さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第109話

***

 

 

 

 ブルーノが部屋へ戻ってくると、とりあえず朝食を食べようという話になった。

 

 居酒屋は朝やっていないので諦め、他を当たることにした。

 

 何やら香ばしい香りが流れていたので、ぼくらはその香りのする方へ外出して向かうと、パン屋を見つけた。

 

 店の正面の陳列台の半分ほどの面積に種々のパンがあり、他はすでに売れたようだった。

 

「見ない顔だね。旅のひと?」

 

 パン屋の主人と思しき女性が、物珍しがって話しかけてくる。

 

 彼女は、エプロン姿で、いかにもパン屋らしい恰好なのだが、肌の色が黒く、見慣れないので、失礼だとは知りつつも、ぼくはチラチラ見てしまうのだった。

 

 ミアも同じように興味深そうに、彼女をさり気なく見ている。

 

 やがて主人がぼくらの視線を怪訝に思うように小首を傾げ。「ん?」、と発した。

 

 すると、すぐさまブルーノがぼくらの前に、ぼくらの視界を遮るように割り込み、「そうなんです」、と答えた。

 

「ちょっとの間、滞在させてもらおうかな、と」

 

「へぇ。でも、ここって何にもないよ。見れば分かるだろうけど、四方が山に囲われて、よそとの交流が寂しいもんだから、活気がない。お年寄りばっかりだしね」

 

「そうですか? あまりひとを見かけないので知らなかったです」

 

「まぁ、ゆっくりして行きなよ。さてさて、パンはいかが? ちょっと冷めちゃったけど、美味しいパンだよ」

 

 そう自信満々に言って、女性は両手を陳列棚へ広げて見せた。

 

「好きなの選んでいいぞ」、とブルーノが振り返って言う。

 

「ホント?」、とぼく。

 

「あぁ。ただし二つまでな。ミアさんも」

 

 パンを買ってもらえることになって、ほくほくして一所懸命にどれを選ぼうかと吟味する自分が、とても子供じみていると思った。実際、十二歳の子供に過ぎないのだけど。

 

 ミアはあっさりと選んだ。シナモンで甘いパンと、チーズを中に含んだパンだった。

 

 ぼくは何だか置いてきぼりにされる気がして、短兵急に、野菜と肉を挟んだパンを一種類でふたつ買った。

 

「ありがとう。また来てね」

 

 パン屋の女性は手を振ってぼくらを見送った。

 

 帰り道、オレンジの果樹園があり、またそこで果樹園のひとが果汁搾り機を動かしていたので、立ち寄ってジュースを求めた。

 

 代金はきちんと払うと言ったのに、農家の方が遠慮して――というのは、今絞っているのは商品にならないものだからということで、無償で手に入れることが出来た。

 

懇切に感謝を述べて、ぼくらはオレンジジュースをガラス瓶に入れてもらった。

 

 部屋に戻り、それぞれ朝食を摂った。ひとの親切が沁みて、おいしいと思うだけでなく、ありがたいとも思った。

 

 こういう日常がずっと続けばいいのに、とぼくは心より願い、そして、その願いが、とても儚いことをすぐに悟り、何か空しく、悲しい思いに駆られるのだった。

 

 

 

***

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