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フクロウの声がホーホーと聞こえる。風が吹くと、木の葉が互いに擦れ合うカサカサという音が鳴る。時折見える野良猫は、目を鋭く光らせて、かよわい小動物を狩ろうとチョロチョロ走り回っている。
夜が更けた。明月の夜だった。月の周りには虹色に照る暈がかかっている。
昼日中は木立の深い陰に隠れていた賊たちが、夜の中にうっすらと滲むように、現れる。
「頃合いだ」、と腕組みして堂々たる佇まいのエルが言う。
彼を中心に仲間がゾロゾロと群がっているが、彼を除いて他の者は、総じて眠そうだった。彼らはあくびを噛み殺し、目に涙をためた。
隅っこにいる小さなクロロも、例外ではなく、彼も眠そうに目をこすっている。
エルたちからの視点では、遠目に、灯火が見える。村のたいまつの火だ。
賊たちのもとに、人影が現れる。
「ただいま戻りやした」
彼は、仲間のひとりで、先に様子を窺ってきたようだ。
「ご苦労。で、村の警備はどういう感じだ?」
「はぁ。エルさんのおっしゃる通り、夜警が出入口に出張っていやす。更に加えて、村の周囲を、複数が巡回中」
「ふむ」、とエルは顎に手を添えて考える様子になる。
「けっこう手堅く見張っているようだが、まぁ、スキを窺って奇襲しよう。タイミングを見て、おれがまず行く。お前らはおれの動き次第で後に続け、首尾よく夜警をとっちめられれば、侵入して、逆に失敗したなら、諦めて森へ帰れ」
エルの言葉に、一同は同意して頷いた。
エルはポケットナイフを手に持ち、「さて」、と冷静に呟くと、指先にピッと浅く切り込みを入れた。
クロロはびっくりし、「何するんだよ、エル」、と問うた。
「こうすると」、とエルは依然、冷静に答える。「頭が冴えるんだよ。お前ら、全員眠そうにしてるが、俺だって同じなんだ。だから、こうやってちょっと傷を付けて、その痛みで頭が回るようにするんだ」
「……。」
クロロは何も言わなかった。
エルは流れ出す血を舐め、やがて止まると、「じゃ、行ってくる」、と残し、夜の平原へと消えた。
「どうする?」、とひとりが呟いた。「誰が、エルさんの後を追う?」
彼の行動の出来如何で、以後のことが決まるわけで、彼を見届ける役が必要だった。が、進んで手を挙げるものは絶えてなく、誰も彼も、他人がやってくれることを願い、じぶんはオロオロと立場を曖昧にして当惑するだけだった。
「じゃあ」、と誰かが言った。かぼそい声だった。
みんなは、最初誰の声か分からず、キョロキョロと辺りを見回したが、やがて当人が挙手すると、一斉に視線を彼に注いだ。
クロロが、手を挙げている。が、手の挙げ方が、ダランと開いた手のひらを半端に挙げているので、どこか遠慮がちに見えるのだった。
だが、進んで引き受けようという態度を示したのは、クロロひとりだけだった。
「お前、だいじょうぶか? お前みたいなチビが行っても――」
そう言いかけた男の口を、別の男が慌てて手で塞いだ。
「まぁまぁ。いいじゃねえか。せっかく積極的になってるんだし。任せてやろうぜ」
男は手を離し、塞がれた口のあいた男は、ちょっと呼吸を整えたものの、言いかけたセリフを紡がずに飲み込み、「そうだな」、と言った。
クロロには、特にやる気があるわけではない。ただ単純に、エルのことが心配だったのだ。
月影の明るい夜だった。まるで笑むように、月明かりは、朗らかだった。
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