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その部屋は、こういう風だった。
中央に大きな円卓があり、その周りをずらりと椅子が囲っている。
円卓には、なめらかな手触りで光沢のある真紅のビロードが掛けられ、椅子すべても、同じ生地をクッションに用いており、脚も背板もひじ掛けも頑丈で、上等な作りとなっている。
「ふむ……」
椅子の中に、ひときわ上等そうな、クッションが広く、背板も高い椅子があった。
ある男が、その椅子に腰を下ろし、卓上に両肘を突き、前屈み気味に、組んだ両手で口を塞ぐ恰好で、目前の一点を見つめ、思案している。
真っ赤なローブを纏い、異彩を放つ彼は、バルビタールの国王、オリバーだった。そして彼に連なって円卓に付いている者らは、宰相であり、大臣であり、将軍であり、とどのつまり、王が信を置き、重用する側近たちであった。
側近たちは、じっと王の発言を待っていたが、やがて、しびれを切らした将軍が、口火を切った。
「殿下、この前来訪した客人に関するお話と推測致しますが」
「あぁ、その通りだ」
王は肯定し、背をピンと伸ばして、色を正した。
「一体誰だったのです?」、と大臣。「謁見をお許しになったということは、さぞ、やんごとない身分のお方と存じますが」
「わたしも」、と将軍が大臣の話に加入する。「よく存じ上げないのだが、誰かこの中に知っている者はいるか?」
将軍の言で、側近たちは小声でささやきながら、キョロキョロと辺りを見回したが、応えるものはいなかった。
「いや」、と王が手を上げ、ざわついた席を静める。「わたしと側仕えだけだ、知っているのは。どう説明すればいいのかわたしにも分からないのだが、相手は、ヨハネスという名で、宗教騎士団を統べる
「宗教騎士団? 巡礼にでも来たのですか?」、と大臣。
「巡礼ではなかった。取引したい、と、そういう事情でやって来た。まず書面にて挨拶があったのだが、バルビタールと連盟を結びたいという話だ。つまり、我々の常備軍の戦力に加わりたいということだ」
「それは、降って湧いたような話ですな。何の脈絡もなく……」
「文面には、バルビタールの国力を強大と見て、その力にあやかりたいというようなことが書いてあったが」
王の補佐である宰相は、初めからずっと、沈黙を守り、腕組みして瞑目し、聞き役に徹していた。
「成るほど」、と将軍。「まぁ、各領地間にはそれぞれ力の関係がありますからね、じぶんの領地の周りに敵対する勢力が押し寄せて来、将来が危ぶまれるといった状況があれば、新たに連盟を結ぼうという気になるのは、何も不審がる必要はありませんね」
「まぁ、確かに」、と大臣が納得したように言う。「しかし殿下、宗教騎士団とおっしゃりましたが、ちなみに宗派などは?」
「それが問題なのだ」、と王は悩ましいという風に言う。「どうも聞くところによると、新興宗教らしいのだ。今回の連盟の件も、彼らの布教活動も兼ねてという話だ。拠点という拠点もなく、各地に点在しているようなのだ」
「何だかきな臭くなってきましたね」、と大臣。「どういう信仰をしているか存じませんが、我々が尊ぶのと同等の倫理や道徳への意識を持っていてもらいたいものです」
「今回の連盟の話は、バルビタールの宗教人と施設と信徒の管理を移譲することと引き換えなのだ」
「身元不詳ではないですが、何を信じて生きているか分からない者らなどとは、安易にいっしょにならないのがよいかと思われますが」
大臣のその発言に、宰相を除く側近らは、暗々裏に同意し、王の返答を待った。正体不明の集団が味方としてやってくるというのは、側近らに、居心地が悪くなるに違いないことを予断させた。
「大臣よ」、と王が、諭すように呼び掛ける。「たとえ信仰している宗教が明確であっても、ひとの心など見抜けないものだ。わたしはその点を危ぶもうとは思わないことにした。取引に対しては、ただ実利だけを重視して考慮し、同意することにしようと考えている」
「殿下」、と宰相が目を開き、発する。
他の側近らは、ずっと黙っていた者が何を発言するのかと、関心を持って耳を傾けた。
「彼らが我々の実利となるか否かは分かりません。戦争に出てみなければその力のほどは判断出来ません。ですが、我が国の力は緩やかに衰微の道を辿っています。がめつい市民らは商売と金儲けにかまけて有事をまったく考えない。近年は兵士の頭数が年を追う毎に減っており、兵士の平均年齢も上がる傾向にある。正規の兵士を増員するのが難しいなら、外部から調達してくるしかない。そういうわけで、わたしは殿下のお考えに賛同致します」
――多数決でことの可否を決するなら、今回の王の取引は、いったん取りやめになった可能性は高い。
だが、宰相の発言の後、それまで賛意と反意の対立でもつれていたようだった空気は、平滑になり、王と、政治において王の次にくらいの高い宰相の意思が優先されることになった。側近らは半信半疑であったが、しぶしぶ了承した。
もしも、市民の日々の活動が軍と密接なもので、商売と戦争が同等の必要性をもって認識されている情勢であれば、今回のような話は、反発を買うことを避けることは出来ず、政情は乱れただろう。
だが、戦争は商売の邪魔としか思わなくなったバルビタールの多くの市民にしてみれば、外部の戦闘員が、じぶんたちの家族あるいはじぶん自身の代わりに戦ってくれることは、渡りに船で、むしろ歓迎すべき話なのであった。
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