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ブルーノの弱った体は、日にちが経つに従って、持ち直し、周りのまめまめしい世話は勿論、当人の生き延びようとする意志が助けて、ようやく安定を見込めるところまで来た。
小さい傷は自然に癒え、大きい傷は、痕が残ったが、おおむね塞がった。
しかし、ブルーノは重傷であり、健常に戻るには、障害が数多くあった。全快は困難だった。
右腕の化膿がひどかった一番ひどい傷は、膿は全摘したものの、痕が生々しく残り、しかも、神経を損傷したということで、手指が動かせなくなった。
リフレは万全を尽くしたが、とうとう匙を投げ、ぼくは最初信じられなかったが、ブルーノの暗然と諦めた様子を見、認めざるを得なかった。
ある朝、ぼくは上半身を起こしたブルーノの口にスープをスプーンで運び、調子はどうか尋ねた。
「……。」
ブルーノは魂が抜けたように黙然として答えなかった。
その右腕はだらりと力が入らず、手のひらは節度がない感じで開かれていた。
リフレはずっとそばにいたが、ブルーノの食事が済み、ぼくが再び彼を横たえ、食器を片付けると、そのタイミングを見計らっていたように、ぼくに耳打ちした。
ぼくは納得し、外に出、リフレとやや離れた大木の陰へと移動した。涼しい秋の空気が辺りに満ちていた。
「ブルーノのことですか?」、とぼく。
「えぇ」、とリフレが、神妙な面持ちで俯き気味に答える。
「本人のそばでは話せないことなんですか?」
「そうですね。でも、遅かれ早かれ、当人に告げないといけないことではあります」
「ブルーノは、どれくらい悪いんですか?」
「命に別状はありません。前に申し上げた通りです。しかし、体の損傷が激しい箇所がいくつかあり、中でも、重篤と思われるのが、背骨の損傷です」
「背骨?」
「えぇ、恐らく、どこか高所より落下するなどしたのだと思いますが、背骨が何かしらの衝撃を受けたらしく、そのせいで、神経がやられているみたいです」
「背中……確かに、土汚れが付いていたのは見ましたけど……」
「目に見える外傷は背中にはありません。しかし、内部で激しく損傷しているようで、つまり――」
リフレは言いにくそうに口を噤み、刹那、躊躇する素振りを見せた後、決心したように口を開いた。
「――ブルーノさんは、もう歩くこともままならない体になっておられます」
「えっ……」
ぼくは絶句した。リフレが何を言ったのか、聞き返そうかと思ったが、気が進まなかった。その事実が包含する重みが余りにも重く、改めて明確に言われることが怖かった。
「簡単に説明すると」、とリフレが言う。「背骨というのは、体のあちこちに張り巡らされている神経のターミナルのようなもので、外部の刺激を情報として伝えると同時に、手足を動かす時などに、脳からの命令を伝える中継地点のような役割を果たすんですね」
ぼくは、リフレが易しく説いてくれる話を理解しようと、ショックで鈍くなっている頭を強いて回転させようと努めた。
「その背骨がダメージを受け、完全にダメになっているというわけではありませんが、まぁ、けっこう損なわれていると見まして、従って、ブルーノさんのお体は、以後、まだ全部確認出来てはいませんが、各所に麻痺を起こし、思うように動けないと思われます。大変、お気の毒ですが……」
ぼくは何も言えなかった。確かにブルーノは死なずに済むだろう。彼は生き延びるだろう。だが、重い後遺症を伴って、である。
ブルーノは、このことをまだ知らない。あるいは、何となく推知しているのかも知れない。そうであれば、話しやすいが、都合のいい妄想に過ぎない。
彼がもし、じぶんがすっかり治って、また元気に旅が出来るとでも予期しているのであれば、彼は、みずからが失ってしまった自由を知らされた時、大いに落胆するに違いない。
彼はどういう顔をするだろう。笑って済ませられるだろうか。もしくは、すっかり挫けてダメになってしまうだろうか。
胸をギュッと締め付けられるような感覚が止まず、苦しい……。
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