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「あのパン屋のひとだけど」
と、ぼくは切り出した。
それぞれ、パンを口に頬張っている最中だった。
「肌の色が、ぼくらと違ったね」
「そうか」、とブルーノが返す。「お前は、まだ見たことがなかったか」
彼は、黒い肌の人種について簡明に教えてくれた。
彼らは、この時代にあって、いまだに原始的な生活を営む種族らしい。しかし、原始的といっても、発展が遅れているということではなく、彼らに特有の宗教があって、その教えに従って暮らしているだけらしい。
彼らは基本的に山籠もりしている。洞穴に住まいを設け、食べ物も飲み物も、着る物も、自然に求めて獲得する。野蛮といえば野蛮だが、文字の読み書きが出来、ちゃんと言語もある。ただし、ぼくらが使うものとは全く異なる。
彼らは山をねぐらとすることで、山そのものを神聖視する。
彼らの民族の全てが黒い肌をしているということもなく、中には彼らに感銘を受けて入信する者がいる。
が、逆に彼らより離反する者もいて、その例が、あのパン屋を切り盛りする女性だったというわけらしい。
ぼくは感心して聞いたが、ミアも同じ様子だった。
「おれが一人で旅してた時、何度か助けてられたことがあるぜ。ある雨の日の夕方、薄暗い山道で迷って途方に暮れてた時に、偶然やつらの仲間と出会って、洞穴で雨宿りさせてもらったり――まぁ、やつらの全てが、親切でお人好しとは限らないだろうがな」
ぼくらがいつも生活している環境には、彼らは姿を見せず、山を縄張りに局限的に暮らしているということで、その存在について、ぼくが今まで知らずにいたのは、無理もないと思った。だが、あるいは、今まで旅の途上で、見かけたことくらいは何度かあったかも知れない。
その話題は興味深かったが、本来行くべき道があるというのに、あまり横道に逸れるのはよくないことだ。
「さて」、とブルーノが手をパチンと叩き、違う話題へと移ろうとする。
ぼくらはそれぞれ、すでに朝食を食べ終えていた。
「今日からのことだが、しばらくの間、二手に分かれて行動しようと思う」
「別々に行動するの?」
「あぁ、おれが離れるから、お前らは二人で固まって動いてくれ」
「ちょっと待って、話が急すぎて……」
「何か当てがあるんですか?」
ミアがブルーノに問う。
「いや、ノーヒントも同然だが、ちょっとこの辺を動き回って、君が連れ去られたという『教団』の手がかりを探るよ」
「ぼくらは、じゃあ、この村に残るっていうことだね?」
「そうだ。お前らはおれが戻って来るまで、ここで過ごしていて欲しい」
「過ごすっていったって、先立つものがないとどうしようもないよ。お金はあんまりないんでしょう」
「だから、フリッツ、まずはギルドを探すんだ。ギルドへ行って、仕事の有無を確かめる。いつも旅でやってたのと同じようにすればいいんだよ。子供だけで仕事を求めに行ったら、ひょっとすると門前払いを食らうかもしれないが、事情を説明すれば、きっと何かしら紹介してくれる」
ブルーノはベッドより立ち上がり、ズボンのポケットに手を突っ込んで、窓辺に向かった。ぼくとミアは彼を目で追った。
「いつ帰ってくるの?」
「さぁな。分からん」
「バラバラになるのは、不安だよ」
「手分けした方がいい時もある」
「そりゃ、そうかも知れないけど……」
湿気のせいか、うっすらと白っぽい外の景色を、ブルーノは、半ば放心して眺めている。
彼が一体何を考えているのか読めないぼくは、彼と目的や企図を共有せずに離れるということが、とても心細いのだった。
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