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精力的に山登りするのは結構だが、出口を定めなければ、ぼくらは延々と山道を徘徊することになる。時間も体力も気分的余裕も必ず限度があり、その限度を超えては活動出来ないのだ。
そういうわけで、ブルーノはある程度の高みまで来ると、手でひさしを作り、遠くへと目を凝らした。
ところが、折からの雨が視界を暗く、また狭くしており、遠望を妨げるのだった。
ぼくとミアがその様子を見守っていたが、ブルーノはしくじったという風に舌打ちし、悪天候を考慮に入れず軽々に入山したことを悔いた。
「まぁ、今更後悔したところで遅い」
ブルーノが独り言めかして言う。
「とにかく、山を下りよう。地図上ではこの近くに人里があるんだ。二人共、まだ歩けるか?」
ぼくは、疲れていたが、へとへとというほどではなく、また、野宿よりは、どこかちゃんとした宿に止宿したいという思いがあったので、首を縦に振った。
ミアも同様に首肯したが、無理しているのではないかという虞があった。見た目にははっきりと分からないが、あるいは過度に負担を強いてしまっているかも知れない。だが、本人が大丈夫と言うのなら、信じてもよいと思った。
雨模様は変わらず続いており、太陽はすっかり雨雲の奥へと引っ込んでしまっており、光明を期待することは出来ない。
雨が降って濡れているから、滑落したりしないように気を付けるよう、ブルーノは注意した。だが、思うに道路としての利用があるのだろう、人通りの跡があり、獣道のように険しくないので、安全に進むのはたやすかった。
「気持ち悪いね」、とぼくは苦笑いと共に呟いた。
ミアは、「え?」、と怪訝そうに返した。
「ほら、雨が降って、ポンチョを着ているでしょう。汗と雨でズブズブになっちゃって」
「あぁ」、と彼女は合点が行ったように笑った。
「そうね。わたしも早く着替えたいわ」
「着替えは持ってるの?」
「ううん。わたし、逃げ出す時、すっかり手ぶらだったから」
「そう。でも、これから行くところで買えばいいよ」
「フリッツ、わたし、お金も……」
「気にしないで。ぼくが出すよ」
「でも――」
その時、ミアの足がちょっとした泥濘を避けようとして、うっかり滑り、転倒しかけたが、ぼくはハッと即座に反応して彼女の腕を掴み、ギリギリのところで救助した。
ミアは、完全に転けずには済んだが、中途半端に姿勢を崩し、尻餅をつく恰好になり、下半身がドロドロになってしまった。
「だいじょうぶ? 怪我はない?」
「えぇ、だいじょうぶ。ありがとう、フリッツ」
やはり先を行っていたブルーノは、立ち止まって振り返り、ぼくらの様子を見ていた。
ミアはバツが悪そうに手で払える分の汚れを払ったが、着ているものをひどく汚損してしまった。
こうなっては、流石の彼女も意地を張るということを断念して、ぼくの好意を甘受することに決めた。
別に、貸しを作ってやろうなどという下心があったわけではない。ただ単に、彼女が汚れた衣服を着替えられないということの不憫さが、ぼくにとって忍びないものだったというだけのことだ。
だが、過日、ぼくがミアと知り合った時にした、彼女が働いている服屋で服を買ってあげようという誓いを思い返すと、ぼくは、何となく治まりの悪い気分になってくるのだった。
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