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話し合いとはいうものの、その実はエルのスピーチ同然であり、彼が勇ましい、というよりは、むしろ怨恨を込めた苦々しい口調で、騎兵隊をあっと言わせる妄想めいた現実味のない作戦を口にし、しかし聴衆は、もはや馬の耳に念仏という具合で、何とも意義のない時間なのであった。
クロロは片隅で膝を抱いて座り、じっと耳を傾けていたが、エルの主張に同調することもなければ、反対することもなく、終始押し黙って、彼の険しい表情を見つめ、たまに目が合った気がすると、間が悪くなり、プイと逸らすのだった。
無理無理、ぜったい無理だって、相手は正規の兵隊だぜ?――
おれらが歯向かっても、返り討ちに遭うに決まってらぁ――
またエルのやっかみが始まった。ここまで来りゃ、もう病気だなぁ――
直接表明するのではなく、独り言めかして、誰も彼も、賊の仲間は、それぞれエルを嘲弄する言葉をこぼした。
クロロは傍にいて、団結力のかけらもないのに、よく今まで存続しているものだと、半ば呆れ、半ば感心した。
――だが、実際のところ、賊の成員は、しょっちゅう誰かが加入し、また誰かが離脱していて、長く付き合っている者といえば、クロロの他は、ほとんどいないのだった。
絆の繋がりの弱い集いであり、不安定であり、だけど、門戸は常に開かれていて、来る者も去る者も拒まず、そして出入りする者といえば、やはりというべきか、決まって、誠実でもなければ温順でもない、見下げたろくでなしが大半で、しかし稀に、込み入った事情で故郷を逐われるなどした悲運の者が、やぶれかぶれで加入を申し込んでくることも、ないではなかった。
話し合いは終わり、一同は解散した。
取りあえず、エルがひとりでどうするか考え、その考えがまとまり次第、また成員を呼集し、簡単に説明するということのようだった。
ある者は木立を出、近くをブラブラし、ある者はその辺でまとまっておしゃべりと共に雑魚寝した。
「エル」、とクロロ。
エルはあぐらを組んで腕組みし、黙然と沈思黙考中だ。
「ぼく、釣りに行ってくるよ」
「あぁ、勝手にしろ。だがあんまり遠くへ行くなよ。迷子になっても知らねえぞ」
「大丈夫さ」、とクロロは答える。「近くに木橋の架かった池があるんだ」
クロロはそう言い残すと去り、木々の間を小走りで抜けていった。
しばらくいくと、鬱蒼とした中に、確かにややアーチになっている木製の小橋があった。
しかし、相当老朽化しており、ある部分は割れ、ある部分は長年雨などの水分に触れることで腐り、渡るのは危ぶまれた。
クロロは、何となく、橋があることから、人里を連想した。古い橋で、しかも、改修されるなどした形跡がないので、よしんば人里があるにしても、多分、無人で、廃れているのだろう、と想像した。
彼は木橋を渡らずに手前で折れ、下の池の水辺まで、草がボウボウの斜面を慎重に下りていった。草地はやがて
クロロにとって、釣りは、心を落ち着ける手段であり、趣味であった。獲物が釣れる、釣れないに関わらず、彼は釣りという行為を愛好し、ヒマがあれば、釣りに赴くのだった。釣り糸をちょっと引っ張ることで生じる水面の波紋を見つめ、何とはなしに、微かにドキドキし、やがて凪ぐと、何かホッと気分が安らぐのだった。
クロロが微笑みと共に釣りをやり出してしばらくすると、彼はハッとし、あるいは逃げ出すべきかとビクビクした。
彼は池の向こうの木立に、人影を見たのだった。人影は通りかかり、一瞬クロロの方を見ると、消えた。人影がクロロを視認したかどうか、分からない。
スラリとして軽装で、男で――エルくらいの若い男で、見覚えがあった。
「あっ……」
クロロははっきり思い出した。
あの男を見たのは、あの村であった。
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