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夜が明けた。
しっとりと落ち着いた雰囲気の村の宿でぼくらは過ごしたわけだが、昨夜のブルーノといえばひどかった。せっかくのムードが台無しというものだ。
彼は久しぶりにお酒を鯨飲したのだった。彼は酒癖が悪く、酔うと辺り構わず絡み、たいていの場合、絡まれたひとは不愉快になる。
昨夜は客がぼくらしかおらず、元々狭い居酒屋ではあったが、まるいテーブルに三人で付き、夜食を摂った。ステーキに、野菜サラダに、玉ねぎのスープに、しばらくぶりのご馳走を賞味した。
装備をすっかり解いて薄い長袖姿の彼は、木のジョッキに注がれるお酒を飲み干しては新しく頼み、やがてもう数えていられないくらいの量を彼は飲んだ。
どんどん顔は赤らんでいき、瞳は奈辺を凝視し、髪型は乱れ、ブルーノは近寄りがたい狂人じみた感じになった。
ぼくはやれやれと呆れ返ると、半ば怯えているミアに耳打ちしてブルーノの酒癖を簡単に解説し、早々と居酒屋よりおやすみと言って引き上げた。
次の日の天気は、雨こそ止んでいるものの、明るくなく、薄曇りだった。
近くの小川までミアと共に顔を洗いに行った。澄んだ水を浴びると爽快だった。
小川へ宿を出る時、ブルーノはまだ横になっていたが、帰ってきてもまだそうだったので、ぼくはため息を吐いた。
すると、ブルーノは気重そうに目覚め、上半身を起こし、眉をキッとひそめた渋面の寝起きの顔を晒した。
「頭が痛ェ……」、と、彼は呻く。
「昨夜飲み過ぎたんだよ。どれだけお酒が好きでも、限度っていうものがあるよ」、と、ぼくが諫める。
「おれ、そんなに飲んでたか?」
「うん。もう何杯か数えるのがヤになるくらい」
「全然、覚えてない」
ミアは片隅でじっと押し黙って、やや俯き気味に、二日酔いに苦しむ男を、半ば観察するように、半ば恐れるように、窺っていた。どうもまだ彼女はブルーノと打ち明けることが出来ていないようだ。無理もないといえば確かにそうだ。何となれば二人が初めて会ったのは二日前のことなのだ。
「ブルーノってさ」、とぼくは切り出す。前から聞いてみたかったことがあるのだった。
「どうして、弱いのにそんなにお酒を飲むの?」
彼はいつも、一杯でもアルコールを口にすればあっという間にへべれけになって、前後不覚で周りに迷惑をまき散らす。彼はいわゆる上戸ではあれ、したたかではないのだ。
寝癖の付いた髪を、ブルーノは返答を考えるように掻く。
「さぁな。詳しいことは自分でもよく分からない。ただ、飲めば飲むほど、気持ちよくなってくるんだよ。そして、その内我を忘れる」
ぼくは呆れたが、クスクスと忍び笑いが聞こえた。ミアが手で口元を覆い、笑いそうになるのを押し殺しているようだった。
「ねぇ。変だよね、ブルーノって」
ぼくは共感してもらえるつもりでそう投げかけたが、ミアは「ううん」、と首を振った。
「わたしのパパも、ブルーノさんとおんなじ感じなの。ゆうべ食事の席ではびっくりしたけど、同時に、パパとそっくりだなぁって思って、ちょっと感激しちゃった」
「ミアの、お父さん……」
ミアの父の話が出た時、ぼくはもうすっかり、ブルーノの性質への興味が失せ、現実的になり、これからやるべきことを改めて思い知り、身が引き締まるようだった。
まだ寝ぼけている様子のブルーノと、クスクス笑いをするミアの間で、ぼくは、一人まじめに、ぼくらが巻き込まれ、そこへ突入しようとする課題の存在を、眠気より完全に覚醒した頭で厳粛に認識するのだった。
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