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ブルーノが部屋へ戻ってくると、とりあえず朝食を食べようという話になった。
居酒屋は朝やっていないので諦め、他を当たることにした。
何やら香ばしい香りが流れていたので、ぼくらはその香りのする方へ外出して向かうと、パン屋を見つけた。
店の正面の陳列台の半分ほどの面積に種々のパンがあり、他はすでに売れたようだった。
「見ない顔だね。旅のひと?」
パン屋の主人と思しき女性が、物珍しがって話しかけてくる。
彼女は、エプロン姿で、いかにもパン屋らしい恰好なのだが、肌の色が黒く、見慣れないので、失礼だとは知りつつも、ぼくはチラチラ見てしまうのだった。
ミアも同じように興味深そうに、彼女をさり気なく見ている。
やがて主人がぼくらの視線を怪訝に思うように小首を傾げ。「ん?」、と発した。
すると、すぐさまブルーノがぼくらの前に、ぼくらの視界を遮るように割り込み、「そうなんです」、と答えた。
「ちょっとの間、滞在させてもらおうかな、と」
「へぇ。でも、ここって何にもないよ。見れば分かるだろうけど、四方が山に囲われて、よそとの交流が寂しいもんだから、活気がない。お年寄りばっかりだしね」
「そうですか? あまりひとを見かけないので知らなかったです」
「まぁ、ゆっくりして行きなよ。さてさて、パンはいかが? ちょっと冷めちゃったけど、美味しいパンだよ」
そう自信満々に言って、女性は両手を陳列棚へ広げて見せた。
「好きなの選んでいいぞ」、とブルーノが振り返って言う。
「ホント?」、とぼく。
「あぁ。ただし二つまでな。ミアさんも」
パンを買ってもらえることになって、ほくほくして一所懸命にどれを選ぼうかと吟味する自分が、とても子供じみていると思った。実際、十二歳の子供に過ぎないのだけど。
ミアはあっさりと選んだ。シナモンで甘いパンと、チーズを中に含んだパンだった。
ぼくは何だか置いてきぼりにされる気がして、短兵急に、野菜と肉を挟んだパンを一種類でふたつ買った。
「ありがとう。また来てね」
パン屋の女性は手を振ってぼくらを見送った。
帰り道、オレンジの果樹園があり、またそこで果樹園のひとが果汁搾り機を動かしていたので、立ち寄ってジュースを求めた。
代金はきちんと払うと言ったのに、農家の方が遠慮して――というのは、今絞っているのは商品にならないものだからということで、無償で手に入れることが出来た。
懇切に感謝を述べて、ぼくらはオレンジジュースをガラス瓶に入れてもらった。
部屋に戻り、それぞれ朝食を摂った。ひとの親切が沁みて、おいしいと思うだけでなく、ありがたいとも思った。
こういう日常がずっと続けばいいのに、とぼくは心より願い、そして、その願いが、とても儚いことをすぐに悟り、何か空しく、悲しい思いに駆られるのだった。
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