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賊がすっかり退散するのを見計らって、オットーたちは隊列を組む騎兵たちの前に出ていった。
「おや」、と騎兵隊・隊長は言う。
「みんな行ってしまうぞ。遅れないよう、早く追うがいい。仲間ならば、足並みは揃えるべきだ」
オットーは掌を出してみせると、「いえ」、と否定した。
「ぼくらは賊ではありません。飛脚ともいえるし、旅人ともいえる……そういう感じです」
「そうか。君たちは、我々のやり取りを見ていたのか?」
「えぇ。見ていました。ぼくらがどういう事情で何をしにこの廃村にいるのか、全部話そうとすると、いささか長くなってしまうので端折りますが、この村の様子を調べに城下町よりやって来たというところです」
「成るほど。自己紹介してくれたお返しに、わたしのことも、知ってもらおう。簡潔に、だがね」
そう言うと、隊長は馬を下り、小手を外し、オットーの前に歩み出て、手を差し出し、二人は、敵対関係ではないことの証として、握手を交わした。
「そちらのお嬢様も」
隊長は、オットーとの握手の後、彼よりやや後方に隠れるようにしているリーザにも、やや背を曲げて前屈みの姿勢で、手を差し伸べた。
「あっ……」、と、ほとんど息の音に近い声を発すると、彼女は気後れするように、伏し目がちに応対し、華奢で無垢の少女らしいその手で、彼の大きなゴツゴツした手を握った。
隊長は、彼女の雰囲気に、目敏くやんごとない感じを認め、一方でオットーに対しては、大したことはないと見抜き、余り敬意を持つことはなかった。
リーザには、この騎兵の人相や佇まいに見覚えがあり、いつか会ったかということを尋ねてみたい気持ちがあったが、今はすっかり畏縮して、遠慮してしまうのだった。
バルビタールというのは、彼らがやって来た街であり、大都市だった。中央に大聖堂を据え、貴人である諸侯がその周りに住み、彼らや、有力商人や、熟達した職人などで成り立つ議会で、都市の政治が執り行われる。しかし最高権力を持つのは領主であり、バルビタールの領主は、オリバーという。
「――出来れば」、と隊長は言った。「もっと早くに駆け付けたかったのだが、出征の命が下るまでに、ひと悶着あったのだ。オリバー殿下と、商人や貴族たち――すなわち議会との間で、今回の事件に際して、派兵すべきか否かが論じられたのだが、激しい対立があったのだ。領主であられる殿下には、領地を取り戻すために派兵したいという思いがまずあり、しかし議会では、戦となれば、外部との交易が出来なくなったり、物品の生産に制限がかかったりするなど、商売における難点が出てくるため、異を唱えたのだ」
「成るほど」、とオットーは、感心したように言う。「やっぱり、大都市というのは、政治体制が緻密になってるものなんですね。その辺の町や村では、議会といえるほどのしっかりした組織はなく、せいぜい寄合というべき程度のものがあるだけで、そこで行われる議論も、どこか和気あいあいとしているというか、なれ合いじみていて、そういう誰かと誰かの思惑が対立するということが、あんまりないんですよね」
「思うに、人間関係の影響があるのだろう」、と隊長。「たくさんのひとが、都市には暮らしている。職人がおり、商人がおり、学生がおり、浮浪者がいる。我々、騎士もいる。聖職者もいる。それぞれに固有の身分があり、縄張りがある。ゆえに、対立が生じる。規模の小さい村や町のように、住民同士の関係が密接でないから、ヘンに邪推したりして自己の便益を守ろうと敵対しやすいのかも知れない」
隊長は、外した小手に手を突っ込むと、拳を握ったり開いたりしてはまり具合を調整した。
「ひとが多ければ多いほど、経済活動が活発になり、賑わい、栄えるが、一方でデメリットもあるというわけだ」
そこまで言うと、彼は
「さて、我々は程なく着くと思われる工兵隊や補給隊を待つ。君たちはどうする? もしよければ、この村の復旧作業を手伝ってもらいたいが」
オットーは、少し考えた。彼にとっては、騎兵には申し訳ないが、廃村の復旧を手助けするというのは、その義理も特になく、面倒であることが明白で、もう帰っていい気がした。村の襲撃の詳細は結局分からなかったが、後のことは大体、予想が付く。偵察隊が来て、あるいはもっと詳しく調査する可能性はあるが、自分の目でザッと見てみて、目ぼしい手がかりはなかった。これ以上の成果を上げるのは、難しいだろうということだった。
ふと、オットーはリーザを見た。すると、彼女も同様、これからのことについて考える様子だったが、心なしか、面持ちが悲痛だった。
風が吹いた。すると、不快感が込み上げてくるようで、オットーは思わず顔をしかめた。
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