ブルック「あ、大丈夫のようですね」
着地する寸前で再びバリアを張ったバルトロメオが見えて安心する。
ロビン「もう…ニワトリ君がいれば顔の皮を薄く削ぎ落として脱出できたかもしれないのに」
ナミ「怖いこと言わないでよロビン!」
ジンベエ「しかしどうやって脱出しようかのう。向こうの連中も難儀しとるようだし」
ジンベエの視線の先には、同じように拘束されているクラゲ海賊団、ビッグ・マム海賊団の姿がある。
彼らが逃れようとしてもがき、腕や頭をぶつける度にポン♪ ピン♪ と異音が鳴っていた。楽譜だからだろうか。
ロビン「そういえば……『歌にしてあげる』ってウタは言ってたわね……」
ロビンは考えた。
もしかしたらこの楽譜に“意味”があるのではないか?
* * *
――再びライブ会場外
ウソップ「んぎィ~~~いっぱい来たァ~~!!」
ルフィを背負ったまま全速力で走るウソップ。
その背後から音符の兵士たちがわんさかと迫っている。
ローが愛刀・鬼哭を振るいベポがアチョーと蹴散らしても、音符兵はさらに増えて彼らを包囲していく。
ロー「チッ……誘導されている……!」
恐らくウタたち海賊狩りの大行進の目の前に飛び出すように適当な場所で逃げ道を作っているのだろう。
無軌道に見えて組織立った戦闘陣形にローは内心舌を巻いた。これもウタのしわざなのか。
ルフィ「やっと元に戻ってきた! いくぞ~! “ゴムゴムの”~~
ようやく動けるようになったルフィも反撃に加わるがきりがない。
一同は森を抜け、橋を潜り、煉瓦造りの建物の合間を抜けて、市街を見渡せる高台にまでやってきた。
ルフィ「うわァ……なんかいっぱいだなァ……」
空に浮いた音符兵たちがあちこちを監視するようにうろついている。
ルフィも、ゼェゼェと息が上がったウソップもそれを見てげんなりしていた。
ウソップ「……みんなを取り戻す作戦を考えなきゃいけないのに……どんどん追い詰められてるぞ」
ロー「囲まれる前になんとかしないとな」
「きみたち」
『!!』
不意に聞こえた声に一同は警戒態勢をとる。
しかし、現れたのは兵士ではなかった。身なりの整った年嵩の男で、目にはサングラスをかけている。
「兵士たちに追われて困っているのだろう。隠れられる場所に案内しよう」
* * *
男が案内したのは人気のない聖堂だった。
朽ちかけているが天井があるため空から音符兵たちに見つかることはない。
扉を閉めると音もほとんど聞こえなくなった。
ウソップ「ふ~~助かったァ……」
ルフィ「おっさん誰だ?」
ゴードン「私はかつて、この国を治めていたゴードンという者だ」
ロー「あんたが? エレジアはかつて世界一の音楽の都として栄えていたが、一夜にしてすべて消え去ったって話だ」
ウソップ「一晩で? どういうことだ??」
ロー「ある大物海賊に襲われたって噂だが……」
ウソップ(そういえばここに来るまで誰も見かけなかったな……ライブ会場はあんなに人がいっぱいだったのに)
ウソップはここへ来た時のことを思い出そうとしていた。
島の港に船を着岸させたあと、どうやって離れたライブ会場まで歩いてきたのか。
思い出そうとするほど記憶が曖昧になっていく。
ゴードンはルフィがかぶっている麦わら帽子にじっと視線を向けた。
ゴードン「……きみのその麦わら帽子に見覚えがある。赤髪海賊団という名に聞き覚えはあるだろうか」
「「赤髪海賊団!」」
驚いたルフィとウソップの声が重なる。
ルフィ「聞き覚えがあるも何も、シャンクスたちのことだろ? この麦わら帽子はシャンクスから預かってんだ」
ウソップ「……あの、俺もヤソップの」
ゴードン「そうか……きみとシャンクスたちには何かしらの縁があるようだね。ではウタのことも知っているだろうか」
ウソップ(無視された…!)
聞かれたルフィの表情が途端に険しくなった。
ルフィ「知らね。あいつと会ったの初めてだし」
ゴードン「そうか……。いや、話していいものだろうか」
ゴードンは何かを言いよどむように唇を動かした。
ロー「おい、ウタの関係者なら知っているだろう。あいつが何の能力者か」
ゴードン「彼女は……いや、先に話をしよう。ウタはシャンクスの娘だ」
ウソップ「娘だって!?」
ルフィ「あいつが!?」
目を見張る一同の前で、ゴードンは静かに語り始めた。
* * *
彼女は赤髪海賊団の船に乗ってこのエレジアにやってきた。赤髪海賊団の音楽家としてだ。
当時8歳だった彼女はこの国のどの歌手にも負けない素晴らしい歌声を持っていて、国中をその歌声で魅了した。
彼女の歌声はまさに天からの贈り物だった。
私は彼女と彼女の父親に、『この国にとどまって欲しい。彼女の才能を伸ばすために音楽の勉強をさせるべきだ』と伝えた。
二人はお互いだけで話し合ったあと、『気持ちは嬉しいが明日にはエレジアを離れる』と言った。
仕方のないことだと、私と国民たちもそれを受け入れた。
だがその夜――
――エレジアから国民の姿は消えた。
ウタひとりを残して。
シャンクスと赤髪海賊団の男たちは国中の財宝を奪いエレジアを去った。
ウタはたった一人置いていかれた。国民がいなくなったエレジアでウタは私が育てたのだ。
* * *
ウソップ「う……嘘だ! 赤髪海賊団が、オヤジたちがそんなことするわけねェ!!」
ルフィ「そうだ!おれの知ってるシャンクスと赤髪海賊団は理由なしに国を滅ぼすような海賊じゃねェよ!!!」
ロー「落ち着け二人とも。ゴードン元国王、あんたの話には不可解な点がありすぎる。まずなぜ赤髪海賊団はエレジアに来た? 何か目的があったんじゃないのか」
ゴードン「…………それは……」
ロー「……もしかして、この国に残る伝説目当てだったんじゃないのか?」
ルフィ「伝説?」
ロー「エレジアには古くから(バッパパラッタラッタ♪ ヒャアッ)」
いきなり鳴った陽気な効果音に、ローは気にせず話を続けようとしたが、
ロー「……魔王(チャカチャンチャン♪ スマセンッ)」
ロー「トットム(バッパパラッタラッタ♪マッテマッテ)眠って(チャカチャンチャン♪ スマセンッ!)……ベポ!!!」
発言を邪魔されしびれを切らしたローが振り向くと。
大量の小さな音符たちがベポの身体を包み込み、ミニサイズになっていくのが見えた。
ミニベポ「あちょー!!?」
ロー「ベポ―!」
ルフィ「くまー!」
ウソップ「プ、プリンセス・ウタ!?」
ウタ「ようやく見つけた。ゴードン、なんで海賊と一緒にいるの?」
ベポをミニサイズに変えた音符たちはウタが放ったものだった。
聖堂の扉が乱暴に開かれ、ウタの背後には大勢の観客と音符の兵士たちがひしめいている。
ウソップ(まずいぞ……このままみんなじゃ捕まっちまう! そうだ、ウタがシャンクスの娘だって言えばファンの動揺を誘えるかもしれない……!)
ウソップ(いやでも、そんなことしたらウタが……)
ルフィ「おいお前、シャンクスの娘だってのは本当か」
ウソップ「ルフィ!?」
ウソップが悩んでいるうちにルフィが喋ってしまった。
無遠慮な発言にウタがぴくりと眉を動かす。
ウタ「ゴードンに聞いたの?」
ルフィ「シャンクスの娘なら何で海賊狩りなんかするんだ。おかしいだろ」
ウタ「おかしくない。私は海賊が嫌いなの」
ルフィ「赤髪海賊団の音楽家だってんなら戻ればいいだろ。シャンクスのとこに」
ウソップ(あわわわわ……プリンセス・ウタとルフィが真っ向から言い合ってる! 空気が重い……!!)
ウソップ(なんとかしないと……)
ウタ「……うるさい」
ウタ「もうシャンクスの話は……やめて!!!!!」
ドン!
ウソップ「うわっ!」
ロー「くっ」
ミニベポ「アイヤー!?」
ウタの叫び声で衝撃波が発生し、小さくなったベポが吹き飛ばされる。
足を踏ん張って耐えたルフィの身体に今度は大量の音符が纏わりつき身動きを取れなくした。
剥がそうとしても音符が次々と増殖しきりがない。
ウタ「海賊をやめて、今までのこと謝ってくれたら許してあげようと思ったけど、もうやめた」
ルフィ「おい!ふざけすぎだ!!」
ウタ「最後に聞くけど、“海賊王”とか“
ルフィ「ない!!断る!!!」
取り付く島もない
ウソップ「ま、待ってくれプリンセス・ウタ!」
ウソップは慌てて飛び出した。このままでは全面衝突になってしまう。
大好きな
ウソップ「お、おれも赤髪海賊団の狙撃手ヤソップの息子なんだ! だからまず話し合いを……」
ウタ「うるさい。もう黙って。悪い海賊には悪い印をつけておしおきしなきゃ」
ウタの背後で大勢の観客がこちらに敵意の目を向けている。
兵士たちも槍を構え、巨大なフロートが急に光り輝き何かを仕掛けようとしていた。
音符に拘束されながらもルフィが身構える。
と、その時。
死角に移動したローが能力を発動した。
“シャンブルズ”!!
ロー、ルフィ、ウソップの姿が消え、代わりに外に生えていた大木が出現した。
ドサッと床に落ちたそれを見て観客たちが慌てて聖堂の中を捜索する。
『あれ?どこに行った?』『逃げたの?』『海賊が逃げた!』
ウタ「……ふーん。いろんな能力があるんだね」
ウタ「ま、いっか!」
気を取り直したウタは、観客に笑顔で振り返った。
ウタ「よーし、海賊探しゲームをしようか。逃げた海賊を見つけ出してねー!」
男の子「ねえ、ウタ……」
ウタ「ん? なあに?」
男の子「シャンクスってひとは、ウタのお父さんなの?」
ウタはきょとんとした顔で観客たちを見渡した。
大半は海賊を捕まえようといきり立っているが、中には心配そうにこちらを見ている人間もいる。
『そうだ、さっきシャンクスって……』『四皇の海賊、極悪人だよな?』『昔このエレジアを襲った張本人だぞ』
ウタは少し思案すると、くるっと振り返り聖堂の奥へと走った。
そこには衝撃波に煽られて膝をついたゴードンがおり、大丈夫?と声をかけて腕を引き起き上がらせる。
男の子「その人は?」
ウタ「紹介するね。このひとはゴードンさんって言って、私を育ててくれた人!」
ウタ「このエレジアの王様でもあるんだよ。すごいでしょ!」
にっこり笑顔で育ての親を自慢するウタに、男の子もつられて微笑んだ。
男の子「へえ…そうなんだ!」
女の人「王様に育てられたってことは、ウタは本当のプリンセス!?」
ウタ「ふふ、全然そんなのじゃないよ。でも私にとってゴードンさんは本当のお父さんみたいなひとなの」
ウタ「シャンクスって海賊は私をさらってこのエレジアに連れてきただけの悪党だよ」
『そっか…そうだよね』『ウタが海賊の味方のはずないよ』『ゴードンさん、いい人そうだな』
『きっとウタちゃんを一人で育ててくれたのね…』
ウタ「さあ、行こ! 海賊探しゲームにしゅっぱーつ!」
巨大フロートが再びマーチングバンドを演奏し、観客を誘導する。
今度は安心してみんな外へ出て行った。
一人残ったウタは、唖然としているゴードンを振り返り小さく声を掛ける。
ウタ「……ねえゴードン」
* * *
聖堂の裏手に移動した三人は、動けないルフィを担ぐと急いでその場を離れた。
森を抜けて高台に辿り着いた後、体に貼りついていた音符をパラパラと払い落とす。
ロー「ウタから一定距離離れると効力がなくなるようだな」
ルフィ「ありがとうトラ男。うっし! 反撃に行くか!」
ロー「だからヤツの能力がわからん以上勝てないと言っとるだろうが!!」
無計画に行動しようするルフィに怒鳴ってローが溜息を吐く。
ロー「……あのゴードンとかいう男、とんだ食わせものだ。ウタの正体は分かったが能力のことは何一つ喋らなかった」
ロー「まさかの身内だったとはな……」
* * *
ウタ「怒ってる? 相談もしないで勝手にライブ開いちゃって」
ゴードン「……ただのライブじゃないんだろう?」
ウタ「気づいてたんだ。なら応援してくれるよね」
ゴードン「私は……わたしは……」
ゴードンは何も言えなかった。
ウタのこれまでと、これからやろうとしていることを知っているのはゴードンただ一人だった。
あの麦わら帽子をかぶった青年に伝えようと思ったが、彼はウタを知らずむしろ嫌悪の感情を抱いていた。
隣にいた長い鼻の青年はウタのファンのようだが……そういう人間こそ最後の最期でウタの味方をしてしまうかもしれない。
だから彼に頼みたかった。身勝手でもこれしか方法が……。
ウタ「……そうやって黙って逃げるんだ。気楽でいいよね」
沈黙するゴードンにしびれを切らしたウタが背中を向けた。
いけない、こんなことでは。
ゴードンは一念発起してウタを説得しようと試みた。
ゴードン「私はお前にこんなことをして欲しくはない! 今すぐにでもライブを中止に……」
肩を掴み説得しようと手を伸ばすが、反対にウタが出した五線譜に絡めとられてしまった。
ウタ「ごめん、しばらくそこにいてね」
ゴードン「待てウタ! こんなことをして世界政府や海軍がだまっていないぞ!!」
ゴードン「だめだ! 引き返すんだ! ウタ! ウターーーーー!!!」
ウタは音符に乗って軽やかに外へ出ていく。
残された聖堂の中で磔のゴードンの悲しい響きがこだました。
ミニベポ「……あちょー??」