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亡骸をすっかり放り入れた穴を塞ぐ前に、騎兵の内の殊勝な者が、埋もれているあるひとりの老人を、木の枝など、長いもので他の亡骸を押したり除けたりして探し、ついに引っ張り上げた。
「今回は、お気の毒だった。お悔やみ申し上げる」、と隊長が憐憫を込めて言う。
コンラートのことだった。今は、地面の上に、仰向けになっている。
殴打の痕が痛々しいことこの上ないが、目も口も閉じ、手はお腹のところで組まれ、死相は安らかなものだった。
「墓地があるの」、とリーザ。「多分、特に荒れていたりはしないと思う。だって墓地には、お墓とお供えの花以外何にもないんだもの」
コンラートを墓地へ連れていきたいと令嬢は哀願した。
オットーを始め、騎兵一同は、ややうろたえる感じになったものの、例の殊勝な兵士と、オットーの二人で、執事の遺骸を持ち上げ、運んだ。
老人はすっかりやせ細っており、まるで重みを感じず、それが、オットーにとって、いやに不気味に思えた。
荒涼とした村の只中を通り抜け、外れに来ると、教会が見えた。こぢんまりとした教会だった。穴の中には、祭服を着た教父の無残な姿もあり、確かに教会は攻撃を受けた形跡がなく、無傷に見えはするものの、中はもぬけのからだった。
墓地では、墓石が整列して並んでいる。平らな土地に、下草が茂り、草木も、墓石も、あまねく秋の日を浴び、また、涼しい風が吹き、墓地は、どこかしめやかな雰囲気があった。
「聖職者がいないので」、とオットー。「祈りの言葉を捧げるなど、正式に弔うというのは難しいですが、よろしいですか?」
「えぇ」、とだけ、簡単に返すことで肯定したリーザは、もう堪えられないという感じで、目元を潤ませ、嗚咽を漏らした。
男たちは、額に汗してスコップを持って、シュトラウス家代々の墓石のそばに、細長い穴を掘った。
「コンラートは、わたしたち家族と血の繋がってない、外部のにんげんだけど、よくしてくれたから。本当に、よく尽くしてくれたから……」
穴が掘れると、遺骸は足から先に入れられ、その後、ゆっくりと全身が穴底に横たわるように、丁重に扱われた、
穴の中で、執事が永眠している。時折穴の側面が崩れ、土がパラパラと彼の方へ落ちていく。彼は深いところで寝ており、地面から見下ろすと、ずいぶん遠く見える。
「今までありがとう」、とリーザは嗚咽と共に述べ、頭を深く下げた。
その声色は余りにも哀れで、また健気で、聞いていると、騎兵たちも、オットーも、胸が詰まるようで、中には我慢出来ずにこぼれた涙を見せまいと顔を伏せる者がいた。
「故人もきっと、感謝していることだろう。これだけ深く思いを寄せてくれるひとが見送ってくれるのだ。安心して、旅立てるのではなかろうか」
騎兵隊・隊長が、森厳に言った。
「お嬢様」、とオットー。「そろそろ、土を被せてあげましょう」
リーザは、黙年と首を縦に振った。口をキッと一文字に結び、止まらない涙を強いて飲み込むようだった。だが、息のふるえがやまず、自制しようとするその様が、他の者たちの同情を誘った。
男たちで、掘り返した土を穴に入れた。穴がすっかり埋まった後は、盛り土をした。シュトラウス家と違い、墓碑などがなく、簡素に過ぎやしないかという嫌いがあったが、そのことを指摘する者はいなかった。
最後に、全員で合掌し、弔意と共に、瞑想した。
「みんな、ありがとう」
リーザが、赤く泣き腫らした顔で、一同に向けて言った。
「みんながいなかったら、コンラートに、ちゃんとお礼も、お別れも、言えなかったと思う。土葬するのは、力仕事だしね」
オットーと、騎兵たちは、うっすらと微笑み、彼女の謝意に応えた。
夕が押し迫る頃、隊長が言っていたように、補給隊と工兵隊が遅れて到着した。彼らは墓地で何やら湿っぽいことをやっているリーザたちを見て、怪訝に思ったのだが、その場を覆う悲壮で沈痛な空気を察し、黙って遠くから見守ることに、徹したのだった。
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