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木立の中、目が届くところに、馬がおり、馬車がある。静かに佇んでいる。
馬に関して、クロロは、エルが拾ったものと聞いた。上等の馬らしい。拾ったというのは妙だと彼は思い、だが、実相は何となく察せられる気がした。
村で運んだ死体の中に、馭者が混じっていたのだろう。あるいは、じぶんが運んだ老人がそうかも知れない、とクロロは思った。
馬は彼、クロロたち、賊のもとへ来てからというもの、ずっとしょんぼりしており、精彩を欠いている。
クロロには、見ていると、気の毒になってくるようだった。
「クロロ~。どこだ~?」
誰かが呼んでいる。
サラサラのミドルヘアーで、瞳の大きいことと、子供らしく背丈の小さいことが特徴のクロロは、ハッとすると、木陰から出ていった。
呼んだのはエルだった。エルは並みの背丈で、やや太り気味で、目付きが賊らしく悪く、髪は長く、後ろでまとめている。着ているのはもちろん、ボロだった。エルを始め、クロロも、賊の衣服はあまねく粗末だった。
「わっ!」と、エルはびっくりしてサッと退いたが、クロロだと分かると、呆れたようにため息を吐き、「急に出てくるなよ」、と注意した。
彼はクロロを見下ろし、「またひとりで隠れてたんだな」、と言った。
クロロはシュンと俯いて何も答えなかった。
「どうして仲間から離れる?」
「前も言ったでしょう」、とクロロは、これが初めてではない旨を含んで言う。「ぼく、チビだから、みんな馬鹿にしてくるんだ。チビで、仕事もロクに出来ないから」
「だから、聞き流せって言ったろう。女じゃないんだから、いちいちひとの言うことで機嫌を悪くするんじゃない。まして、お前は賊だろう。図太くなけりゃ、何も出来やしないぜ。何だったら仕事で活躍して仲間を見返してやるくらいの勢いがないと」
「無理だ。やめたい。やめたいよ……」
クロロは膝を抱える。
「やめたきゃ、やめろ。俺は止めない。だが、ひとりぼっちになるぜ」
クロロは眉を顰め、不快感を露わにする。自由がないことを否応なく突きつけられることへの、反感であり、悲しみであり、憤りであった。
「さぁ、戻ってこい。これからちょっと話し合いをするんだ」
エルはクロロに手を差し伸べ、クロロはその手を取り、立ち上がる。
「話し合い?」
「あぁ、どうにかして、アイツらに一泡吹かせられないかと思うんだよ」
二人は共に歩き出し、仲間の集まる割と広めの木陰へと向かう。
「あの騎士どものことだ。いけ好かない連中だぜ、まったく」
「……。」
クロロは唇をキッと結ぶエルの渋面を見上げ、彼が、劣等感を持っていることを見て取った。
仕返しがしたいのだろうが、やめておけばいいのに、と思った。クロロはいつも、賊の仕事、賊がする、荒っぽいことが苦手だった。だのに彼が賊の一味になったのは、ひとえにエルと縁があったからに過ぎず、それ以上の理由はないのだった。
卑しい連中が集まっている。下品な話をしたり、草の上に横になって肘を突いてよだれを垂らしていたり、バカバカしい面持ちで鼻クソをほじったりしている。
クロロは、彼らがあまり好きではなかったが、仲間であることに違いはなく、ある程度、意思疎通をはかることは必至で、だが、いちばん末の子分である彼はいつも、下手に出ないといけず、居心地が悪かった。
「お前も」、とエルは振り返り言う。「何かいい案を考えてくれよ」
馬は相も変わらず、しょんぼりしている。
クロロは、何となく、馬に対し、共感を覚える気がしてくるのだった。
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