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傷だらけのブルーノをとりあえず落ち着かせる居場所が必要だった。ずっと牛車の荷台の上では、治る傷も治らないだろう。
メルさんの店は、すでにミアの居住空間で一杯であり、彼女は渋い顔をした。コンラートさんの家も、事情はあまり変わらなかった。
しかし、後から気になって遅れてやって来たコンラートさんが、事情を鋭敏に察知してくれ、とにかく家に入れて安静にするよう言ったので、薬師は牛車を村の一隅の丸太の家に移した。
屋内を片付けてスペースを作り、男たちが力を合わせ、ブルーノをゆっくりと床に横たえた。
外は明るみだしている。黄金の太陽が目覚ましい光輝を放っているが、ぼくの心はもちろんそうだったが、ぼくだけでなく、他の皆の心も、晴れやかではなかっただろう。
ぼくは、ミアとメルさんに、ぼくがブルーノの様子をしばらく注意深く見張っていると言うと、彼女らに、帰ってもよいことをほのめかした。
メルさんはその意を汲み取ってくれ、いつでも用があれば遠慮せず訪ねてくるよう言い残し、ミアを連れて帰っていった。出ていく時、ミアは、心配が治まらないという風にいつまでもブルーノを振り返り、見ていた。
それから、ぼくはじっとブルーノのそばに付き、正座してその容態を見下ろしていた。
コンラートさんが朝ごはんを食べるように促したが、何も喉を通る気がしなかったので、断った。
いったい何があったのかと、心の中で問い続けていた。その答えは、もちろんブルーノが知っているのだが、彼はずっと目を閉じて、深い呼吸を繰り返しているばかりだった。
「この方は」、と、ぼくと同様、ブルーノの枕頭にいてその状態を見張っている薬師が言った。
「あなたのお兄様ですか?」
「いえ」、とぼく。「兄弟ではないんです。血も繋がっていなくて、道連れ、とでも言いましょうか」
「成るほど。縁があって、いっしょになったわけですね」
「えぇ。話すと長くなるので端折りますけど、ぼくも、ブルーノも、親がいなくて、お互いに孤児だったんです」
そう、特に悲しみも込めず語ると、薬師は、「そうですか」と、どこかしみじみとした様子でゆっくりと頷いた。
会話はそこで途切れ、ぼくも、薬師も、黙然と傷付いたブルーノの苦しみに染まった寝顔を見下ろした。
ふと、胸の奥の方に、筋肉がギュッと縮むかのような痛みを感じた。息が刹那、止まった。
そして、ぼくは、この状況に既視感を覚える気がした。
この世界の裏側が、口を小さく開けている。その隙間を通って、冷たい風がピュウピュウ吹いて通り、ぼくをゾクゾクさせる。
あの時閃いた悲しい予感は、的中することになった。母のことだ。流行性の病に罹り、死んだ。
もしも――もしもブルーノが、病死であれ、衰弱死であれ、息絶えることとなったら、ぼくはまた、一人ぼっちだ。
ぼくは、その内、傷付いたブルーノの寝顔に目を向けながら、瞳は逆方向に転じ、みずからの内面を見るようになった。
胸がドキドキして熱っぽくなる感覚にフラフラとめまいを覚えて、ぼくは、どうやって孤独に生き延びていこうかという考えを無闇に弄び、想像の中で、果てしない荒野を延々とさまよった。
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