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せっかく偶然手に入れることの出来た駿馬を、賊らは、ちょっとのスキに奪われ、(とはいえ、元々彼らのものではなかったが)結局、逃してしまった。
木々の狭い間を、馬は器用に駆け抜けた。
跡には、馬が曳いていた馬車が、残っているばかりだった。
木立の薄暗がりを男のしがみつく馬が脱出してしまうのを惜しい気持ちで見送ると、エルはもう無理だと追走を断念し、立ち止まり、忌々しそうに地団駄を踏んだ。
「ちくしょう、覚えてろ」と、エルは呪った。
仲間たちは腕組みしてやれやれという風に肩で息をしている。
遅れてやって来た小さなクロロは、すぐさま状況を察知し、エルの悔しい心境を推し量った。
「馬はもういいじゃねえか」、とひとりがエルの肩に手を置いて諭すように言った。「馬より、今日のメシだ。もう手持ちのものは平らげちまったぜ」
エルは舌打ちし、「あぁ」、と呟くように答えた。
ご飯か、とクロロは寂しく思った。
もしあの池で何か釣り上げることが出来ていたら、このタイミングで揚々と発言していただろうが、収穫はなしだったので、クロロは一同とむなしい気詰まりな雰囲気を共にした。
時間は夕を目前としていた。
薄暗い中、賊らは食べられる草や木の実を探した。
目的を共有する集団を成しているのであれば、その成員である個人は、集団のために、つまり公共のために仕事をするべきであり、この場合、賊の者らは、それぞれ皆で分け合うことを想定して、食べ物を探すべきなのであるが、集まっている者の大半が一癖も二癖もあるため、誰も彼も、個人プレーに終始した。
ひとより多く食べられた者は満足し、腹の虫が泣きっぱなしの者は、涙を飲んでひもじい夜を明かした。
士気が高ければ、人里に侵入して空き巣なり強盗なりしたが、時間が遅く、何より士気が低かった。
エルは木の蜜を嘗めるだけで満足しないといけなかった。クロロはまずい木の実を二、三個食べて足りない分は我慢した。
エルは仲間たちを集め、ある企てを口にした。彼いわく、夜が更けたら、あの村に再び行って、夜襲を図るとのことだった。
「奴らの金品を奪うことが第一目的だが、可能なら、加えて、村の復興を邪魔してやれ。何、またゴミや木片を散らかしてやればいいだけさ」
「だけど」、とひとりが、納得しない風に口を挟む。「騎兵たちは、必ず夜警を村の出入口に配備しますぜ。村に入るには、夜警を出し抜かないと」
「あぁ。オレが排除する。暗闇に紛れて喉笛を掻き切ってやる」
そうエルは得意げに言い、小型ナイフをポケットより取り出し、目前に構え、不敵に笑む。
ずいぶん使い古したナイフだが、何度も研ぎ直して使い続けている彼愛用のナイフだ。樹幹の切り込みを入れて蜜を採集する時にも使うが、切れ味がよいので、人殺しにも用立てられる。
ため息を吐き出したいクロロだったが、エルを恐れ、嚙み殺した。また危なっかしい真似をするのだ、と彼はうんざりし、胸が塞がるようだった。
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