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廃村の復旧が、どれぐらいの日数掛かりそうなのか、誰にも分からなかった。オットーは勿論、騎兵隊の隊長も、その部下たちも、頭を振った。数週間か、数カ月か――いずれにせよ、長くかかることは間違いなかった。
まずは清掃から始め、それからインフラの修理、ないしは整備をする。水資源を確保し、補給隊の持ってきた糧食を食いつぶす前に、どういう食材が近場で手に入れられるのかを、周辺の生態系の調査に基づいて決める。水場があれば魚が獲れるし、野生の草食動物の縄張りがあれば、屠殺して食肉に出来る。野菜は畑で耕せるが、その前に土壌を整え、灌漑を行わないといけない。
バルビタールはちょっとした領土争いをやって、完勝した後で、勢いがあり、外部へ進出する余裕があったし、意欲もあった。もしも大都市が負けていれば、この廃村は見捨てられ、幽霊か、蛮族などの住処になってしまっていたかも知れない。
夜が訪れ、暗くなり、たいまつに火が燃えていた。
夜も遅くまで、村の復旧作業は続いた。搔き集めたゴミを集積し、ちょっとした山が出来た、
キャンプファイアーが焚かれ、木造の家の破片などは、好んで薪に使われた。
ようやく区切りが付いて、騎兵たちがラフな格好でキャンプファイアーの周りに集まり、ほとんど皆、お酒に酔って、放歌高吟したり、大笑いを上げたりし、気持ちよくなっていた。中には飲み過ぎてもどす者もいて、ひどいものだった。
決して遊びなどで来たのではないのに、わざわざお酒を街から箱詰めで持ってきたらしく、彼らにしてみれば、こういう慰み物がないと、動機付けに乏しく、仕事に精を出せないようだ。
中には体質からか、あるいは勤勉なタチからか、一滴も飲まない者がいて、彼らは、のんべえたちを反面教師とでもするように、ちゃんとした装備を纏って、村の警備に務めていた。
薪が幾重にも組まれた焚火の火花が、星空へ舞い上がる。
「ねぇ」、とリーザ。オットーに話しかけるようだった。「気になることがあるんだけど」
「はぁ、何でしょう」
彼女はオットーと並んで、騎兵たちのバカ騒ぎから一定の距離を置き、ある家屋の壁に背を持たせて座っていた。キャンプファイアーの灯影が、彼らの正面を明々と照らしていた。二人共、目を伏せる感じで、どこか上の空のようだった。
「コンラートは、わたしの家の執事だったんだけど、彼は、わたしといっしょに、城下町へと長い道のりを行ったのね」
「郵便馬車か何かにお乗りになって、ですか?」
「ううん。うちの馬車を使って。馭者はコンラート」
「その馬車は?」
「知らない」
オットーは、何となく心当たりがある気がしたが、ひょっとしたら違うかも知れないというおそれが拭い切れず、特にコメントはしなかった。
「その旅にね」、とリーザ。「わたしと、コンラートと、もう二人いたの。フリッツと、ブルーノっていうんだけど」
「どういうお方ですか?」
「旅人で、たまたまギルドでエスコートを募ったら、応募して来たの。フリッツは子供で、十二歳だったかしら。ブルーノは、大人で、年は、多分、二十代だと思うんだけど、はっきりとは分かんない。要するに、なんだけど――」
リーザは、自分を城下町まで送った後、コンラートと、フリッツと、ブルーノの三人が、揃って帰ったという話をし、コンラートが暴漢か何かに襲われる形で亡くなっているのなら、他の二人も、ひどい目に遭っている可能性が高いという推測を述べた。
「ぼくが思うに」、とオットー。「三人で帰り道に付き、その一人だけが遺体となって見つかったということは、他の二人は、途中で別々に別れたのではないでしょうか」
「だと、いいんだけど……」
焚火の周りの喧噪が聞こえる。誰かが奇声を上げ、誰かが大笑いし、誰かが手を叩いている。騎兵たちは、元気いっぱいだ。
だが、リーザは疲れていた。オットーも、彼女ほどではないが、疲れ、目蓋が、段々と重たく瞳の上に被さってきた。
二人とも、並んで座り、炎の影に染まって、頭をすっかり垂れて、昏昏と居眠りを始めてしまった。
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