さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第127話

***

 

 

 

 話し合いとはいうものの、その実はエルのスピーチ同然であり、彼が勇ましい、というよりは、むしろ怨恨を込めた苦々しい口調で、騎兵隊をあっと言わせる妄想めいた現実味のない作戦を口にし、しかし聴衆は、もはや馬の耳に念仏という具合で、何とも意義のない時間なのであった。

 

 クロロは片隅で膝を抱いて座り、じっと耳を傾けていたが、エルの主張に同調することもなければ、反対することもなく、終始押し黙って、彼の険しい表情を見つめ、たまに目が合った気がすると、間が悪くなり、プイと逸らすのだった。

 

 無理無理、ぜったい無理だって、相手は正規の兵隊だぜ?――

 

 おれらが歯向かっても、返り討ちに遭うに決まってらぁ――

 

 またエルのやっかみが始まった。ここまで来りゃ、もう病気だなぁ――

 

 直接表明するのではなく、独り言めかして、誰も彼も、賊の仲間は、それぞれエルを嘲弄する言葉をこぼした。

 

 クロロは傍にいて、団結力のかけらもないのに、よく今まで存続しているものだと、半ば呆れ、半ば感心した。

 

 ――だが、実際のところ、賊の成員は、しょっちゅう誰かが加入し、また誰かが離脱していて、長く付き合っている者といえば、クロロの他は、ほとんどいないのだった。

 

 絆の繋がりの弱い集いであり、不安定であり、だけど、門戸は常に開かれていて、来る者も去る者も拒まず、そして出入りする者といえば、やはりというべきか、決まって、誠実でもなければ温順でもない、見下げたろくでなしが大半で、しかし稀に、込み入った事情で故郷を逐われるなどした悲運の者が、やぶれかぶれで加入を申し込んでくることも、ないではなかった。

 

 話し合いは終わり、一同は解散した。

 

 取りあえず、エルがひとりでどうするか考え、その考えがまとまり次第、また成員を呼集し、簡単に説明するということのようだった。

 

 

 

 ある者は木立を出、近くをブラブラし、ある者はその辺でまとまっておしゃべりと共に雑魚寝した。

 

「エル」、とクロロ。

 

 エルはあぐらを組んで腕組みし、黙然と沈思黙考中だ。

 

「ぼく、釣りに行ってくるよ」

 

「あぁ、勝手にしろ。だがあんまり遠くへ行くなよ。迷子になっても知らねえぞ」

 

「大丈夫さ」、とクロロは答える。「近くに木橋の架かった池があるんだ」

 

 クロロはそう言い残すと去り、木々の間を小走りで抜けていった。

 

 しばらくいくと、鬱蒼とした中に、確かにややアーチになっている木製の小橋があった。

 

 しかし、相当老朽化しており、ある部分は割れ、ある部分は長年雨などの水分に触れることで腐り、渡るのは危ぶまれた。

 

 クロロは、何となく、橋があることから、人里を連想した。古い橋で、しかも、改修されるなどした形跡がないので、よしんば人里があるにしても、多分、無人で、廃れているのだろう、と想像した。

 

 彼は木橋を渡らずに手前で折れ、下の池の水辺まで、草がボウボウの斜面を慎重に下りていった。草地はやがて泥濘(ぬかるみ)になり、そこではしかしまだ浅瀬で、また淀んでいるので、足首が浸かるほど池に入ると、しゃがみ、すり切れたズボンのポケットより糸と、餌になると思われる、干からびた木の実や芋虫の死骸などを出し、糸の片方に指を、反対に餌を括り付け、水中へと垂らした。遠目に、小魚の遊泳するその背中が木漏れ日を反射するのがうっすらと見え、あわよくば、釣り糸に寄ってくるだろうという見込みが持てた。

 

 クロロにとって、釣りは、心を落ち着ける手段であり、趣味であった。獲物が釣れる、釣れないに関わらず、彼は釣りという行為を愛好し、ヒマがあれば、釣りに赴くのだった。釣り糸をちょっと引っ張ることで生じる水面の波紋を見つめ、何とはなしに、微かにドキドキし、やがて凪ぐと、何かホッと気分が安らぐのだった。

 

 クロロが微笑みと共に釣りをやり出してしばらくすると、彼はハッとし、あるいは逃げ出すべきかとビクビクした。

 

 彼は池の向こうの木立に、人影を見たのだった。人影は通りかかり、一瞬クロロの方を見ると、消えた。人影がクロロを視認したかどうか、分からない。

 

 スラリとして軽装で、男で――エルくらいの若い男で、見覚えがあった。

 

「あっ……」

 

 クロロははっきり思い出した。

 

 あの男を見たのは、あの村であった。

 

 

 

***

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