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コンラートさんは、今は閑居に悠々と暮らす老人であるが、昔は狩人をやっていたらしく、ぼくは、彼の往年の話を、彼のもとで仕事をすることになった夜、聞いた。
コンラートさんの話は、ぼくの集中力が持続する時間をゆうに超えて長引き、やがてぼくが疲れて落ち着きがなくなってからも、終わることがなく、ようやく彼の口が閉じたのは、彼が眠くなってあくびした時だった。
はじめは適宜、相槌を打つなどして聞いていた長話が、苦痛になり、ぼくは何となくそわそわして、相槌もいい加減になり、いらいらもしたが、話を黙って聞くことも仕事なのだとじぶんに言い聞かせ、受忍した。
コンラートさんの家は、村のある一角にポツンと建っており、丸太で出来ていた。聞けば、村の職人に建ててもらったということだった。ところどころ蔦が巻き付いていたり、削れていたり、白腐れしかけていたりして、この木の家が経てきた年数をしみじみと偲ばせた。
老弱のにんげんがひとりで――期間は分からないが――住んでいた家の中は、やはり、整然としているというわけにはいかず、けっこう雑然と散らかっていた。抜け毛があちこちにあり、ベッドのシーツもかけ布団もしわしわに乱れ、何が原因か、黒っぽいシミがあちこちに付いており、このベッドで寝ることを想像すると、野宿とどっこいどっこいという感じを覚えるのだった。昔狩人だった頃使っていたという、古びた弓が、壁に飾られていたりもした。
ぼくは、まずは掃除しようと思い付き、その日のお昼頃、簡単に家のこと、例えば、食器がどこにあって、掃除用具として何があるかなどの話を、彼が愛惜する珍品の紹介などの話に逸脱したりしながら聞いた後、申し述べた。
コンラートさんはよろしく頼むと言い、ベッドに、大儀そうに、腰を下ろした。
ぼくは、葉巻の吸い殻の散乱する微かに煙たい部屋において、とりあえず落ちているゴミを拾うところから始めた。
床には吸い殻を始め、石ころ、靴下、破れた衣類……様々なものが落ちて渾然と散らばっており、まだ使えそうに見えるものは、捨てずにまとめておくようにした。
「悪いね。助かるよ」、とコンラートさん。
「とんでもない。仕事ですから」、とぼく。
「あのお嬢ちゃんは、どうしているんだい?」
「ミアは、パン屋さんに行きました」
「あぁ、そうか。わたしも度々行くが、いい店だよ。主人が女性で、ちょっと変わっているが、実にうまいパンを焼く」
「そうですね。仲間から聞きましたが、元々あのひとは、山籠もりか何かしていたそうで」
「ずっと昔、そうだったと聞く。だが、幼い頃に、山を出て、こちらの世界――というと妙だが――要するに、山に住んで原始的に生きることをやめ、山を下り、平地へと、文明の中へと移ったという」
「そうなんですか?」
「あぁ、詳しいことは知らないが、色々と身の回りであったそうだ。本人の口が重いから、よほど込み入った要因があるのだろう」
パン屋の主人について、あまりつぶさには知れなかったが、何か興味深い事情がありそうだという気配がした。だが、その事情をつまびらかにするには、ぼくはちょっと忙しかったし、ミアのことが心配だった。
無事に、雇ってもらえるといいのだが……。
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