さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第117話

***

 

 

 

 悲しいから、涙したし、恨めしいから、呪った。

 

 そして、リーザは、恐ろしいから、怯えた。涙を飲み、嗚咽をやめた。

 

 今この地に居着いている連中は、蛮族であり、冷血者であるに違いない。

 

 目いっぱい、泣きたいし、問い詰めて報復してやりたいと、リーザは望んだが、恐怖心が全て抑圧した。

 

 

 

 その時、部屋の扉がおもむろに開いて、リーザはギョッと肝を潰した。

 

 キィィ、と、木の扉が軋み、ゆっくり開く。

 

 リーザは慄然として身構えたが、現れたのはオットーであった。

 

 彼はゆっくりと後ろ手に扉を閉じると、リーザのもとへ寄り、両脚を折って座り、「帰ってまいりました」、と恭順に伝えた。

 

「ご苦労様。無事に帰ってこられてよかった。何か分かることはあった?」

 

 問いに、オットーはしゅんとして首を左右に振った。

 

「そう。ダメだったのね――まぁ、あなたの表情を見て、何となく察したわ」

 

「今ここにいるのは、やはり賊でした。彼らはこの村の事件とは無関係のようで、幾つか質問してみましたが、価値のある回答はありませんでした」

 

「ねぇ、オットー」

 

 リーザはいやに神妙に、切り出した。

 

「はい」、とオットーは、彼女の調子に合わせて返した。

 

「賊たちが今、運んでいるじゃない、その、遺体を……」

 

「えぇ、穴を掘って埋めるつもりのようです。あれだけの人数がいれば、この村の死者を埋葬する穴は、まぁ、わけもないといった感じでしょう」

 

「わたし、この村の出身者なの。きっと、穴の中には、わたしの知っているひとが何人か――いや、何人も、放り込まれたかも知れない」

 

 オットーは絶句したが、気持ちはよく察すると、彼女に寄り添おうという思いで答えた。

 

「あの穴には……」

 

 リーザは、言い淀むと、喉をンンと慣らし、ためらいを示した。

 

 結局、彼女は「何でもない」、と続きを言わずに結んだ。

 

 今、コンラートの話題を口にすれば、また回想が巡り、想いがとめどなく溢れてくるに違いないと予想して、憚られたのだ。

 

 今、こういうまったく安全ではない環境で、郷愁に浸るのは場違いだし、何より、今自分の感情が流露することになれば、堰き止めることが出来ないほど、横溢するだろう。

 

 ――そうリーザは感じ、考え、すっかりぶちまけてしまいたい思いをグッと堪えて、飲み込んだ。

 

 

 

 昼を迎え、二人はサッと何か口にしようとし、宿でもらったウエハースを食べた。サクサクと食管はよく、だが、本来であれば甘く感じるその味が、環境が環境なので、味覚がうまく機能せず、彼らの口にとっては、ほとんど無味だった。

 

 

 

 リーザがモシャモシャ口を動かし、やがてすっかり食べ終える頃、何やら外が騒がしくなった。二人は耳を澄ましたが、どこかから音が響いて来、段々と近付いてくるようだった。

 

「誰か来ますね。それも複数」

 

「誰かしら。賊が更に増えるのはゴメンだわ」

 

「分かりません。ただ、こちらの方へは来ないみたいです。音が逸れている」

 

 よく聞くと、その音が馬蹄の音であると分かる。馬が集団で駆けていくようだった。

 

 すると、遠くで呶鳴り声が上がり、賊が、何やら興奮しているらしかった。

 

 オットーとリーザは顔を見合わせ、一体何が起こっているのかサッパリだという風にきょとんとし、それぞれの頭上に疑問符を上げた。

 

「何でしょうね」

 

「見に行きましょうか」

 

「そうね。興味がある」

 

「けれど、慎重に、忍び足で、存在を気取られないようにね……」

 

 二人は互いに頷き合うと、立ち上がり、扉をゆっくりと開いて、外を窺い、誰もいないことを確認すると、隠密に外へ出ていった。

 

 

 

***

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