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「いいか、者ども、よく聞け」
と、彼は腰の鞘より剣を抜いて振りかざし、その白銀の刀身を輝かせ、朗々と言った。
「この地は、我らが都、バルビタールの領域にある。先般村が何者かの襲撃により、滅びたという知らせを受け、今日馳せ参じた次第である」
ある広場において、ふたつの集団が対峙していた。空気はピリピリとし、一触即発という具合である。
片方は、身分不詳のいかがわしい賊たちであった。ボロを着、なまくらの刃者を武器とし、言葉遣いは知性を欠いていた。片隅には、彼らにはあまり似つかわしくない上等の馬が、幌馬車を付けて、どこかしょんぼりと佇んでいる。
もう片方は、兜を被り、いかめしい肩当てと胸当てを装備し、その下には鎖帷子を着ている、洗練された佇まいの騎士たちだった。彼らは全員、馬に乗っていた。
数十名という騎兵を前に、賊たちはビクビクと臆したようで、姿勢が後退気味になっている。
一触即発とはいえ、正面から対決すれば勝ち目がないと、賊たちはそれぞれ分かっているのだろう。
声高に演説を打ったのは、騎兵たちの先頭にいる、彼らの内で最も重装備の者で、彼は――今は上げているが――目隠しのある兜を被り、全身を覆う、重いだろう鎧を着込んでいる。
「――従って、この地は我らのテリトリーである。よそ者は早々に去るべし。でなければ、我らの実力をもって掃討するまで」
思うに、彼は隊長なのだろう。彼がそう言い終えると、賊の首領が、前へ姿を現した。
「今頃おいでなすって、一体何の用だ? この有様じゃ、廃墟も同然じゃないか。アンタらにとって、どういう価値がある。どういう価値が残ってる?」
地上に立つ首領は、馬上の騎兵隊・隊長を、目線を上げて睨んだ。
「廃墟ではない」、と隊長は冷たい目で首領を見下ろした。「我々が異分子を排除した後に、復興する。町も、ひとも、田畑も、蘇らせる」
「気に食わないね。その物言い。偉そうで、手前勝手で。だからおれは、ハイソっていうのが大嫌いなんだ」
「嫌いで結構。我々が君たちに好かれようが、嫌われようが、何の影響もない。君たちが潔く退いてくれるならば、我々は手出ししない。約束しよう。しかし歯向かうならば、容赦しない」
「おれたちは、腐った死体を嫌々全部始末してやったんだぜ。ひどいにおいだったんだ。ハエも鬱陶しかった。相応の報いがあってもいいと思うが」
「何を言う。やってくれなどと頼んでいないではないか。どの道、善意でやったのではないだろう。君たちがこの村に居着く上で問題となるから、片付けただけに違いない」
「ケッ」
首領は面白くないとでもいうように、ツバを吐き捨てた。
「あぁ、分かったよ。おれは、そう馬鹿じゃない。アンタらが正々堂々と戦って勝てる相手じゃないのは、重々分かる。まぁ、見立てが甘かったと思って
そう言うと、首領の「おい」、という掛け声で、賊たちはゾロゾロと足並みを揃え、回れ右をして去っていった。あの馬も、賊の一人に連れられて、随伴していった。
騎兵隊・隊長は、賊たちが案外すんなり撤退するものだと少々呆れたが、要らぬ争いをせず済んだことに安堵のため息を吐き、剣を鞘に納めた。
「賊の割に、なかなか賢いものだ。お互いにとって悲しむべき場面に際会せず済んでよかった」
あるいは賊たちは、金目のものを盗んでいったのかも知れない、と、彼は疑ったが、その件は、本来の目的からすれば、些末なことなので、咎めないことにした。
オットーとリーザだが、彼らは、この次第を、途中より、物陰よりこっそりと見ていた。
彼らは賊たちが去ったことに安心したが、一方で、あの騎兵たちが、どういう素性のものなのか気になった。
隊長の言より推測すると、彼らは、ゲールフェルト村を抱く、より大きな社会集団、それも、彼らのように練度の高い兵隊を擁する
リーザは、眉をひそめて、何か考え事でもしているように、彼らをじっと見つめていた。
リーザは、あの騎兵たちの恰好に、何となく、見覚えがあるのだった。
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