***
食堂というか、宿屋に併設された居酒屋で、ぼくとブルーノは夜食を食べた。サラダにステーキにフルーツ。よりどりみどりで、普段ろくなものを口にしないぼくは、これを好機と旺盛に食べた。
ブルーノの奢りだが、遠慮するなといつも言ってくれる。たまのごちそうだからということらしい。太っ腹で、そういうところは好きだ。だが、酒が入ると、荒い気性が出ることが多く、そうなるとぼくはすごすごと威圧されてしまう。
ごちそうの時は必ずブルーノは酒を飲むことにしている。それも鯨飲で、ある時は嘔吐するし、前後不覚の東西を弁ぜずという感じになるし、とにかくひどいものだ。
今夜もきっと手に負えない酒豪になるに違いない。ぼくは腹を満たすと早々にお礼を言って先に部屋に帰ると告げて居酒屋を後にした。
「ご馳走様でした」
「何」、と向かいの席のブルーノが、据わった目付きで睨むように見てくる。「もう帰るのか」
「うん。お腹いっぱい」
「そうか」
木のジョッキに満たされた泡の立つ飲み物を呷るように飲むと、彼は汚いゲップを出す。周りには顔をしかめるひとがいる。
「おやすみ」
ぼくは何だか居心地が悪く、「おやすみ」と返すと、そそくさと立ち去った。
活況の居酒屋。上機嫌なひとが陽気に踊り、相思相愛の野暮ったいカップルが、衆人環視も気にせず接吻する。にぎやかというよりはほとんど騒がしい。耳が痛くなるほどだ。農村の宿の居酒屋なので、農民が大半だが、中には武具を装備した戦士がいたり、職人がいたりする。ウェイターとウェイトレスは接客と食べ物の運搬にてんてこまいで、奥の厨房も、思うに大忙しだろう。
階段を上り、燭台を持ってぼくらのベッドがある部屋を探し、戻る。
燭台の火を、ベッドのそばのナイトテーブルの燭台に移す。
ポッと、灯影が暗闇に浮かび上がる。見つめていると、心なしか安らぎを覚える真っ赤な揺らめき。
ベッドに背中から倒れ込む。ふわっとクッションの反発を感じる。頭の後ろで腕組みし、ぼんやりと微かに見える天井を、見るともなしに見る。
……普段はクールな彼、ブルーノだけど、お酒が入ると、よくもああ変わるものだ。
しみじみとぼくはそう思う。
彼との出会いは、ぼくの母の死まで遡る。でも実は、母が亡くなる前にぼくらは顔を合わせたことがあるのだ。
風呂屋へ行った時、話しかけてきたあの男。ぼくの病気を疑い、流行り病の噂を教えた彼が、ブルーノだったのだ。
どうしてぼくが彼と共に旅をすることになったのかというと、母の死の後、ちょっとしたことがあったのだ。
そう、ちょっとしたことが……。