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オットーは、身震いがした。ゴミ拾いがひと段落付いた後、彼はこれからのことについて思い余り、ブラブラ村の中を歩いていたのだが、はて、と不思議に思い、立ち止まった。腕には鳥肌がプツプツと立っている。
別に寒いこともないのに、どうしたというのだろう。
あるいは何かの兆しかも知れない。だが、吉兆か凶兆か、どちらだろう?
しばらく考えたが、オットーは首を左右に振り、非科学的思考を捨てた。
「どうしましたか? 首を振ったりして」
と、彼の挙動を不振がってひとりの騎兵が尋ねる。彼は工兵隊に属しているらしく、木材を運んでいる。
「あっ、大したことじゃないんです。ハハ」
オットーは苦笑いをこぼし、手のひらをもう大丈夫だとでもいうように前に出す。
「あのお嬢様は?」
騎兵は辺りをキョロキョロ見て尋ねる。
「あぁ、リーザ様は今、キャンプの方でお休みです」
「そうですか。まぁ、ああいう悲しいことがあったわけで、精神的に大なり小なり、ダメージを御受けになったでしょうね」
「えぇ。今回亡くなったのは、たいそうご愛着のあったひとらしいので、ショックだったと思います」
「我々のことはお構いにならないで、早くお嬢様の街へ帰られてはいかがですか? まさか最後まで手伝われるおつもりで?」
「ううん……」
オットーは答えに窮し、唸った。
「そうしたいところなんですが……」
騎兵は、どういう事情があるのかと、首を傾げた。
好天はしばらく続きそうで、秋に相応しい青い高空が広がっている。
あの馬と馬車だ、と、オットーは心中で呟いた。。
――あの馬と馬車が、どうも怪しい。聞けば、お嬢様が城下町へ行く時に、馬車を使ったとのこと。馭者は今回死亡した執事で、彼の遺体だけあって、彼の馬と馬車は行方不明。だが、あの掃除屋だと称する男が連れていた馬が、彼とあまりにも不釣り合いだった。懐いてもいないし、毛並みも、どう見ても上等で、経済力のない彼らがその辺の野生のものを捕まえて飼いならしているようにはあまり思えなかった。
彼らは、どこへ行ったのだろう?
帰るにしても、オットーにしてみれば、彼自身もそうだし、リーザも、心身共にくたびれて、徒歩で復路を行って帰るのは、拷問に近いものがあって気分的に受け付けられそうになかった。
馬と馬車があれば、飛躍的に移動が楽になる。もし使用出来るなら、使用しない手はない。
だが、どうやって取り返すことが出来るだろう。あるいはあの馬は――オットーは考えた――じぶんの思い違いで、本当に彼らの家畜であり、じぶんの言い分は、濡れ衣であり、取り返すという名目で強奪を正当化する格好となり、彼らをヘンに刺激するおそれがある。彼らは激昂し、暴力沙汰になるやも知れない。
けだし彼らが賊に過ぎず、戦闘に長けているわけではないにしろ、飛脚であるオットーは、例えば彼らと刃を交えることになったとすれば、不利であるどころか、一方的に捻じ伏せられるのは目に見えていた。彼はずっと荷物や手紙を送り届けることしかして来ず、例えば剣や槍を使って誰かと戦うなど、まったく経験のないことであった。
いいアイデアは閃かず、その代わりに、じぶんに都合のよいイメージが浮かぶばかりだった。例えば、こっそり馬が単独で放っておかれるという状況にたまたま出くわし、手綱を引いて連れてくる、というイメージなど……。
ハァ、と、飛脚の口から自嘲のため息が出た。
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