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「チッ」、とブルーノは忌々しそうに舌打ちした。
コンラートさんの家の中で、わずかではあれ、ようやく活力を取り戻した彼は、ぼくの助けを借りて、寝床で上半身を起こし、壁に背中をピタリと付け、姿勢を正した。
彼は前と比べて、よく舌打ちするようになった。
いつも決まった仕方で舌打ちし、彼はみずからの思い通りにならない腕や足を睨んで、そうするのだった。
ぼくとリフレは、よい機会を窺っていたが、いつになれば、その時がやって来るのだろう。どういうタイミングが、彼を絶望に陥れるに違いない話を、彼自身に打ち明けるに相応しいタイミングなのだろう。
――いつまでも来ないに違いなかった。その話は、あらゆる気兼ねや同情を忍ぶことが出来る冷徹さを備えていなければ、永遠に無理だった。
「なぁ、お兄さん」、とブルーノは、その顔の半分を、まるでどういう表情を作ればよいのか分かりかねるように、クチャクチャにして話しかける。
「アンタ、医者か何かだろう?」
「薬師です。あまり胸を張っては言えませんがね」、とリフレが遠慮がちに応じる。
「もうずいぶん横になっている気がするが、右腕も右手も、右脚も、自由に動かせないんだ。オレって、どれくらい悪いんだ?」
「……。」
リフレは答えようとして息を吸うが、発言せず、刹那、間を置いて「まだはっきりとは分かりません」、と言った。
ぼくは、ドキドキしていたが、ホッと胸を撫で下ろした。
「傷はおおむね塞がりましたが、傷口が塞がっただけで、内部がまだ治り切っていません。目視ではそこそこ治っているように見えても、その実は違うのです」
「そうか」、とブルーノは顔の半分だけに苦笑いを浮かべる。「やれやれ、不便極まりないな。体の半分だけしか動かないっていうのは、大変だ」
「ブルーノさん」、とリフレが呼びかける。
「もしよろしければ、どうしてこうなったのか、お聞かせ願えないでしょうか? 下世話ですが、ここまで大小様々の傷を診て施療していると、自然と関心を持ってしまうのです」
「ぼくも、知りたい」、と、ぼくも、彼の打ち明け話を求めて言い添えた。
「そうだなぁ」、とブルーノは、動く方の手で後ろ頭を掻く。
その振る舞いは、半ば照れ臭そうに見え、半ば鬱陶しそうに見えるのだった。
「もう長いこと寝てたせいか、遠い昔のことのように思うが、おれは、お前を置いてこの村を単身発ち、とりあえず、山中をブラブラしてたんだが……」
雨が降っていた。しっとりした空気が漂っていた。雨脚は強くないが、長い時間降り続く地雨のようだった。込み入った話をするには打って付けの日和だった。
――山中を行くブルーノは、事前に見当を付けていた場所を求めて進んだ。地図に目印を付けておいたという。その場所というのは、教会や聖堂などの宗教施設であった。『教団』は勢力拡大を図っているとミアが以前、言っていた。彼らが盛んに活動していると考えれば、どこかに拠点を設け、そこを足掛かりに、領域を広げようとするだろう。そして彼らが欲するのは信者であり、彼らの活動の障害となるのは異教であり、従って、『教団』の敵は、まず、他の宗教の聖職者なのであった……。
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