***
負傷したブルーノのもとに、代わる代わる、村人が訪れた。彼の話は、すぐに村中に広まったらしい。
よその人里と山々で隔たったこういう寒村では、事件といった事件が珍しく、何か起こればたちまち村民の関心を買い、その口の端に上るのだった。
しかし村民は皆、物珍しがって見物に来、簡単に悔やみの言葉を述べるか、せいぜい差し入れをくれるだけで、親身になってくれるひとはいなかった。ただ好奇心に駆られただけに違いない人々の面白がる様子を見、しょせん他人に過ぎないと、ぼくは冷めた感想を持った。
時折、安静に目を瞑っているブルーノが、我に返ったように、眉をひそめ、苦しむことがある。
いちばんひどいと思われる右腕の深い切り傷は、時を経るごとに、化膿の程度が増している。
最初ちゃんと膿を除去したが、また悪化し始めていると、薬師は見るに見かねて、薬草を煎じた液を清潔な布に浸み込ませ、膿の出ている傷口を拭った。依然として生々しい傷口に、直接触れようとしたのである。
「ちょっと痛みますが、我慢してください」
ぼくは何が起こるか早々と察知すると、怖気を震い、ブルーノは、すっかり目覚め、治療の激痛に悶絶した。
「うううぅうぅう……!」
彼の悲痛な叫び声が響き渡り、ぼくは目を瞑ると同時に耳を塞ぎ、いたたまれない気分になった。ドキドキと心悸が激しくなり、彼の叫び声は、心臓に悪かった。
「フリッツくん!」、と薬師がブルーノに負けない大声で呼ぶ。「気分が悪いのであれば、外に出ているのがいいですよ。無理に付き合う必要はありません。こういう場面に立ち会うのは、気力が要るものです」
後ろでじっと見守っているコンラートさんも、ぜひそうするよう、促すように目配せし、ぼくは、彼らの勧めに従って外に出、しゃにむに疾走し、耐えがたい拷問じみた現場より離脱した。
外に出ても、ブルーノの叫び声は聞こえ続け、その声はやがて、嗚咽の混じったものになり、ブルーノは、泣いていた――。
外は、家の中でのことが嘘のように爽やかだった。
ぼくはドッと疲れて川辺で止まると、前屈みになって肩で息をした。
「いったい、何だっていうんだよ……」
ブルーノが回復し、まともに意思疎通が出来るようになるまでには、どれくらいかかるのだろう。
そもそも、彼は回復するのか? 彼は完治するのか? それとも、薬師が悲観的に言ったように、後遺症が残り、不如意になり、ぼくとの旅に重い支障を来すのか?
分からなかった。ただ、運命の導きに、すべてを委ねるしかなかった。
川辺の砂利に膝を突いて四つん這いになり、川の瀬に顔を浸ける。冷たい流れを、肌に感じる。緊張して高くなっていた熱が、落ち着く。だが次第に息が苦しくなる。ブクブクブク、と口より気泡が漏れて上がる。
やがて耐え切れず、顔を上げる。水を滴らせて、茫然と何度も、深く呼吸する。
ううぅうぅう……という、治療の激痛に耐えるブルーノの、今まで聞いたことのない声色の叫びが、耳にまた聞こえる気がする。
「ブルーノ……」
涙が、流れた。悔し涙だろうか。それとも、彼を失ってしまうという予感に、悲しくて出た涙だろうか。
秋の冷たい空気が、不安に慄くぼくを、更に心細くしていく。
***