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騒々しい夜が明け、多くの騎兵が二日酔いで目覚めた。
頭痛がし、目まいもする彼らは、広場に呼び集められ、整列し、点呼を行った。
隊長を始めとして、勤勉実直な者が、シャンと背筋を伸ばしている一方で、ゆうべしたたかに飲んだ者は、猫背になり気味だったり、目付きが淀んでいたりし、早い話、たるんでいた。
彼らの様子を遠くから見るともなしに見ているオットーとリーザは、結局、しばらく村に留まることにした。今回の事件の謎の幾らかが、解明する可能性があったからである。
「ちょっと遠いですが、町があります」、とオットーが、この村に来る直前に寄った人里を指して、隊長に言った。「ここで生活を営むに当たって、必要とするものがあれば、全部とは保証できませんが、ある程度は揃えることが出来るでしょう」
朝礼が終わった後の隙を狙って、オットーは話しかけた。どういう規模の町で、何が商品として取り扱われているか、等々、簡潔に説明した。
隊長は地図を持っている、誘導係の者を呼び寄せ、地図を開かせて位置を確認すると、軽く感謝を述べ、参考にすると答えた。
オットーとリーザは騎兵隊の糧食を分けてもらうことで朝食にし、その後、突っ立って、村の復旧作業に取り組む兵士たちの姿を見学し、家の建築や、田畑の灌漑や、ごみの清掃や、インフラの整備など、種々ある内で出来そうと思えるものを選び、拙いなりに、手伝った。
オットーは、体格が、走りを得意とする者らしく、すっきりと痩せていて、持久力はあるが、筋力や握力には長じていず、力仕事でないものしか出来そうになかった。
彼は清掃を選び、捨てるべきゴミとまだ使えるものを選別し、決まった場所に集めた。
彼においては、最後まで手伝うつもりはなく、取りあえず、付き合おうと思うだけ付き合って、後は城下町へ帰還する予定だった。
「お嬢様は、いいんですよ」、と彼は、彼と同様、力仕事を苦手とするため清掃を選び、彼といっしょになってゴミ拾いしているリーザに言った。
「あの隊長も、お嬢様にとっての不幸があったから、復旧作業を手伝わなくてもいいし、むしろ、何もせず静養するべきだと言っていました」
「フン」、とリーザはツンとした態度で、鼻で嘲笑した。
「荒れ地でちゃんとした静養なんて出来やしないわ。食べ物もまともに食べられないし、お風呂も入れないし、ベッドも荒れ放題だし……」
廃屋が並ぶ通りを行く彼女は、倒れているランタンを拾うと、要るもの用の袋に入れ、その後誰か女性が使っていてであろうヘアピンを拾い、じっと見つめて迷った後、要らないもの用の袋に入れた。
オットーが何となく呆れている一方で、彼女は、ふと、近くの家屋の、無残に傾いだ木の鎧戸を見た。その家屋は、やはり穴が空いていたり、傷が付いていたりしていた。
リーザの頭に、ふと、城下町の伯父夫婦の家が浮かんだ。そして、自分はいったい何をやっているのだろうという、呆れを含んだ疑問が、針のように彼女を刺した。
今頃城下町では、学校が始まって、わたしが行くはずだった学校では、授業が行われ、将来を嘱望される有望な子供たちが、机について、聖書を朗読したり、古代文字の書き取りをしたりしていることだろう。
わたしは本当に、何をしているのだろう――。
学校へのイメージの後、叔父夫婦宅の狭いながらも住みよい屋根裏部屋を思い返し、その刹那、サッと切ない感情の波が、強勢に打ち寄せ、彼女は深いため息を吐いた。
集中してゴミ拾いをしているオットーは、彼女のため息に後ろを振り返り、じっと立ち止まって意気消沈する令嬢を見た。
少しでも早く城下町へ帰るのが、彼女にとっていいのではないか――彼は考えた。
早く帰って、悲運によって断絶してしまった、本来あるべきだった健やかで予定調和の生活と、じぶんを繋ぎ合わせられるようにしてあげるのが、こうして中途半端に廃村の復旧を手伝うより、ずっとよいのではないか。
考えていく内、オットーは、どうもリーザの、生殺与奪件というと大仰だが、彼女の生活の今後への展開の鍵を、じぶんが握っているという気がし、その気付きに、背筋が寒くなるようだった。
いくらリーザにおのれの進路を自由に決定する権利があるからといって、彼女の意に手放しで賛同し、彼女に、ただ彼女だけに任意の生活を送らせるのは、危ういのではないか。
何となれば、彼女はまだ子供に過ぎないのである。
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