さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第110話

***

 

 

 

「あのパン屋のひとだけど」

 

 と、ぼくは切り出した。

 

 それぞれ、パンを口に頬張っている最中だった。

 

「肌の色が、ぼくらと違ったね」

 

「そうか」、とブルーノが返す。「お前は、まだ見たことがなかったか」

 

 彼は、黒い肌の人種について簡明に教えてくれた。

 

 彼らは、この時代にあって、いまだに原始的な生活を営む種族らしい。しかし、原始的といっても、発展が遅れているということではなく、彼らに特有の宗教があって、その教えに従って暮らしているだけらしい。

 

 彼らは基本的に山籠もりしている。洞穴に住まいを設け、食べ物も飲み物も、着る物も、自然に求めて獲得する。野蛮といえば野蛮だが、文字の読み書きが出来、ちゃんと言語もある。ただし、ぼくらが使うものとは全く異なる。

 

 彼らは山をねぐらとすることで、山そのものを神聖視する。

 

 彼らの民族の全てが黒い肌をしているということもなく、中には彼らに感銘を受けて入信する者がいる。

 

 が、逆に彼らより離反する者もいて、その例が、あのパン屋を切り盛りする女性だったというわけらしい。

 

 ぼくは感心して聞いたが、ミアも同じ様子だった。

 

「おれが一人で旅してた時、何度か助けてられたことがあるぜ。ある雨の日の夕方、薄暗い山道で迷って途方に暮れてた時に、偶然やつらの仲間と出会って、洞穴で雨宿りさせてもらったり――まぁ、やつらの全てが、親切でお人好しとは限らないだろうがな」

 

 ぼくらがいつも生活している環境には、彼らは姿を見せず、山を縄張りに局限的に暮らしているということで、その存在について、ぼくが今まで知らずにいたのは、無理もないと思った。だが、あるいは、今まで旅の途上で、見かけたことくらいは何度かあったかも知れない。

 

 その話題は興味深かったが、本来行くべき道があるというのに、あまり横道に逸れるのはよくないことだ。

 

「さて」、とブルーノが手をパチンと叩き、違う話題へと移ろうとする。

 

 ぼくらはそれぞれ、すでに朝食を食べ終えていた。

 

「今日からのことだが、しばらくの間、二手に分かれて行動しようと思う」

 

「別々に行動するの?」

 

「あぁ、おれが離れるから、お前らは二人で固まって動いてくれ」

 

「ちょっと待って、話が急すぎて……」

 

「何か当てがあるんですか?」

 

 ミアがブルーノに問う。

 

「いや、ノーヒントも同然だが、ちょっとこの辺を動き回って、君が連れ去られたという『教団』の手がかりを探るよ」

 

「ぼくらは、じゃあ、この村に残るっていうことだね?」

 

「そうだ。お前らはおれが戻って来るまで、ここで過ごしていて欲しい」

 

「過ごすっていったって、先立つものがないとどうしようもないよ。お金はあんまりないんでしょう」

 

「だから、フリッツ、まずはギルドを探すんだ。ギルドへ行って、仕事の有無を確かめる。いつも旅でやってたのと同じようにすればいいんだよ。子供だけで仕事を求めに行ったら、ひょっとすると門前払いを食らうかもしれないが、事情を説明すれば、きっと何かしら紹介してくれる」

 

 ブルーノはベッドより立ち上がり、ズボンのポケットに手を突っ込んで、窓辺に向かった。ぼくとミアは彼を目で追った。

 

「いつ帰ってくるの?」

 

「さぁな。分からん」

 

「バラバラになるのは、不安だよ」

 

「手分けした方がいい時もある」

 

「そりゃ、そうかも知れないけど……」

 

 湿気のせいか、うっすらと白っぽい外の景色を、ブルーノは、半ば放心して眺めている。

 

 彼が一体何を考えているのか読めないぼくは、彼と目的や企図を共有せずに離れるということが、とても心細いのだった。

 

 

 

***

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