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物音がしていた。
眠っていたぼくは、目を瞑った状態で、耳を澄まし、その音に集中し、何が行われているのか、何の音なのか、想像力を働かせた。
決して騒がしい音ではなく、また、自然の音ではなしに、にんげんが出す音で、そして彼あるいは彼女は、ぼくらが寝ているということを知っているようで、遠くに離れて、作業しているようだった。
ブルーノだろうか?
トントンと、木を槌で打つ音がし、ガリガリと、木を切ったり削ったりする音がする。
ぼくは目を開けた。空は明るかったが、まだ早朝というべき時分で、起きるにはやや早い気がする。
ミアはまだ寝ていた。疲れているのだろうが、後どれくらい寝ているのだろう。いずれにせよ、放っておいてあげるのがよい。
ぼくは起床すると、立ち上がり、音のする方へと向かった。
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「おはよう」
ブルーノが、物陰より現れたぼくに挨拶する。
「おはよう。何か作ってるんだね」
「まぁな」
彼はホゾで木を組み合わせた作業台に、何枚か張り合わせた木の板を載せ、紐で作業台にギュッとキツく括り付けて曲げていた。
ひと段落付いたところで、額の汗を手の甲で拭い、フゥ、とブルーノは一息吐く。
「何を作ってるの?」
「当ててみな。もう大体の形は出来上がってるぜ」
「何に使うものなの?」
「身を守るためだな」
「それじゃ、盾だ!」
「正解」
ブルーノは、もう頃合いかと括った紐を解いて、木の板の曲がり具合を確かめた。ただの四角い木の板だが、盾になるというその言に相応しく中心線を境にキレイに湾曲している。
「後は、こいつを適当な形に切って整えて、穴あけをしてリベットでベルトを固定して、塗装して革で輪郭を保護してやれば、完成だな」
ぼくはふうん、と流石木工職人だと感嘆して、一方で、寝起きのうまく回らない頭で、なぜ今盾を作るのか疑問に感じた。
「何で」、とぼくは率直に切り出した。「何で、今、ブルーノは、盾なんか作ってるの?」
「何でって、必要だろ。戦うのに。今まで怠けて防具らしい防具は揃えなかったんだ。金がないが、今は幸いちょっとした余暇がある。その間に作っちまおうって思ったんだ」
――成るほど、とぼくは取りあえず納得した。彼は余暇があるから、あった方がないよりよい防具を自作しているのだ。そういうことらしい。
だが、ぼくの心の片隅には、晴れない疑雲が残っていた。それは、ブルーノが今まで戦闘ということに対して、積極的になったことがなかったはずだということに由来していた。
盾を作る行為が戦闘への意欲を表すかといえば、そうではないという気がする。今までだって、武器をぼくに買い与えるなど、彼の戦うということに対する意思や覚悟を忍ばせる機会は何度かあった。
だが、盾というアイテムが、何か注意すべきシンボルを暗示しているという気がした。
武器だけ持ち、防具はほどほどという装備だったぼくらは、結局のところ、真剣に戦うつもりはないのだった。あくまでそうなった時――不可抗力で、応戦せざるを得ないというピンチに襲われた時に、やむなく実力を行使するという姿勢で旅をしてきたのだ。
廃村ではこちらから仕掛けるということになったけれど、あれは緊急事態で、どうしても村に押し入って状況を確かめる必要に迫られてのことだった。
とにかく盾が不可解だった。あのサイズを見るに、ぼく用ではなく、ブルーノが使うためのものだろう。ぼくにも新たに作ってくれるのだろうか。
これから敵と大立ち回りを演じる、そういうイメージが、ブルーノにはあるのかも知れない、と、そんな風に、ぼくは想像してみるのだった。
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