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もしも、みずからの故郷へ帰り、そこに、じぶんのよく知っているものとはすっかり異なる風景が広がっているとか、馴染みのないにおいが漂っているとかした時、どういう思いが、湧きあがってくるものだろう。
リーザは、事前に覚悟をしていたとはいえ、変わり果てた村の姿を目にした途端、フッと気が遠くなるようだった。
自分がよく見知った街並みはもう廃墟の並びと化し、ひと気は絶えてなく、殺伐とした雰囲気が濃密に村全体を覆っている。
村の出入口に、オットーとミアは、唖然として立ち尽くしている。
「これは、ひどいですね。徹底的にやられている……」
「何で……」
破けて散々踏み付けられた衣服に、穴のあいた靴、腐ったリンゴ。家屋の窓ガラスはひびが入るなり割れるなりし、扉はかしいでいる。
大きな疑問符で一杯のリーザの頭には、城下町で村の潰滅の知らせが来た時のことがフラッシュバックした。
『わたしのあずかり知らない理由があって、村は襲われたんでしょう――』
「そうだとしても」、と彼女が呟く。「理由も分からないで、この状況を納得出来るわけないじゃない」
「入ってみましょうか」、とオットー。
リーザは上の空という具合で、オットーは彼女が心底哀れだと同情した。
「別に無理強いはしません。でも、こんな目立つところに立っていたら、誰かが見つけないとも限りません。ひと気は確かにありませんが、ひょっとしたら誰かいるかも知れない。そして、こういうところに潜んでいる者など、到底まともな人間性など期待出来ないのです」
そう言うと、オットーはリーザの腕を掴んで、半ば引っ張っていくように村に入り、損壊の程度が比較的ひどくない建物のある部屋へと、彼女を避難させた。物が散乱して、空気も埃っぽいところで、オットーとリーザは思わずむせた。
「ここでじっとしていてくださいね。ぼくもサッと簡単に村を巡回したら、すぐに帰ってくるので」
「……分かったわ」
リーザはすっかり力なく、脚を折ってペタリと座り込み、眼差しは曇っていた。
オットーは、飛脚の任務をチャッチャと済ませてしまおうと、集められるだけの情報を集めるべく、村内を歩いて回った。
あるところではひどい異臭がし、その程度と言ったらもう、鼻がもげてしまいそうなほどで、オットーが眉をひそめて見てみると、うず高い屍の山があり、その周りをハエが飛び回っているのだった。
オットーが不快感にじっとしていると、ガラガラと車輪が回るような音がし、彼はハッと身構えて物陰に隠れた。
しばらく目を凝らしていると、死体の山のある広場に、幌馬車が現れ、そのそばで止まった。馬の毛並みを見ると、けっこう上等そうだった。
男が、その馬を操っており、彼は馭者席より跳び下りると、「おい」、という掛け声を上げ、その後、ゾロゾロと複数の男たちがやってきた。
身なりが薄汚く、人相なども中々人懐っこいとは言い難いもので、彼らはどうも、馭者席の男を首領とした賊らしい。
首領は顎で死体の山を指すと、仲間というか、子分たちは手分けして死体を一体一体運び始めた。
オットーは、ビクビクする一方で、すごいことをやってのけるものだと感心したが、彼らにしたって、腐乱しようとしている死体など、触れたくもないようで、だけど、いつまでも野ざらしというわけにもいかず、仕方なくやるといった感じで、誰も彼も青褪めた面持ちで、死体を運んだ。
彼はしかし、この村の出来事と関係があるのだろうか――オットーは気になった。
だが、今は彼らの力に甘えて、不浄極まりない放置された死体を片付けてもらおうと、とりあえず思うのだった。
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