両手で目を覆ったバルトロメオ。瞬間、バリアが解けて落下していった。

 

バルトロメオ「んなァーーーーーーーーーーッ!!」

 

アアアアァァァァ…………

 

サンジ「何やってんだあいつは……」

 

 

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