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「信じるしかないわ」
ミアが心細そうに、だけど一縷の望みは決して捨てないという風に言った。
川辺にミアと並んで座り、話しているところだった。
「どう見ても、ブルーノさんの体はボロボロに違いない。後遺症が残るらしいし、ひょっとしたら命に関わるかも知れない。でも、医者ではないわたしたちには、どうしようもない」
「分かってるさ」、とぼく。「もう、覚悟は出来てるつもりだ。ブルーノがどうなろうと、ぼくは終わりまでちゃんと見届けたいと思う」
――ブルーノの容態がまだ安定しない落ち着かない日々を、ぼくらは過ごしていた。
ちょくちょくヒマを見つけては会うようにしていたが、ぼくとミアはお互いに、口を開いても、ブルーノの話しか出ず、気を揉んで明るい話題をしゃべろうにも、パッと思い浮かばないし、露骨に取り繕った感じも拭えず、結局、索然として、中途で黙りこくってしまうのだった。
ぼくは、コンラートさんの身辺の世話と、ブルーノの看病をする薬師のサポートに、ミアは、パン屋の仕事に、明け暮れした。
晴れた日が続くかと思えば、雨が降り、そして雨が降るごとに、気温が下がっていき、秋が深まっていった。
朝起きると、まずはブルーノの具合を確認するのだが、いつも、彼の横たわった姿と共に目に入るのは、薬師の姿なのだった。殊勝だと感心したし、反対に自分の至らないことを恥じ入った。名を尋ねると、謙遜した様子で、リフレと名乗った。
背が高く、袖口の広い足まである暗緑色のローブを羽織っている。詳しくは知らないが、年齢に関しては、壮年のようで、その髪はしかし、すでに大半がグレー色になっている。長くも短くもなく、しっとりした髪質だった。瞳は常に落ち着いていて、ブルーノの異変にも動じず、口も同様、キッと一文字に結ばれている。シュッとして輪郭で、やや老け込んでいる点を除けば、男前と言える容貌だ。リフレは、そういう男性だった。
リフレは、夜も、ぼくがウトウトしだしてからも、まんじりともせず怪我人の看病に務めた。外の牛車の牛の世話をしに外出することがあるが、その他の時間は、絶対に、ブルーノのそばにおり、彼の容態を注意深い目で見ていた。
ぼくはある日の夜、コンラートさんが寝入った後、「どうして」、と訊いてみた。
「どうして、ここまで尽くしてくれるんですか? ぼくらは何の面識もないのに」
「そうですね」、とリフレが答える。「確かにわたしたちの間に面識はありませんが、ちょっとした縁で繋がったのでしょう。わたしは、ちょうど旅路の途中で、新しい薬草でもないものかと山道をブラブラしていたところで、特に先を急いでいるわけでもありませんでした。何よりわたしは薬師で、ひとの怪我や病に効き目のある薬を作り、売るのが商売なので、ブルーノさんのような怪我人を目にして、見て見ぬふりするわけにはいかないのです。もしも、彼の負った傷が、数種の薬で治る程度のものならば、わたしもこうして何日も付きっ切りになる必要はないので、早々と退散しているでしょう」
――ぼくは、何も求められなかったが、義務感より、毎日リフレにお金を払った。いくら払えばよいか分からないぼくは、その日得た賃金としての銀貨三枚の内、一枚を渡した。
リフレはその銀貨を、礼を述べて受け取り、ぼくは、彼に銀貨を受け取ってもらうことで、妙な安堵感を覚えた。その安堵感は、ぼくが支払った金銭の対価への期待を源としており、つまり、リフレにお金を払うと、その分だけブルーノがよくなるという、そういうイメージがぼくの中に浮かび、そのイメージによって、ぼくは安らいだ気持ちになれるのだった。
そして、そういう慰安が、ブルーノを失うことに怯えているぼくには、とても必要だったのである。
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